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第七話 息抜き 後編

日曜日は忙しいので、今回は土曜日に更新します。

人気ないけど、がんばるね。

でもストックがない。

暇がない。

ネタがない。

 孤児院の修道女が管理するには、あまりにも巨額な資金。しかし運用管理はスターレスト様が一枚噛んでいるらしいので安心だ。


 (まぁ、お金に困った事のない私が言っても……)


 そんなことよりも占いの館に着くまでに市場の屋台で夢の買食いをしなければならない。カーペスト王国の女学院に通っていた時も学友達に止められて達成できなかった夢なのだ。

 右手に焼串、左手に香草で焼いた魚を揚げパンではさんだ謎の食べ物。先にどっちから食べるか悩みながらも、小さな八重歯がキラリと光る。

「あれ……」

 エルブレンドの指差した先には山のような大男が路上でうずくまっている。格好はテスラさんの証言と酷似しているが、孤児院に資金を寄付した男が行き倒れているわけがない。

 しかし、あれだよ……。食料を持っているのは私だけ。ため息を付きながら男に近づく。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 男は顔を上げるなり右手に持ってい焼串に食い付く。マシルマは抜剣するが、私がそれを制し、もっと食べ物を買ってくるようにお願いする。

「マシルマ様はメイシャル様の護衛を続けてください。私が行って参ります」

 男はアニーが買ってきた山盛りの食料を全てたいらげると、「お前がメイシャル、そしてお前が……マシルマか。まさかブルリュが拾ってきたガキに助けられるとはな」

「ブルリュ様の知り合いですか?」

 私の質問に答える代わりに、男は立ち上がると、マシルマの肩をポンと叩いた。

「剣士ってのは死線をどれだけ超えて、命を掴み取るかだ」

「あ、あの……」

 男は振り返らず、手をあげて去って行く。

「私……今、殺されました……」

 マシルマが膝から地面に崩れ落ちた。




「ボクとメイシャル様が同時に行くと、あいつ忖度して良いことばかり言うから。外で待ってるね」

 ポステルと呼ばれる遊牧民の移動テントの前でエルブレンドが言った。

「うん。何もないと思うけど何かあっても大丈夫だね」

 ポステルの中は意外と広く、同時に何人も相手に出来るようにいくつかの仕切りで区切られていた。

「そこのちっこいの何ボーッと立っておる。はよう座れ」

 黒いカーテンの向こう側から老婆の声が聞こえた。声の指示通りカーテンをくぐり、奥の椅子に座る。しかし、目の前はごく僅かな小さな穴の空いた壁。

「あ、あの……これで良いんですか?」

「あぁ、それで問題ないぞ。メイシャル・フランデリア」

「え? 何で私の名前を……」

「わしは占い師じゃぞ。それにお主の事なら、街の誰でも知っておる」

「メイシャル・フランデリアですって!?」

 ガタンと椅子がひっくり返る音が仕切りのとなりから聞こえた。


 (フフッ。修道女テスラさんも知っていたし、私も有名になってしまったみたいね)


「で、何じゃ? 側室候補に勝ち抜く方法でも聞きに来たか?」

「え? 違いますけど? む、胸が……どうしたら胸が大きくなるのかを」

「何じゃ? 本当に側室のことじゃないんじゃな」

「側室候補は、頑張るだけですから……。でも胸は頑張ってもどうしようもなくて」

「胸か……。こんなもん、ただの脂肪、肩こりの原因じゃ」

 老婆は己の巨大な胸を持ち上げてため息を付いた。


 (これは煽られているのかな? からかわれているのかな?)


