37.行き先
「ベルヴァさん。俺の……いや、俺たちの目的は何だったか整理してみよう」
「目的ですか。冒険者になり、行商をできるようにすること、ですよね」
「うん。そして行商をするのは」
「秘宝の情報を集めるため」
「そそ。今回の依頼は一足飛びに行商を通じて情報を収集せずとも、『調査依頼』を盾に聞き込みができるんだ」
「受注しましょう!」
グッと両手を握りしめ尻尾だけでなく笑顔も浮かべるベルヴァ。彼女が表情まで動かす時は喜び方も数倍なんだぜ。
うまくいけば行商をするより遥かに多くの情報を集めることができる。
王都とバリアスは今俺がいる王国の中でも有数の都市とのことだし、調査依頼なら貴族や騎士団ってところにも聞き込みができるかもしれない。
ん、待てよ。
「ベルヴァさん、ここは王国なんだよな?」
「はい。そうです」
「となると、別の国もあるのかな?」
「はい。ございます。他国でも行商をとなりますと、冒険者ギルドの許可で問題ないか聞いておきますか?」
「調査依頼が終わってからでもいいかな」
「承知しました」
よっし。ベルヴァと意見を同じくできたことだし、早速依頼を受けちゃおう。
その時、ぶわっと頬に熱風が触れる。
「ご飯は後だ。ファフサラス」
『お主、我に意見を求めぬのか?』
「人間社会のことだからな、ファフサラスにも聞きたいことがあるから楽しみに待っておけ」
『楽しみになぞしておらん』
はいはい、と駄竜の頭をポンポンとした。
そんな俺の手を噛みついてこようとした駄竜の口を華麗にかわし、ギルドマスターの元へ向かう。
「謎の病の調査依頼、俺たちも受けます」
「ありがとうよ。集合場所が二か所あるがどっちにする?」
「どっちとは?」
「ほれ、依頼書のここに。王都かバリアスのどちらかで集合になる」
ほれと見せられても文字は読めないので、適当に相槌を打ち詳細はベルヴァに聞くかと分かったふりをする。
どっちにしようか。人口が多いのは確実に王都だよな?
顎に手を当てた時、隣まで来てくれたベルヴァが助け船を出してくれた。
俺が書状を見て困っているとすぐに動いてくれたのだろう。ありがたい。
「王都とバリアス、どちらになさいますか?」
「王都かなと思っているのだけど」
「私も王都に賛成です。バリアスはバリアスで利点もありますが、私の考えを聞いてくださいますか?」
「ありがとう」
お礼を言うと、彼女は俺の持つ書状を指さしながら説明していく。
彼女の頭で書状が隠れるけど、元々読めないから全く問題ない。「読んでいる風」を彼女が演出してくれているだけだからね。
王都は俺の予想通り、王国内で最大の人口を誇り、政治の中枢のため多くの貴族が政務に当たっている。
国の防衛を行う騎士団もあるし、モンスターとか犯罪集団の情報も聞けそうだ。
王都の集合場所は騎士団の詰め所で、副団長が対応してくれることになっている。
一方、バリアスはここドロテアと同じくらいの都市で、三大都市の一つに数えられるそうだ。残り二つはドロテアと王都である。
集まる情報量の期待値は王都に及ばないが、大きなメリットがあるのだ。
それはバリアスを領都とするバリアレス侯爵が応対者であること。バリアレス侯爵の御旗があれば、非常に動きやすくなる。
王都の副団長だと杓子定規な対応になり、後は勝手にどうぞ、の可能性もあるからね。
「ベルヴァさんはどう思う?」
「ヨシタツさ……私たちの最終目標を考慮いたしますと、バリアスが良いのではと思います」
「うん。俺も最初は王都だよな、と思っていたけどバリアスの方が何かと融通が聞きそうだと思っている」
「では、バリアスになさいますか?」
「懸念もあるんだ」
ちょこっとだけギルドマスターから離れてちょいちょいとベルヴァを手招きする。
距離が近い……。わざわざ髪の毛をかきあげて耳を露出までして、待ち構えられましても。
「貴族と関わることにちょいと不安があるかなって」
「バリアスで暮らしていくつもりがおありなのですか?」
「そうだな。言われてみれば確かに。よし、バリアスにしよう」
「はい!」
今回の依頼が終わった後に貴族が変な絡み方をしてきて行動を制限されたら嫌だなと思っていたけど、領土外に出てしまえばいいか。
それでも煩わしかったら国外に行けばいい。俺は特定の国に所属しているわけじゃないし、アイテムボックスがあればどんな場所でも暮らしていけるからね。
たまに道具を仕入れた方が楽に暮らしていけるものの、完全サバイバルでも問題ない。
その点は駄竜の住処からドロテアに来るまでで実体験したし、大丈夫だ。むしろ、駄竜やアリアドネにとってはその方が向いているとまである。
「どうだ? 内緒話は終わったか?」
ぬうっとマスターが後ろから覗き込んできた。
「決まりました。バリアスに行きます」
「あいよ。一応、馬車を用意している。護衛依頼を受けてもいいぜ。自腹でいってもいいぞ」
自分で行きたいところだけど、場所が全く分からん。どうしよっか。
この場は一応、用意してくれた馬車とやらのことを聞いて、乗車券代わりの証書を受け取った。
◇◇◇
「いやいや、時間が無さ過ぎだろ。冒険者ってのはどんだけ刹那的なんだよ」
「冒険者は自分で持てるだけの荷物で基本動いていますから」
「預かり所みたいなところもあるのかな?」
「ございます。人によっては複数の街に物を預けている人もいます」
冒険者ギルドを出たところで、さっそく不満を口にする小心者の俺。
中だと聞こえちゃったら嫌だもんね。
ギルドマスターが用意してくれた馬車は、なんと明日の昼に出発だったのだ。
「ウサルンさんのところにお願いしている『言葉の赤』を受け取ってから動きたい」
「間に合わなければ私の分は無しでも構いません」
「いや、仲間全員で意思疎通できることが最重要だと思っているんだ。となると、地図だな」
「地図……まさか……」
「うん。ジャンプで行こう」
「やっぱり……で、ですが、アリアドネ様もいらっしゃるんですよ」
「あああ。そうか。ジャンプ中はアイテムボックスの中に誰かしら入ってもらわないといけないか」
ともあれ、元々買い物のために早めに戻って来たのだ。
買い物に行こうぞ。お金もちゃんと受け取ったことだしね!




