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47.調査だぜ

「……というわけなんだ」

「なるほどねえ。うんうん」


 アリアドネから再度説明を求められた俺は、奇妙な病について再度語る。

 おんなじことを喋ったわけだが、やはり本事象を病と呼ぶには疑問符が浮かぶ。

 

 一方でアリアドネは時折触覚をピコピコ動かしつつ、頬まで口が裂けたり戻ったりと忙しなく動いていた。

 

「やっぱり魔法かな?」

「可能性の一つとしてはあるわね。だけど、魔法という仕組みからは逸脱しているわ」

「ん、それじゃあ魔法ではないのでは?」

「そうね。だけど、元となるものは魔法よ。だけど、魔法単独では実現できないんじゃないかなってね」

「なんかややこしいな」

「だけど、やっぱり魔法単独かもしれないわ。なので、可能性の一つよ」

「わけがわからなくなってきた」

「あはは。私の知るところでは実現できないけど、私じゃあ浮かびもしない術式を使っているのかもしれないでしょ」


 ギギギギと愉快そうに音を鳴らされても困る。

 ま、待てよ。考えを整理するからな。大丈夫、頭の回転が良い方ではないことを自覚している。

 それでもあらゆる角度から何度も何度も時間をかけて考察すれば、それなりの答えはでてくるものなのだ。出てこない時もあるけどね。

 ともあれ、魔法を科学に置き換えて考えてみよう。

 18世紀の科学ではできないと思ってたことや想像もできなかったことが21世紀の科学では証明されて実用化していたりする。

 お、ストンと落ちた。

 アリアドネの知る魔法理論というものは、魔法理論の全てではない。

 

「おっけー理解した。問題ない。一つの可能性……ええと、魔法単独では実現できないケースはどんなのがありそうだろ?」

「秘宝か、十二将のどちらか、かしら」

「魔法に何等かの変化をもたらす原因ってことだよな?」

「そうね。特定はなかなか難しいかもしれないわよ」

「秘宝や十二将が原因として、王都とバリアスは距離があるしなあ」

「同じものは二つとない。秘宝も十二将もそういうものよ」


 そこだよ。そこ!

 同じものが二つとないのに、王都とバリアスという地理的に離れた場所で同じような事象が起こっている。

 それならまだ魔法の方が現実的じゃなかろうか。

 怪しげな邪教集団……いや、純粋な研究組織とかでもいいのだけど、極少数の組織が新術式を開発して使っているとか。

 おっと、肝心なことを聞いていなかった。

 

「アリアドネ。元となる魔法は回復魔法なのかな?」

「魔法とするなら、その可能性が極めて高いわ。似たような効果を発揮する何かかもしれないわよ」

「一ついいか」

「何かしら?」

「可能性として十二将はないんじゃないかな? 十二将ってアリアドネやファフサラスみたいな感じだろ? だったら、近くにいると気が付くんじゃない?」

「そうね。もしバリアスに十二将がいたとしたら、すぐ分かるわ。十二将の内包する力は大きいから隠していても、私には分かる」

「そんじゃ、ま。十二将はないってことで」

「十二将そのものじゃなくて、十二将は私のように眷属を持つ者もいるわよ」

「……そうか。う、うーん。可能性を減らしたかったけど、難しいな」

「どうしたの?」

「せ、整理する。ちょっと待って」


 額に手を当てつつ、眉間に皺を寄せる。情報量が多すぎて追いつかねえぞ。

 原因は三つある。魔法としたら、複数人がいてそれぞれ王都とバリアスにいるかも。

 残り二つのうち秘宝は話が単純だ。秘宝は一つしかない。なので、秘宝が原因としたら王都とバリアスを移動している。

 誰かが持ち歩いているんだろうけど、王都とバリアスはバリアスとドロテアくらいの距離がある……とベルヴァから聞いた。

 気軽に移動して戻って来れるような距離じゃないよなあ。

 十二将が原因の場合は眷属が王都とバリアスの双方にいる。眷属が人間に近い生物じゃないと街中に紛れて魔法をかけることは難しい。


「う、うーん、お手上げじゃないのこれ?」

「実物を見て痕跡を辿るのがいいんじゃない?」

「辿れるの?」

「残滓が残っていれば。できれば、動いている検体がいいわね」

「とりあえずの目標ができてよかったよ。ありがとうな」

「ううん。おもしろそうな話だったから。私も街に出るわ」

「俺とベルヴァと行動を共にしてもらえるか?」

「そのつもりよ。ニンゲンのことなんて分からないもの。闇雲に探したくはないし」


 この言葉を最後に相談が終わる。雲をもつかむ話だったけど、一筋の光明が見えた。

 「おやすみ」とアリアドネに向け手を振り、宿屋のベッドに戻る。

 

 宿屋に戻ると、ベルヴァがお裁縫をしながら俺を待っていた。俺の顔を見るとパタパタと魔法でお湯を沸かし紅茶を入れてくれるお世話ぶりに感謝より悪いなという気持ちが先に立つ。

 旅の疲れもあるのだから、寝ててくれてよかったのに。

 駄竜は俺のベッドで熟睡中である。こいつはもう少し気遣いというものを教え込まないとな。ベッドで寝るのはいいが、真ん中を占領しなくてもいいだろう?

 後で枕元に移動させよう。

 

「ありがとう。ベルヴァさん」

「いえ。お話しは終わりましたか?」

「うん。当てもついたよ。アリアドネが病の感染者を直接調べてくれるって」

「さすがアリアドネ様ですね!」


 ずずずと紅茶を飲むとベルヴァも紅茶に口をつけた。

 ふう、落ち着く。そこでふと疑問が浮かんだ。

 

「病の調査って侯爵が直接動くほどのものだったから、疫病で人がバタバタ倒れているくらいと思ってたんだ。それとか患者が暴れて多数の死者が出てしまったとか」

「病と表現されていますが、死体が動くとか、髪の毛が伸びたり、と被害を及ぼすものではないというのに何故、ということでしょうか」

「そそ。他に致命的な事象があるのかもしれないけど……」

「異形の姿になってしまった、といったこともあるかもしれませんね。私は人間の王国のことに余り詳しくはありませんが」


 そう前置きしたベルヴァが何故、これほど深刻に受け止められているのか自分の思いを説明しはじめた。

 王国は国教制度を敷いていて、王国内には広く信じられている宗教がある。

 今回の病は宗教と慣習に多大な影響を及ぼすものではないのか、というのがベルヴァの見解だ。

 

「確かに。たとえば、死者の安寧を願って祈りを捧げる。その時に神父が回復魔法をかける……というのはありそうだ」

「はい。安らかにと願った魔法によって、死者が眠りにつけずに動き出す」

「鎮魂の祈りによって遺体が苦しんで動いてしまった……と捉えるのかもしれないよな」

「そうなると深刻です。一刻も早く、原因を調査し対処したいとなるのではないでしょうか」

「放置しておくと、原因は神父が邪だからだと糾弾されかねない、とかに発展すると事だ」


 なるほど。確かにこいつは深刻だ。

 ベルヴァと俺の考察があっているか分からないけど、宗教や慣習が絡んでいるからこそ王国や侯爵が直接出張っていると考えるなら自然だよな。

 

 

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・タイトル

緑の魔女ルチルの開拓記~魔力無しと追放された元伯爵令嬢ですが、実は魔力が数倍になっていました~

・あらすじ

魔力無しと追放された女の子が実は計測できないだけで膨大な魔力を持っていて、その力と仲間たちと協力して快適な村を作って行くおはなしです

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