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33.人間とドラゴニュート

「ふああ。良く寝た」


 んんん-と伸びをする。ベルヴァは既に起きて馬車の外に出ているようだ。

 夜中に彼女が何やらブツブツと呟いていたような気がするが、眠くて応えないままだった……かもしれない。うーん、寝ている時って記憶が定かじゃないんだよな。

 駄竜は昨日寝た場所から動かしていないので馬車の中にはい……いるじゃないかよ。駄竜はちゃっかり布団の上で寝息を立てている。

 この馬車は前座席と後座席の上に板を置くことでフラットな居住空間にできるのだ。しかし、板を置いてから一度だけ取り外しをしたものの、以後ずっと板を置きっぱなしである。

 馬車に乗っているフリをする時も御者台だし、馬車の中を使う時といえばアイテムボックスの中で寝る時だもの。

 

 馬車の外ではベルヴァが朝食の準備をしているところだった。野菜を洗ってでもいるのかな?

 彼女はしゃがんだ姿勢でテキパキと手を動かしていた。

 俺の気配に気が付いたのか、俺から見て後ろ向きの彼女の尻尾がピクリと上がる。

 

「おはよう」

「お、おはようございます」


 手を動かしたまま、ぎこちなくしゃがんだまま顔だけをこちらに向けるベルヴァ。

 表情が心なしかいつもより硬い。

 彼女にばかり任せていてはと、俺も彼女の横に並んで土のついた野菜をゴシゴシとたわしのようなもので洗う。

 彼女から「そのような些事は私が……」なんてことを言われるでもなく、無言の時が過ぎる。

 なんとなく気まずい。言葉が通じなかった頃はこうして無言で一緒に作業をしたことがあったのだけど、気まずさなんて感じたことがなかった。

 耐え切れずこちらから声をかけようとしたら、彼女と被った。

 

「あ……」

「あ、何か言おうとしてた?」

「は、はい。大したことではないんです。本当に大したことじゃないんです」

「お、おう。でも、気になる」


 これは絶対に何かある感じだよ。あからさまに動きが怪しくなるし、野菜を洗う手も止まっている。

 彼女は顔を俺と反対側に向け、か細い声でもごもごと囁く。

 

「き、聞いていましたか……」

「あ、えーと。何か寝言らしいものは聞こえたけど」


 これって夜に何か呟いていたのを聞いていたかってことだよね?

 俺の回答が合っていたようで、彼女がこちらに顔を向けワタワタと両手を振りながら言葉を続ける。


「き、気にしないでくださいね。ちょっとした興味です。いえ、ちょっとではなく些細な、です」

「え、えっと。人間はドラゴニュートに興味がうんぬんだっけ」

「あ、ああう。い、言わないで……」


 人間から見たドラゴニュートか。

 俺基準だとドラゴニュートは外見こそ異なれど、内面は人間と似たようなものだと考えている。

 生活習慣とか慣習といったものや、言語も異なるから、そら考え方は異なっているけど、根本的なところでは同じじゃないかな?

 日本人とアメリカ人の気質の違い的なものだろと思っている。

 それを言い始めたら、ドロテアの街に住む人間と俺では大きく気質が異なっているからな。

 俺から見るとベルヴァもドロテアの街の人もそう違わない。外見は異なるけど、金色の髪の人もいれば、黒髪の人もいる。俺にとってはその程度なんだよね。

 

「ベルヴァさんは人間とドラゴニュートに何か思うところがあるの?」

「あ、いえ。人間と言いますか、あ、あの」


 どうも考えがまとまらないらしく要領を得ないベルヴァに代わり、俺から意見を述べるとするか。

 彼女だって俺の意見を聞いているうちに考えがまとまるかも、だしさ。

 

「俺にとってはドロテアの街に住む人間とはまるで異なる世界の人間だし、俺の知る人間とひょっとしたら違うのかもしれない」

「え、ええと」

「ごめん。俺は別世界から来たじゃないか。この世界の人間とそっくりだけど、本当に同種なのかは分からないって、どうでもいいことが気になっただけなんだ。深い意味はない」

「私には難しくて……すいません」

「いや、俺が変なことを。今のところ、俺から見た人間以外の種族はウサギ族を除き、多少の見た目の違いはありこそすれ、大して変わらないかなと思っている」

「ヨシタツ様から見たドラゴニュートもそう違わないと」

「うん。個体を見て種族全体を語るのは誤解を生むし、間違っているとは思うんだけど、俺のドラゴニュートに対する感想を言ってもいいかな」

「是非!」

 

 むっちゃ喰いついてきた。

 彼女は野菜を洗う手を止めるどころか、胸の前で小さく両手を握りしめひしと俺を見つめている。

 そんなに真剣に聞くようなことではないのだけど……ま、まあいいか。

 

「ギルドの依頼を受けてやっと分かってきたんだけど、ドラゴニュートって種族全体の平均レベルがとても高いじゃないか」

「ドロテアの街は平和ですから。ドラゴニュートは生活のためにある程度強くなる必要があります」

「それそれ。少なくとも冒険者ギルドでは強くて敬われているじゃないか。それでも、奢ることもなく謙虚でいい種族だなって思ったんだ」

「ありがとうございます! ドラゴニュートを避けているわけではないのですね!」

「避けるどころかとてもありがたく思ってるよ。族長からいろんなものを分けてもらったし。とても助かっている。ベルヴァさんにもいろいろ教えてもらっているし、街ではお世話になりっぱなしだよ」


 ここから先は敢えて口に出さなかったけど、もう少し落ち着いたらお世話になったベルヴァに何かお礼をしたいな、と思っている。

 

『何だ。やはりドラゴニュートの娘でもいいのではないか。ほれ、早く交尾をするならしろ。我の腹もそれほど持たん』


 ぬうっと駄竜が俺とベルヴァの間に割り込んできて下品なことをのたまった。

 

「ヨ、ヨシタツ様……?」

「ファフサラス、ベルヴァが困っているだろ! ふざけたことを言ってないで、起きたなら、とっととブレスをしろ」


 話題を変えるとあっさりと駄竜が乗ってくる。


『肉だな。肉なんだな。肉は大事だ。活力だ。欠かすことはできない』

「そうだ。肉だ。切り分けたものを別のところに保管している。すぐ出すよ」


 肉ブロックの保管はもちろん別のフォルダだ。時間経過無しのところにしておけば、冷蔵庫要らずなのだよ。

 そんな朝のひと時を終えた俺たちはアイテムボックスの外に出る。

 

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・タイトル

緑の魔女ルチルの開拓記~魔力無しと追放された元伯爵令嬢ですが、実は魔力が数倍になっていました~

・あらすじ

魔力無しと追放された女の子が実は計測できないだけで膨大な魔力を持っていて、その力と仲間たちと協力して快適な村を作って行くおはなしです

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