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第六話 息抜き 前編

 約束通り、宮殿に赴きスターレスト・アルベニアの正妻オーフェルと面会する。

「最初に言っておきますが、私は12歳、メイシャルよりもお姉さんです」

「そ、そんな事……わ、理解っています。立派な大人の女性です」

 動揺する私、少々の嘘が混ざってしまった。

「メイシャル。同じ魔眼持ち同士なのだから、嘘が通じないのは知っていますよね?」

「で、でも……。オーフェル様にはが通じません」

「あっ。そうですね。私は魔眼の他に光の大精霊術が使えます。その中でも光精霊術:反射(リフレクション)が得意ですから、魔眼の力も弾きます」

 オーフェルの金色に輝く瞳は、真っ直ぐにメイシャルを見ていた。メイシャルは顔を赤らめる。今、オーフェルによって過去も未来も心の中も体も……何もかもが赤裸々に白日の下に晒されていく……。

「メイシャル」

「は、はい。何でしょう……」

「貴方の母フェルマ・カーティアは、南北戦争の終結の報酬として……貴方の父ベルシア・フランデリアが奪っていきました。これは一部のものしか知り得ない情報ですが、南北戦争はベルシア・フランデリアの手により勃発したのです。わかりますか? ベルシア・フランデリアは、自分の家系に持ちの子を欲していたのです。ただそれだけで、シレーン王国は二分され、大事なカーティア家の者が奪われたのです」

「え……」

「ベルシア・フランデリアは、魔眼持ちの者を奪うためなら、この国を滅ぼしたでしょう。これだけの被害で済んだのは、フェルマ様がベルシア・フランデリアの生贄となることを自ら望んでベルシア・フランデリアに交渉したからです」

 メイシャルの記憶では父ベルシアと会った想い出は一度きりだ。

 当時、体の弱かったメイシャル。

 何度も死にかけたメイシャルを必死に看病する母、何度も何度も最後だと思って、母の笑顔を記憶する瀕死のメイシャル。どんなときも母は一緒にいてくれた。

 必死の看病のおかげで、メイシャルは生きながらえる。

 徐々に体力が付き始めた5歳の頃、母も体が弱いことを知る。

 そして、メイシャルに魔眼の秘密を教え他界した。

 母の葬儀にも顔を出さなかった父ベルシアは、メイシャルを呼び出す。そして研究者にメイシャルを調べさせ、メイシャルにの素質がないと知ると、王都の女学院に入学させた。

 あの時の父ベルシアの色は……真っ黒であった。

「メイシャル、メイシャル? どうしたの泣かないで……」

「ごめんなさい」

 メイシャルはハンカチで涙を拭う。

「いいのよ。それとは今まで通り人前で使わないこと。メイシャルが魔眼に目覚めたとベルシア・フランデリアの耳に入れば大変なことになります。昨日の魔眼の一件は三人の大英雄の一人。ブレッジェストの闇精霊術:隠蔽(コンスィールメント)により参加者の記憶から消されたはずです」

「ありがとうございます」

「一方的かも知れませんが、メイシャルの心も体も全て見させてもらいました。メイシャルが側室候補という立場でなければ、もっと話していたかったけど、正妻として、一人を優遇するわけにもいかないのです」

「はい」

「何とも言えませんが、メイシャルの心の赴くままに。また別の機会にの秘密を話しましょう」




 あれから数週間が経った。ブレンダとソウディアに体を洗われている最中にぼーっと考える。


 (悪魔の父、天使の母、魔眼の娘。どうすれば、何が正解なの?)


