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8.ポーション

 彼女は俺に何度も感謝を伝え、村はずれに向かうと言う。

 族長宅から崖壁と反対方向へ進むと湖が見えてきた。さざ波が立つほどなので、結構な広さがあると思う。

 それほど深さはないようで、岸から50メーターほどのところに灌木が突き刺さって湖面から出ているのが見て取れた。

 

 岸辺にそって少し歩いたところには石柱が何本も並ぶ広場に出る。

 彼女の両親が眠る石柱の周囲は手入れがされておらず、雑草が如何なく自らを主張していた。

 せめて草を抜いて石柱の泥くらい落とそうとしゃがんだら、彼女から待ったがかかる。

 

「××××」

『どうか、そのままでお願いします』


 「××」と彼女は呟いたのだけど、独り言と判断したのかファフサラスはリピートしてくれなかった。

 彼にわざわざ聞くと言うのも彼女の表情から憚られる。

 彼女の浮かべた薄い笑みは故人を偲ぶようなわけでなく、何だか放っておけないような、触れると壊れてしまいそうな、そんな危うい雰囲気があった。

 両膝をついた彼女は胸の前で手を組み、祈りを捧げる。


「××××、×××」

『先に私からとお気遣い、ありがとうございました』

「いや。俺の方は急ぐものでもない。やっと村に帰ってこれたんだ」

「××××、××」

『ヨシタツ様は旅に必要なものを集めたいのでしたね?』

「うん。もちろん、対価もなしに物資を手に入れようとは思っていない」


 何だ。その驚いた顔は。

 ファフサラスに至っては、首を上げ中途半端に口が開いたまま完全停止しているじゃないか。

 こいつら、俺を何だと思ってんだよ。

 

「××、××」

『竜の巫女のことでお礼くらいは出してくれるのではないでしょうか?』

「いやいや。竜の巫女廃止の件はファフサラスの計らいだろ? 俺は何もしていないことになっている」

『お主の力なら村ごと……むが』


 駄竜の吻を両手で挟み黙らせる。ベルヴァが戸惑っていたのはそういうことか。

 無償提供してもらえるものと考えていたからなのだな。残念ながら設定上無理だ。

 元より無償提供してもらうつもりなんてないのだがね。タダより高いものはないってな。

 

「これと交換できないかな?」

「×××……××××!」

『これは……まさかポーションですか!』

「低級らしいけど、猛獣が多発するこの地域なら重宝するかなって」

「××××?」

『良いのですか?』

「もちろん。一個だと足らないと思うから――」


 ボトンボトンとポーション(低級)が地面に転がって行く。

 20個くらいでいいかな?

 雑に拾い集めて、袋につめ、ベルヴァに持ってもらう。

 ポーションは栄養ドリンクの瓶くらいの大きさがあるので、袋がパンパンになった。

 

「×××、×××!」

『英雄様は薬師様でもあったのですか!』

「ポーション(低級)でよければ、まだあるよ」

『これだけあれば旅に必要な物を一通り集めてお釣りがきます』

「族長に言えば交換してくれるかな?」

「××××!」

『行ってきますね!』


 そう言った彼女はパタパタと一人、族長のところに向かう。

 取り残された俺とミニドラゴンは顔を見合わせ、お互いに歯をむき出しにする。


「まさかの展開だ。お前と二人で放置されるなんてな」

『お主がドラゴニュートの言葉を理解できぬからだろう?』

「ドラゴニュートどころか、人間の言葉でも理解できんわ!」

『情けない奴め』

「当たり前だろうが! お前がこの世界に呼んだんだろうが! 別世界の言葉なんて分かるわけないだろ」


 「なにをー」と取っ組み合いになりそうになったが、こちらから手を引く。

 さすがに大人げが無さ過ぎた。こいつは元凶である。しかし、今は一応協力関係だ。

 決して礼を言う仲ではないが、ギブアンドテイク、ビジネスライクに付き合っていかなきゃならない。

 他に戻る手段を発見したら、この限りではないがね。

 

