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31.我の肉

「お、見つけた! あれじゃないか?」

「ヨシタツ様、さすがに……」

「やっぱそうだよな……蛇だもんなあれ」

「問題ありません。あれはスカイヒュドラです。依頼書にあります」

「おお。ならあいつでもいいな」

「はい。モンスターランクAらしいそうです」


 ふむ。持ってくるだけ持ってきてよかったぞ。依頼書の束を。

 俺たちの場合はどんだけ荷物が嵩張っても問題ないからな。

 空を飛ぶ翼の生えた蛇は以前見たようなそうじゃないような……記憶が定かじゃない。

 距離があるから、目測で全長12メートルくらいかな。

 

「狩ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


 「じゃあ」と手を振り、もうおなじみになった跳躍で空へと。みるみる空飛ぶ蛇との距離が迫り、首元へ手刀を入れる。

 ガクリと力が抜けた蛇をすかさず収納。空中でクルリと姿勢を変え、高い木を蹴って元の位置にシュタッと着地した。


「ただいま」

「お帰りなさいませ」


 ベルヴァもすっかり慣れたもので、ピクリとも眉を動かさずに両手をお腹の辺りに添えてお辞儀をする。


「これで何匹目だろ?」

「これで7体目です」

「ええと、ギルドマスターは10匹だと確実と言ってたっけ?」

「Bまででよろしいのでしたら5体も倒せばまず問題ないとおっしゃっておりました。10体はAランクですね」


 ふむ。狩り過ぎたらしい。といっても、「言葉の赤」二個が出来上がるまでにはまだあと3日ほどあるんだよな。

 そういやいないなと思っていた駄竜が鹿のような動物を口に咥えてふよふよとやって来た。

 飛ばないと引きずって持ってくるしかなくなるもんな。あの体格じゃあ、引っ張ってくるパワーがあったとしても、獲物をいろんなところに引っかけてしまって半分くらいのサイズになってしまいそうだ。飛べてよかったな。駄竜。

 

『終わったのか?』

「一応な。これだけあればそれなりの金になりそうだ」

『ほう。ふかふかだな』

「買うつもりだよ」

『行商というやつか?』

「それは……言わないでくれ……」


 こんなものが行商なわけない。

 街や村を移動しつつ、土地ごとの商品を仕入れ販売する。そうやって細々と資金を稼ぎながら秘宝を探していくつもりだった。

 今も秘宝を探すという目的は変わっていないが、当初考えていた流れと大きく異なっている。

 いや、これは行商をするための過程だ。だから仕方ないことなんだよ。

 モンスターを狩って資金にした方が手っ取り早く稼げるなんてことを考えたらダメだ。

 ……。

 固まる俺に駄竜は気にした様子もなく、更に抉って来る。

 

『ふかふかが手に入るのは良いのだが、明らかにお主が街で見たどの者より隔絶して強い』

「そいつはこれまでの実績ってやつだ」

『実績? 冒険者というつまらぬ組織に所属してからアリアドネを倒しただろう?』

「そいつはノーカンだ。だからこうして、狩りに来てるわけだろう」

『何度聞いても不可思議だな。強いものは強い。それがニンゲンどもには分からぬのだろう。ねじ伏せればよかろうに』

「待て待て。健全な規律があってこそ社会活動も成り立つんだ。ベッドもクッションも生産者がいてこそだぞ」

『ううむ。仕方あるまい。ベッドとクッションが生産されなくなるのは困るからな』


 謎の理論を展開し、一人納得する駄竜であった。

 ギルドマスターに蜘蛛を買い取ってもらった際に、この実績で冒険者ランクを上げてくれと頼んでみたのだが返答は芳しくなかったんだ。

 冒険者は依頼を受けてから依頼をこなすもので、後付けで依頼と言う形にもできるはできるが、今回の緊急依頼はすぐに引っ込めてしまった。

 緊急依頼を受けることができる冒険者ランクにも達していないから難しいんだって。

 その代わりといってはなんだがと、ギルドマスターから提案されたのが今回の狩りだったわけだ。

 ドラゴニュートが含まれるパーティとしてなら、Aランクの依頼まで受けることができるように計らってもらい、片っ端から依頼書を持ってきて今に至る。

 街を出る前にウサルンのところに立ち寄り、蜘蛛で得たお金を元手に言葉の赤を発注した。

 結局、一日で街から出てしまったわけなのだが、いくつか分かったことがある。

 

 駄竜やドラゴニュートが住んでいた地域は他に比べてモンスターが強い。

 さっきベルヴァが言っていたようにモンスターには冒険者と同じように強さに応じてランクが付いている。

 俺たちはドラゴニュートの村の方角へ進んできたわけだが、この辺のモンスターは最低でもBランクで中にはSランクのものまで存在した。

 そんな危険地域で生活をしているドラゴニュートが街の人から強者と見られているのも納得だ。

 といっても、この地域で遭遇したモンスターはアリアドネどころかヴィラレントと比べても劣る。

 Sランクのモンスターとは遭遇していないから、そいつならヴィラレント並なのかもしれないけどね。

 

「まあ、ベルヴァたちはラスボスダンジョン付近の村で生活していたってわけだ」

「ラスボスとは?」

「あ、ごめん。口に出てた。あと三日くらい籠ろうかなと思ったけど、街に戻らない?」

「私はどちらでも構いません。ヨシタツ様あるところにお供させていただきたく存じます」

「一応、俺の意見を聞いてもらえるか?」

「もちろんです!」


 拳をぎゅっと握りしめて、笑顔になるベルヴァに釣られこちらの頬も緩む。

 その時、紫色の何かが空に見えた。

 ん。あれは……。

 

「ベルヴァ、あれって飛竜じゃない?」

「あれはフェイロンより危険なモンスターです」

「依頼書にあったっけ?」

「ございます。個体名はレンド。Sランクです」

「Sランク! 話はあいつを仕留めた後で」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 先ほどと同じく、跳躍し濃い紫色の鱗を備えるレンドなる飛竜へ迫る。

 お、反応してきた。さすがSランク!

 紫色のブレスを吐き出してくるが、収納し速度を緩めず奴の首へ蹴りを喰らわせた。

 ガクンと首があらぬ方向に曲がりレンドの体から力が抜ける。即、収納して完了だ。

 

「戻った」

「お帰りなさいませ」

「それで、さっきの続きなんだけど」

「休息をとらずとも大丈夫ですか?」

「全く問題ない」


 そう言ってベルヴァに街へ戻りたい理由を説明する。

 理由といってもそんな大したことじゃないんだ。資金ができたから、暮らしの道具やできれば小屋も買ってアイテムボックススローライフに必要なものを揃えたいってね。

 俺の話を聞いたベルヴァは目を輝かせ「すぐに行きましょう!」と今にも走り出さん勢いだった。

 

「よっし、戻ろうか」

「きゃ」

「ファフサラスも」

『我の肉は?』

「収納しておくから、後で食べようぜ」

『我のだからな』

「分かってるって。他にも肉は大量にあるからな」


 ベルヴァを姫抱きし、駄竜がその上に乗っかる。

 さあ、ジャンプでドロテアの街付近まで戻ろう!

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・タイトル

緑の魔女ルチルの開拓記~魔力無しと追放された元伯爵令嬢ですが、実は魔力が数倍になっていました~

・あらすじ

魔力無しと追放された女の子が実は計測できないだけで膨大な魔力を持っていて、その力と仲間たちと協力して快適な村を作って行くおはなしです

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