「メイシャル様、どこか痒い場所はありますか?」

「え、な、ないです」

 マーズリーの一件やオーフェルの一件など本当は聞きたいのだろうけど、ブレンダとソウディアは余計なことは聞かない。

 ただメイドとしての仕事を熟し、当たり障りのない話題で楽しませてくれる。

 そして、自分の気持を鋭く察してくれるのだ。

 とても柔らかくいい匂いのするタオルで体を拭くソウディアが耳元で囁く。

「メイシャル様。胸が少しだけ大きくなり始めてますよ」

「えっ!? 本当!?」

 確かに真っ平らな胸がほんの少しだけ膨らんでいた。

 髪も伸び始め少しだけ女の子っぽくなり始めている。


 また遊びに来ていたブルリュに気付いて欲しくて、バストを強調したドレスを着てみた。

「おう、どうした? 今日なんかあったか?」

「な、何にもありませんけど……」

「しかし、似合わねーな」


 ペチっ!! 取り敢えずブルリュの鉄板のようなお腹を殴っておく。こっちの拳が痛い…・…。

「なんだ、そのヘナチョコパンチは? 腰が入ってねーんだよ」

「う、煩いです!! 一体何しに来たんですか!!」

「あのなぁ……マーズリーの一件以来、貴族たちのお前に対する不満の声が一層強まってるんだ。だから、こうやって遠いところわざわざ来てやってんだろうが」

「うっ、あ、ありがとう……ございます」

 メイシャルの頭を遥か上からグシグシと撫でるブルリュであった。

「わかりゃ、いんだよ。よし、マシルマ、いっちょ剣の稽古してやる。表出ろ」

「は、はいっ!!」

「えっと……もう夜ですけど?」

 窓の外の暗闇を見て、何を考えているのかしらと、メイシャルはブルリュに尋ねる。

「敵ってのは夜襲ってくるんだよ。暗い中でも戦える訓練が必用なんだよ」


 ブルリュとマシルマが出ていった後、黙っていたエルブレンドが口を開く。

「ブルリュ様に女アピールしてどうするつもり? メイシャル様のお相手はスターレスト・アルベニア様」




 アルベニア領に来てから三ヶ月目。ようやく領都の中を歩く許可が下りた。

 今日は観光と息抜きをいっぺんに堪能するつもりだ。

「悪いな。ちと野暮用が出来ちまった。お前らだけで楽しんで来い」

 ブルリュは面相そうに部屋から出ていってしまった。

「メイシャル様、ぜーったいに、私から離れないでくださいね」

 冗談が通じないとひと目でわかるほど、いつになくマシルマの目が真剣だ。

「うん。護衛よろしくね」

 派手すぎず地味すぎない青いドレスに着替えさせられたメイシャルは、アニーに注文を出した。

「貴族っぽい服じゃなくて……そうね、領都の女学院の制服とか無いのかしら?」

 アニーは、はぁっとため息を付いて答えた。

「あのですね。仮にもメイシャル様は、側室候補なのです。そんな巫山戯た格好が許されるはずもありません」

「だけど……目立つの嫌なの」

「ボクの制服なら」

 身長が伸びると買わされたのであろう、王都の魔法学院の制服をエルブレンドが空中から取り出す。

「杖も貸す。これでメイシャルも立派な魔道士」

 メイシャルは杖を持つとブンブンと振り回さす。

「そうだ。街の外に行って、癒し系スライム(スージング・スライム)捕まえてこよう!!」

「駄目に決まってるじゃないですか!!」

「えー。もしかして、街の近くにいないの?」

「そういう話じゃないです」

「そうですよ。魔物なんて敷地内に入れたら大問題ですよ」

「駄目かー」

「うー……。心配です。メイシャル様、浮かれすぎです」

「大丈夫だって。これでもカーペスト王国の王都にある女学院にいたんだから」

「いえ、メイシャル様は、遊んでないでもっとスターレスト様にアタックするべきです」




 有名人のマシルマとエルブレンドが左右にぺたりと張り付く。これだけでメイシャルが重要人物であることが露見する。後ろからは、アニーとプレタが付いてくる。

「あのさ。マシルマ。もうちょっと離れてよ」

「メイシャル様、お馬鹿なのですか?」


 (仲良くなったのは良いけど、もうちょっと敬意を払って欲しい……。まぁ、私に尊敬できるところなんて無いし、無理だよね)


