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第三話 信頼

 レ・ブレームの大通りを進むブルリュ様率いる騎士団に大歓声が上がる。エルブレンドに渡された歴史の資料に書かれていたのだが、ブルリュ様は南北戦争を終結させた三人の大英雄の一人。なのでこの声援は、当然のことなのだろう。

 そして、もう一つ。恥ずかしいのだが、ブルリュ様の前に騎乗する私に注目が集まる。

 魔眼・感情眼(アフェクトゥス)には様々な感情が色となって、メイシャルには見えた。

 事前にブルリュ様が仕込んでいたさくらにより、その少女がスターレスト・アルベニアの側室候補であることが、野次馬達に伝わる。

 まさかこんな小さな子が側室候補であると半信半疑だが、あの大英雄に護衛され、レ・ブレームでも天才魔道士エルブレンドが護衛するとなると、その信憑性は確かなものとなった。そして、決定的なのはスターレスト・アルベニア自身が、その少女をわざわざ出迎えに来たことだった。

「やぁ、場上から失礼するよ。私はスターレスト・アルベニア。長旅ごくろうだったね」

「出迎え感謝いたします。カーペスト王国フランデリア領主ベルシアが娘メイシャル・フランデリアでございます」

 野次馬たちからどよめきが起こる。カーペスト王国のフランデリア家と言えば南北戦争の影の立役者だ。北軍の勢力を抑え込み南軍を勝利へ導いたとされている。その令嬢が大英雄に護衛されアルベニア家の側室候補になるのだから、野次馬たちは大盛り上がりを見せた。




 メイシャルは、マシルマとエルブレンドを従えて、正妻オーフェルに挨拶する。

 オーフェルは失礼な態度にならない程度に気を使っていたが、まるでメイシャルには興味が無いように見えた。

 まったく会話が盛り上がらないため、メイシャルは早々にオーフェルの部屋から退室する。

 何故かオーフェルには魔眼・感情眼(アフェクトゥス)の力が及ばなかった。

 そして、6人の側室候補と顔合わせをして自室戻る。

「側室候補の中にメイシャルを見る目に悪意がある者が数名いたね」

「エルブレンド、それは誰です? 今から斬り伏せて来るわ!!」


 (あのあからさまな態度を見れば、魔眼・感情眼(アフェクトゥス)が無くても、誰が敵なのか手に取るようにわかるはずなんだけど……)


「馬鹿、そんなことしたらメイシャル様に迷惑がかかります」

 ため息を付きながら、まるで彫刻のように微動だにせず部屋の隅で立つメイドたちに声をかける。

「私はメイシャル。あなた達のお名前は?」

 メイシャルの間違った情報と、さきほどのマシルマの発言に恐怖を覚えたメイドたちは、手足を震わせながら必死に応える。

「メ、メ、メ、メイド……メイシャル様の専属メイド筆頭のアニーでございます。この者たちは、同じくメイドのブレンダ、ソウディア、プレタでございます」

 四人は深々と頭を下げる。


 (凄く怖がってるみたいだけど……。どんな噂が流れているのやら)


 テーブルの上に置かれた資料を見ると、アニーが16歳、ブレンダ15歳、ソウディア13歳、プレタ12歳で、全員私達より年上だった。


 旅の疲れで湯浴みがしたかった。

 一人で湯浴みなど出来ると言ったのだが、専属メイド筆頭のアニーが頑として首を縦に振らなかった。


 (まぁ、そうだよね。自分たちの存在意義を否定されているわけだから……)


 ブレンダとソウディアに連れられメイシャルの住む屋敷の一階にある浴室に来た。勿論、マシルマも一緒に付いてきた。

「マシルマは、外で待ってて」

「いや、安全を確保するため、一緒にいるべき」

 高級な石鹸で、ブレンダとソウディアに体を洗われていると、とてもいい気分になる。

 しかし……。


 (何でだろう? メイドに裸を見られるのは恥ずかしくないけど、マシルマに見られると恥ずかしい……)


