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38.不動産

 お金がたんまりあるから、買い物をしたい放題だ。アリアドネの服だけじゃなく、俺のもベルヴァのも買いそろえた。

 ついでなのでミスリルの武器も買う? とベルヴァを誘ったのだけど、そのお金で家にしませんか? と逆に提案されてしまう。

 彼女は俺がミスリルの武器や防具を買わない限り遠慮しちゃうのかな?

 ぶっちゃけ、俺にとってミスリルの武器は軽すぎて使えないし、防具も動きを阻害するだけで邪魔なんだよね。

 当たらなければどうということはない、という名セリフがあるだろ? つまりはそう言う事だ。

 慎重な俺が当たった時のことを考えていないのかって? そんなわけはない。

 俺の体の方がミスリルより頑丈なのだ。ダメージの軽減より動き辛くなることの方がデメリットが大きい。

 ちゃんと考えての結果だぞ。勘違いしないでよね。

 

「ヨシタツ様、これもいいですか?」

「あ、うん。任せるよ」


 キラキラした目で種の入った袋を「これも、これも」と手に取るベルヴァの姿に癒される。

 俺がしょうもないことを考えている間にも彼女は農家ご用達のお店でいろんなものを選んでくれていた。

 種とか農具はそれほど高いものじゃないから、ガンガン買おうと彼女に伝えている。

 荷物の多さを一切気にする必要が無いからな。嵩張るもの、どんとこいだ。

 

 お、こいつは中々いいんじゃないか?

 ピカピカに磨かれたクワを手に取り、掲げてみる。

 

「クワはまだでした。シャベルとスコップも二つ、いいですか?」

「もちろんだ。クワも二本にしておこうか」


 コクコクと頷くベルヴァはウキウキが止まらない。尻尾もさっきからご機嫌そのものである。

 お次は大工道具かな。ついでに材木もどどんと買っておこう。

 

 大工道具を買いそろえた後は、中古の住居を探しに行く。不動産屋とかドロテアにもあるのだろうか?

 ベルヴァも村の事なら分かるけど、ドロテアの生活のことは分からない。

 ので、ウサルンのお店で彼に聞いてみることにしたのだ。

 すぐに彼が家を扱っている業者を紹介してくれて、業者の人が俺の希望を聞いてくれた。

 

「どうですか?」

「いい感じじゃないか」


 そこは街はずれも街はずれ。岩窟都市の裏手にある鄙びた場所だった。


「この辺りは岩窟都市が出来て以来、急速にさびれていきまして、今では一世帯しか住んでいません」


 業者のノームのおじさんが白い髭をさすりながら現状を教えてくれる。

 これから購入しようとしている人にさびれたという言葉は余りよろしくないものだが、実直な彼の性格を表しているようで俺にとっては好印象だ。

 住居の多くはボロボロで崩れ落ちていたが、案内してくれた家は比較的新しく掃除をすればそのまま使えそう。

 外から見た感じ、二階建てで70~80平方メートルくらいの居住空間かな?

 

「住めなくはない家屋です。隣の廃屋の方が解体しやすいかと存じます。お値段はどちらも10万ゴルダです」

「土地の中に入っているものは全部ですか?」

「はい。家屋、畑跡も含めて、になります」

「ありがとうございます。では、まだ無事な方の家屋がある方でお願いできますか? こちらですと木材を再利用できそうですので」

「承知いたしました。では」


 ノームのおじさんがお店に戻ろうとするが、この場でお金を払ってベルヴァにサインをしてもらった。

 移動すると時間をとっちゃうからさ。ベルヴァに冒険者ギルドで受け取ったお金を全て持ってもらっているので、その場でキャッシュ払いも可能だったんだよ。


「はい。確かに。また何かございましたら是非お気軽にお訪ねください。今後ともごひいきのほどよろしくお願いします」

「あ……すいません! 一つ、お聞きしたいことが」

「なんでしょうか」

「購入したばかりで申し訳ないのですが、廃屋の方にしていただき、もう一つの家屋を家屋のみ購入することはできませんか?」

「解体されて更地にしてくださる、ということでしょうか?」

「はい。一応これでもAランクの冒険者なもので、明日には全て綺麗さっぱり片付けさせていただきますので」

「そうですね。正直、この辺りで住みたいと言う方は皆無です。何なら、この一帯全ての廃材をお売りするのはいかがでしょうか?」

「いいんですか?」

「もちろんです。ただ一世帯住んでおります。見ればちゃんとした家屋ですので間違えることはまずありませんのでご安心を。全ての廃材で3万ゴルダでいかがですか?」

「是非。お願いします」


 目尻が下がりっぱなしでノームのおじさんがペコペコした後、この場を去って行く。

 残されたのはぽかーんとしたベルヴァと暇すぎて地面に伏せて眠っている駄竜のみ。

 

 何でわざわざガラクタまで買い取ったのか意味が分からないといったところかな。もちろん、寝ている駄竜ではなくベルヴァが、だ。

 言わなくても分かるって? そいつは失礼。

 

「念のため近くに人がいないか探ろう」

「問題ありません。一番近くにいるのが先ほどの方だけです」

「なら、遠慮なく」


 手始めに無事な方の家屋に手を当て収納する。

 ノームのおじさんには壊して建て替える体だったけど、誤魔化すための方便だ。

 これで彼との約束通り、「更地」にしたぞ。隣の廃屋はそのまま残す。ついでなので瓦礫やら廃材も買い取ったことだし、綺麗にしておくか。

 手を当てて次々に収納しつつ、ベルヴァへ説明を始める。

 

「この廃屋だけを残すのが重要なんだよ」

「そういうことですか。さすがヨシタツ様です!」


 そういうことなんだよ。察しの早い彼女へこれ以上の解説は必要ない様子だった。

 冒険者だから土地を購入して、住んでいなくても長期間に渡り冒険している、と言い訳が立つ。

 俺たちがいない問題は冒険者だからと避けられることは、事前にベルヴァと確認し合った。

 なら別に住めそうな家を収納するだけでいいじゃないかと思うかもしれない。

 廃屋を残すと、廃屋の中へ入れば外から俺たちの姿が見えなくなるんだよ。だったら、廃屋の中に入ってからアイテムボックスの中に入っても誰にも見られることが無くなるというわけさ。できれば本物の家があった方がいいんだけど、大工に頼んでどれだけの値段になることやら……工期もかかるだろうしなあ……。

 ドロテアで夜を過ごす時には廃屋を利用してアイテムボックスの中で休むことができるってわけさ。

 これが廃屋を残した理由である。

 

「家を手に入れたし、いろんな道具や種を買いそろえた。これで快適に夜を過ごせそうだな」

「いえ、まだです」

「お、おう?」

「せめてヨシタツ様用の寝具や家具一式を揃えませんか?」

「そいつは重要だな!」


 家があっても馬車の時と同じじゃ、家を購入した意味がない。

 快適に暮らせてこその家だよな。うん。

 実際、家の中で夜を過ごすとまだまだ足らない物が出てきそうだな。なあに、明日もあるんだ。まだまだ買い物をする時間はある。


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・タイトル

緑の魔女ルチルの開拓記~魔力無しと追放された元伯爵令嬢ですが、実は魔力が数倍になっていました~

・あらすじ

魔力無しと追放された女の子が実は計測できないだけで膨大な魔力を持っていて、その力と仲間たちと協力して快適な村を作って行くおはなしです

― 新着の感想 ―
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