「それでも……欲しいのです」

「これでもこの道50年のプロじゃ。その場限りの調子の良いことは言わん。だからはっきり言う。諦めろ。それだけじゃ、それよりも人気の少ない場所には気を付けるのじゃぞ」


 (確かエルブレンドは、ここの占いで特級魔道士にまで上り詰めたんだよね? めちゃ当たるんだよね……。私の胸は……諦めろとか……)


「う……」

 とめどなく溢れる涙。料金をテーブルに置きポステルから飛び出す。

「どうしました? メイシャル様!?」

 ついさきほど、完全なる敗北を味わったマシルマであったが、今は気持を切り替えて護衛に集中する。

「な、何でも無い……。大丈夫」


 (胸のことで泣かされたなんて言えるわけがない……。見習い騎士として、剣士としてどん底を知ったマシルマだって頑張ってるんだから)

 

「何を言われたか知らないけど、まず当たるから。でも未来を知っておくのは大事」

 袖を引っ張りながらエルブレンドが言った。


 (慰めになってないけど、ありがとう……)


 胸の成長が絶望的だと信じたくないが、未来を見る力は確かにある。例えば、魔眼・予知眼(クラース)とは近い未来を見る能力。思い切りため息をつく。


「今日はもう帰りますか?」

「ううん。最後の闘技場に行くよ。このまま帰ったら涙で枕がビショビショになる」




 夕日に照らし出された円形闘技場は、少し不気味だったため、入口付近で足がすくんでしまう。しかし、お昼寝の時間も外で活動していたエルブレンドが、だんだんと機嫌が悪くなっていくのが誰の目にも明らかであり、メイシャルも早く見てしまおうという気になる。