 お股が濡れる。湯浴み中なので問題ないと思っていたが、ソウディアに気付かれてしまった。

 ソウディアと目が合ったが、何もなかったかのように体を洗い続けてくれる。

 浴室から帰る時、ソルディアに小声で「ありがとう」と言える機会があった。


 側室候補だからといっても、超多忙なスターレストと話せる時間は一週間に数分あるかないか、酷いときには数週間は顔も合わせることはないらしい。

 暇そうな私にエルブレンドが話しかけてきた。

「えっ? 私が魔術を?」

「そう。出身国が違うとは言え貴族、平民よりは魔術に向いているはず」

「で、でも……」


 (魔術を使う自信がまるでない。どうしよう……。そうだ!!)


「ほら貴族でも、ブルリュ様が魔術なんて使ってるの見たこと無いし……」

「メイシャル様、何を言っているのですか? ブルリュ様はかなり魔術の才能がある方なんですよ?」

 エルブレンドに代わり、ブルリュを信仰するマシルマが口を挟んできた。

「あの方は、風、火、水、土、と4つの系統を使えます。凄いんですから!!」

「全部が身体強化系だけどね。風で速さを、火で力強さを、水で回復を、土で肉体強化をしているの」

「女学院で、魔術のことを少し学びました。風・火・水・土・光・闇の六大精霊術と聖と邪の神術ですよね」

「うん。それをどの程度使えるか、世の中にどのように貢献できるか、魔術の神秘をどこまで解析できるかで、魔道士の階級が決まる」

「エルブレンドは何が得意なの?」

「風と火だけだけど、特級魔道士!! 使える種類なんて関係ない!!」

「どうやったら何が使えるってわかるの?」

「本来は修行して使えるかどうか試していくしかないのだけど、私は特級魔道士。魔力でわかる」

 エルブレンドは私の手を握り、自分の魔力を私の体に流し込む。

 エルブレンドが体内に入ってくる感覚だ。

 でもマシルマと違い、エルブレンドはエッチなことはしてこない。ただ純粋に体の隅々まで魔力を調べているだけだ。

「うーんと土と聖。なんだか珍しい」




 あの時、私が馬車から降りなければ、もう少しだけ耐えていたら、ブルリュ様が助けに来た。そうすればホルンは殺されなかった。

 毎晩繰り返される後悔の念。

「眠れないのですか?」

 護衛のマシルマがベッド脇に座る。唯一の友人だったホルンが死んだ時のことをマシルマに話した。

「未来など見えないのですから、どうすることも出来ません」


 (私には魔眼がある。そして未来だって見ることが出来た。でも、あのときは、そんなは使えなかった)


「メイシャル様は、死を覚悟したのですよね」

 今になればよくわからない。

「私も同じですよ。あの時人形を取りに戻らなければ、両親は生きていたかも知れません。でもブルリュ様やメイシャル様との出会いは無かったかも。それどころか、もっと酷い目にあっていた可能性すらあります」


 (そう言えばマシルマは戦争孤児だった)


「ごめん、嫌な記憶を思い出させてしまって……」

「私達はまだ10歳ですよ。これからの時間のほうが長いのです。逃げようのない出来事の取り返しの付かない失敗。それをずっと後悔しているつもりですか? 私達にはいろいろと楽しむ権利があるのですよ」

 マシルマは私の秘部を触ってくる。


 (気持ちいい……)




「メイシャル、起きて!!」


 (うん? エルブレンド? あれ? マシルマに触られながら寝ちゃったのかな!?)