『まあ、我も力を取り戻すためとはいえ、言語を理解できぬお主にできる限り協力するつもりだ』

「そのことで相談というか確認したいことがあってさ」


 駄竜は駄竜でバツが悪いと思ったのか、しおらしくこちらに歩み寄る姿勢を見せた。

 最初はこいつを絶対に抹殺してやると念仏のように唱えながらチュートリアルバトルに励んだものだ。

 成り行きとはいえ共に旅をすることになったのだけど、会話は通じるし、このまま持ちつ持たれつでいきたいものである。

 なんだか同じことを考えているな……慎重な俺は同じようなことを何度も検討を重ねる習性を持っているのさ。

 

『で、何だ?』

「頭の中に響く声ってさ、音が出る声と同じで自分の周りから数メートルの範囲で聞こえるんだよな?」

『そうだな。概ねそのようなところだ。詳しく語ってもお主の……いや、この先は言うまい』

「……。今のは聞かなかったことにしてやるよ。それでさ、族長の家を出た時に小屋でお前と会話しただろ?」

『そうだったかな』

「あの時、扉から出てきたベルヴァさんにお前の声が聞こえていなかったような気がするんだ。ひょっとして特定の相手にだけ聞こえる、とかもできるんじゃないのか?」

『できる。むしろ、相手を限定する方が思念を送りやすい』

「分かった。ありがとう」


 ふむふむ。店で買い物するくらいだったら言語を理解していないことを誤魔化せそうだな。

 この後、「腹が減った」とかのたまって湖に飛び込んだファフサラスをぼーっと眺めていた。

 

 ◇◇◇

 

 村の青年が土嚢袋のようなものを積んで行く。口も閉じられていないので中身は丸見えである。

 数えてみたら全部で8袋もあった。中身は全て薬草とのこと。

 俺は今、よく手入れされた客人用のドーム型の住居にいる。族長の家よりゴージャスな内装な気が……客人向けだからだろうな。

 成り行きとはいえ……騙すようで心苦しい。

 いやさ、ベルヴァにポーション(低級)を託して、物々交換をしに行ってもらっただろ?

 均一で透明なポーションは滅多に見ないほどの高品質な一品だといたく感激されてさ。

 「是非、是非、お食事を」と族長が言っていると湖のほとりで待っていた俺たちに戻ってきたベルヴァ越しに聞いて、ファフサラスに俺だけに翻訳してもらうように根回ししてから族長宅に行ったんだ。

 すぐに俺がドラゴニュートの言葉も人間の言葉も理解できないってバレた。よくよく考えてみると直ぐに分かることだったんだよ。

 俺が喋った途端に、どちらの言語でもないって族長が気が付いた。


「遠い異国の地から旅をしている薬師様なんです」と咄嗟にベルヴァがフォローしてくれたので事なきを得た。

 ここからは勘違いの連鎖であったが引くに引けず……。

「このポーションはあなた様が作成されたのですか?」

「あ、は、はい」

「不躾で申し訳ありませんが、ポーションを少しでも作成していただけませんか……?」

「作成、ですか」

「20本もお持ちいただいた中、恐縮です。薬師様のお手持ちを数本残し、我らにご提供いただけた。これ以上は強欲と理解しています。材料も逗留される間のお食事と宿を提供させて頂きます。何とぞ……もちろん、完成したポーションは買い取りさせて頂きます!」

「は、はい……」

 

 とまあ、こんな感じでポーション作りに励むことになってしまったのだ。

 チュートリアルバトルをクリアしてポーションを生成するのは、ポーション作成に当たるのだろうか。作り方なんて微塵も分からん。

 当てがわれた家に置かれたベッドに寝転がる。 

 ふむ。ここには今、俺しかいない。窓を閉めれば外から中の様子を窺い知ることはできなくなる。

 

 俺はおもむろにポーションをドサドサとアイテムボックスから出し、村から提供された空瓶に詰め替える。


「よし、完成だ」

『お主……』


 いそいそと作業を進める俺に対し、呆れたように小さな炎を吐き出すファフサラスなのであった。


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・タイトル

緑の魔女ルチルの開拓記~魔力無しと追放された元伯爵令嬢ですが、実は魔力が数倍になっていました~

・あらすじ

魔力無しと追放された女の子が実は計測できないだけで膨大な魔力を持っていて、その力と仲間たちと協力して快適な村を作って行くおはなしです

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