 大通りの人々はマシルマとエルブレンドの姿が目に入ると、自然と道を譲る。魔眼・感情眼(アフェクトゥス)には、敬意や憧れを表す青や恐怖を示す灰色などが見えた。


「ねぇ、領都と言えば?」という問に全く違う回答が帰ってくる。

「闘技場?」

「占いの館でしょ」

「いえ、市場ですよ市場」

「んー。全部回ったら時間足りない?」




 南門に進み、そこから北側に向かって、市場、占いの館、闘技場の順番に回ることになった。

 スターレスト様のお屋敷が闘技場に近いので、万が一遅くなってもすぐに屋敷へ帰れるからという理由だ。

「エルブレンドのおすすめが占いの館ってのが不思議。そんなの信用しないタイプだと思ってたのに」

「魔法を習い始めたのも、魔法学院に行ったのも、魔道士になったのも、全部占いの結果」

「何それ? どっぷりとはまってる……」

 エルブレンドの秘密を聞いていたら、やたらと混み始めた。いつの間にか市場の区画に入っていたようだ。

「プレタお姉ちゃん?」

「ジョイル?」

 プレタが知り合いと会話したことにアニーが注意する。

「アニー、大丈夫だよ」

 マシルマが警戒する中、私はプレタに話しかけてきた少年を見る。カーペスト王国の制服とは違うが、恐らくこの少年は孤児院の子なんだろう。

 少年はぎゅっとプレタに抱きつく。

「今では一人前のメイドとしてスターレスト家に仕えていますが、アニーは元孤児院出身なのです」

「ボクも路上で生活してたんだよ」

 

 (路上の孤児から特級魔道士にたった数年で上り詰めるって、天才というより想像も絶する努力何だよね)


 無意識にエルブレンドの頭を撫でてしまった。エルブレンドは馬鹿にするなと怒るが、魔眼・感情眼(アフェクトゥス)には薄い桃色、つまり喜びがしっかりと見ることが出来た。

「プレタお姉ちゃん、皆が喜ぶから孤児院に来てよ」

 プレタは困った顔になりアニーの様子を伺う。

「折角だから、孤児院に行ってみようよ」

 私の言葉にプレタは目を潤ませる。少年も私の手を取り心から感謝している。


 (何だか良い行いをしたみたいで気分が良い)


 特に公用での外出でないためアニーやエルブレンドは何も言わない。マシルマは周囲を警戒するだけだと言いたいのだろうが、孤児院がある場所はやや治安が悪いため難色を示す。

 失礼な話だが地方領地の孤児院の子供たちと言えば、ガリガリにやせ細った体にボロボロの服と言えない布切れを羽織っているイメージがある。しかし、この少年は、栄養の行き届いた食事でもしているのか肌艶が良く、清潔感溢れる孤児院の制服を着ている。

 これではカーペスト王国の王都の孤児院の方がみそぼらしいぐらいだ。




「600年は余裕で孤児院を運営できる資金をポンとですか?」

 孤児院の運営を任されている修道女テスラさんは、包み隠す最大の秘密を簡単に私に漏らした。

「はい」

「えっと、そういうことは余り言わない方が……」

「プレタがメイシャル様を心の底から信じておりますし。パズデニーズ領の後ろ盾があり、ブルリュ様が手塩に掛ける見習い騎士のマシルマ様、それに特級魔道士エルブレンド様。何よりもスターレスト・アルベニア様の側室になられる方ですから、隠しておくよりも秘密を共有するべきだと」


 (テスラさん、したたかです。それに魔眼・感情眼(アフェクトゥス)でも嘘の色は見えない)


「わかりました。で、その莫大な資金を寄付した人は、どのような方なんでしょうか?」

「それが……。何も言わずに行ってしまって……。容姿は兎に角、山のような大きな方でした」

 一瞬、ブルリュ様を思い浮かべるが、そんな途方もない資金をポンと出すような人ではない。

 考えながら、何気に窓の外を見て、まだまだ行かなければならない場所があることを思い出す。

 プレタに宿泊許可を出し、私達は次なる目的地の占いの館を目指すことにした。


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