 性に目覚め始めた女の子同士、この場合は主従関係があるのだが、ストレスの多い貴族の令嬢の間では別に珍しいことではない。これはカーペスト王国でもシレーン王国でも同じだ。メイシャル女学院時代にはしたりされたりと初めてではなかった。

「どうしたのエルブレンド?」

「どうしたじゃないわよ。今日から魔法の朝練って言ったでしょ!!」

 少し汚れていメイシャルの下着を見て見ぬふりをしたエルブレンドは、朝練の大切さをグチグチと説明し始める。

 エルブレンドの研究結果によると、早朝には自然界の魔力が濃く、初心者の練習にはピッタリとのこと。

 私の衣装を着替えさせるためプレタもエルブレンドに無理やり起こされてた。

「まずは、自分に何が出来るか試すしか無いのよ」

 土の精霊術と聖の神術をどのように使えるかは、エルブレンドでもわからないという。

 寝ぼけ眼の私のお尻を思い切りキックしてくるエルブレンド。どうやら魔術に関することだけは容赦がないようだ。声質や口調まで変わってしまう。

「ちゃんとして。魔術は遊びじゃないから。今日はここからここまでの魔術を試してみて」

 魔術は失敗しても魔力を消費するらしい。私の魔力量を予測して、一日10種類前後の魔術を試すことになった。

 いくつか魔術を試すが何も起こらない。しかし、物凄い疲労感がある。

「あのさ。これって寝る前にやる方がよくない?」

「朝だから10種類試せる。寝る前なら6種類ぐらいしか試せない」




 ぐったりとテーブルに突っ伏す。朝食の用意が出来ないと、アニーが困り顔になるのをマシルマが気付きメイシャルを注意する。

「あっ、ごめんねアニー」

「いえ、お気になさらず……」

「あのさ……。そんなに怖がらないで」

 全員分の料理を用意させて、メイドたちと一緒の食卓を囲む。

「ほら、気にしないで。楽しく食事しましょう」

 メイシャルが食事に口を付けるまでアニー達はスプーンすら持たなかった。

 食事が進む中、プレタが重い口を開く。

「あの……。お茶が熱くて、街を吹き飛ばしたのって……本当ですか?」

 私とマシルマは同時にお互いを見つめた。

「怖がられているのって、エルブレンドじゃん」

 腹を抱えて笑うマシルマ。

「マシルマさんも騎士見習いを全員ボコボコにしたって……」

「えっ?」

「ボクのは嘘だけど、マシルマのは本当だよ」

「大丈夫です。私の護衛になってから、そんな凶暴なことはしてませんから」

「ソウディア、プレタお止めなさい。メイシャルがお困りでしょ?」

「明日も、ずっと一緒に朝食を食べましょ?」




「がはははっ! 調子はどうだ? 他の側室候補からスターレストを奪えるか?」

「そんなことわかりませんよ、まだ一ヶ月も経ってませんから。それに何しに来たんですか?」

「おいおい、冷たいこと言うなよ。マシルマやエルブレンドがしっかりとお前の護衛をしているか確認しに来たんじゃないか」

「十分すぎるくらい……寝室のベッドにも入ってくるっくらいしっかりとやってますよ」

「そうか、そうか!! 頼もしいな」

「ブルリュ様に褒められた!!」

「ブルリュ様、メイシャルが変な世界に目覚める前にマシルマを叱って」

「お前ら本当に仲が良いな」

「全く。楽しそうで何より」

 その声にハッとして振り返ると、そこにはスターレスト・アルベニアが立っていた。

「スターレスト様!?」

 スターレストは手を上げ、そのままで良いと立ち上がるメイシャルを制した。


 (うわー……。今の話聞かれちゃったかな? 変な趣味を持ってると思われたら……)


「ブルリュが来ていると聞いて、寄ってみただけだ」

「おいおい、相変わらずぶっ倒れそうだな。ちゃんと寝てるのか?」


 (えっ? スターレストの表情から疲れなんて微塵も感じないけど?)


「本当に君は元気そうだ。メイシャル、君との時間を取ってあげられなくて申し訳ない」

 スターレストは、メイシャルの手を取り謝罪する。


 (お、男の人に手を握られた!?)


「おう、しっかりと相手してやれよ。命をかけてお前の側室になると腹くくって来たんだからよ」

「ブ、ブルリュ様!?」

「がはははっ! この後、スターレストと内密な話がある。悪いがここらで俺は行く。マシルマ、エルブレンド。引き続きメイシャルの護衛を頼むぞ」

「お任せください!!」

「うん、頑張る」


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