「エルブレンドはここで待っててもいいよ」

「駄目に決まってる。護衛だよ? ボク」

「エルブレンドが機嫌悪いから、メイシャルが気を使ってんだよ」

「き、機嫌悪くない。早く行く」

 メイシャル達は観客席ではなく、実際に戦士たちが戦う場所聖闘地(クラース)の中央にいた。

「なんか、気圧されるね」

「いつか……ここでブルリュ様と剣を交えたいです」

 マシルマはやや興奮気味で呟く。

「マシルマじゃ無理。5秒で倒される」

「う、煩いですよ。エルブレンド!!」

 目にも止まらぬスピードでマシルマは剣を抜き、何もない空中を斬りつける。

「ほう、この瞬縮の短剣(パジーラ)を見抜く者がいるとは」

「誰ですか!? 姿を見せなさい!!」

 マシルマの声に反応したように、数メートル先の何もない空間から一人の男が姿を表す。

「まぁ、どうせ殺すし、名乗っても無駄なんだが……。驚く顔が見たくてな。俺は六闘技師が一人、暗殺者バイゼトルだ」

「え? 誰?」

 メイシャルは首を傾げる。

「メイシャル様、私の後ろへ!!」

 危険が迫り、いつものタメ口から警護に戻る。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。

 バイゼトルから放たれた瞬縮の短剣(パジーラ)を再びマシルマが弾くが、エルブレンドが悲鳴をあげる。

「知ってるぜ。特級魔道士エルブレンド。お前に魔術を使わせるわけにはいかないな」

 メイシャルを狙った瞬縮の短剣(パジーラ)は囮で、本命はエルブレンドだった。エルブレンドの四肢に黒光りする短剣が突き刺さっている。

「麻痺毒が塗られていてな。しばらくは指一本すら動かすことなどできない」

「き、貴様……」

「俺は暗殺も好きだが、剣での戦いも好きなんだ。見習い騎士に剣で勝負してやる。ちなみにそのメイシャルとエルブレンドは生きたまま捕まえる約束だけど、お前は殺すぞ」

「舐めるな!!」

 マシルマは剣を脇に構え走り出す。バイゼトルは余裕なのか腰にぶら下がる剣の柄に手を乗せている。

「遅い!」

 マシルマの一撃をバイゼトルはじっくりと見た後で弾く。マシルマの剣は途中から折られ剣先は地面に突き刺さった。

「何者なのよ。あいつ……」

「メイシャル様。六闘技師とはブルリュ様達三大英雄と同格と噂されております」

 震える手足でアニーはメイシャルに近づくと小声で言った。

「ブルリュ様と同格!?」

「メイシャル様。悔しいですが……私では勝てません。ですがメイシャル様が逃げ延びるまで……」

「ハハハッ!! そんなこと、させないけどね」

 手を顔に乗せ大笑いしているバイゼトル。

 マシルマの手からバチバチと放電が始まり、一本の剣に姿を変えた。

「ほう? 希少系の雷、雷精霊術:光剣(グロリィウス)か。惜しいな。後数年後だったら俺といい勝負できたかもな。どんな強力な剣であろうと、当たらなきゃ意味が無い」

「お逃げください」

 メイシャルはマシルマをすり抜け、バイゼトルに質問する。

「待って。バイゼトル……。大人しく、貴方に従えば、マシルマやメイドたちは助けてくれますか?」

「おいおい、糞ガキ。お前に交渉権はない。お前が素直になろうが、どうしようが、結果は何もかわらない」

 バイゼトルはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「そんな……」

「こいつは……自らを暗殺者と名乗りました。殺しが生きがいなんでしょう。さぁ、お逃げくださいメイシャル様」

 メイシャルの足は恐怖なのためか友情のためか、一歩も動くことが出来なかった。

「ごめんなさい。メイシャル様、私がもっと強ければ……」

 バイゼトルは高笑いしながら、マシルマに突っ込んでくる。

 マシルマは首を斬りをとされないようにガードする。一撃を喰らって相打ちを狙うつもりだった。

「馬鹿野郎、娘達に何しやがる!!」

 バイゼトルとが防御態勢のまま数メートル吹き飛ばされた。何が起こったのか解らないメイシャルだったが、その後ろ姿に安堵する。

「ブルリュ様!!」

 慣れない雷精霊術:光剣(グロリィウス)を使い続けたためか安心したためか、マシルマはその場に座り込んでしまった。

「六闘技師・暗殺者バイゼトル。シレーン国ヘルガホルム領主殺害の容疑がかかっている。大人しく同行してもらおう」

 力強く澄み渡る声。この声は……スターレスト様!? 振り返るとスターレスト様と騎士団が出入り口を固めていた。

 

 (これだけの騎士団の足音に一切気が付かない程に緊張していたのか)


「流石にこれはキツイな。だが……」

 魔眼・感情眼(アフェクトゥス)がバイゼトルの殺意を感じ取る。魔眼・予知眼(クラース)を発動させると、アニーの胸に瞬縮の短剣(パジーラ)と呼ばれる黒光りする短剣が突き刺さっていた。

「アニー!!」

 メイシャルはアニーを突き飛ばすが、代わりにメイシャルの胸に瞬縮の短剣(パジーラ)が突き刺さる。




 「お目覚めになりましたか。どうかそのままで」

 枕元には見知らぬ修道女が立っていて、メイシャルが目覚めると優しい口調と優しい笑顔で説明を始めた。

 「胸の傷は傷跡一つ残さず綺麗に治癒しましたが、強力な呪いが残ってしまうため……胸の成長は望めません」


 (えぇぇぇぇ……。占い師のおばあちゃんが言ってたのて、そういうことだったの?)


 「メイシャル様がお目覚めになったことを伝えて来ますね」




 ドカドカと勢い良く、ブルリュに続き、マシルマ、エルブレンドが入室してきた。

「おう、もう元気なんだよな」

「あ、はい」

 パシン。

 何が起こったかわからなかった。後からほっぺたがジンジンしてくる。

「メイドの命が軽いとは言わねぇ。だがメイシャルの命一つで、多くの命が失われることになる。俺ははっきりと言ったつもりだぜ」

「ブルリュ様!! メイシャル様は目覚めたばかりなんですよ!!」

 バイゼトルに連れされようとしたいたときよりも、もっとリアルだ。ブルリュに叩かれたことがショックだった。そして、押し込めていた恐怖が蘇る。一歩間違えば、二度とブルリュやマシルマに会うことすら出来ない恐怖に体も心も埋め尽くされた。

「ご、ごめん…なさい……」

 振り絞ってようやく出した声。エルブレンドは背中を優しく撫でてくれた。

「つ、つい……ぶっちまったが、バイゼトルがレ・ブレームに忍び込んだことは掴んでいたんだ。だからお前の護衛よりもスターレストとアイツを探していたんだが、まさかメイシャルが目的だったとは思いもよらなかった」

「うっ、ごべんなさい……」

「だから……泣くな」


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