第5話 羊ください!
グラッツオの背に乗り、旅を続けること三日。
リューガス大陸の東部に着いた。
見渡す限り広い平原だ。
着いてすぐ、グラッツオの餌を探したのだが⋯⋯。
「うーん、この辺は小動物の気配しかしないな」
山育ちの俺は、近くに潜む生命の『気配』を感じることができる。
「魔王城隠れんぼ大会」があれば優勝間違いなしだろう、ないけど。
いや、今度提案してみようかな? 自分の輝ける場所は自分で得ないとね。
取りあえず、今は感知できる範囲にはグラッツオの餌として足る獲物はいないようだ。
「⋯⋯飯抜きでいい?」
グラッツオに聞くと首をブンブンと振った。
なんとこのドラゴン、話は出来ないがこっちの言うことをある程度理解できるのだ。
ドラゴンは人間の縄張りだと問答無用で討伐対象とのことなので、グラッツオは餌を食わせたら魔王城へと帰還させるつもりなのだが。
他の竜よりデカいせいで、やたら目立つしね。
さて、どうするか⋯⋯と思案してると、グラッツオが急にあさっての方向を向いた。
「ん?」
釣られるようにそちらを見ると、感知範囲の外だが、見晴らしが良いため確認できた。
俺は視力にも自信があるのだ。
白い、もふもふした生き物が集団で歩いている。
羊の群れだ。
「おおー。確か放牧って奴か?」
確か動物を飼い慣らして、毛やら肉やら利用するんだよな。
山育ちの俺には無かった発想だ。
肉欲しけりゃ、狩れば良かったからな。
もちろん、「羊ください!」「はいどうぞ!」って訳にはいかんだろうが、今回の任務にあたり、活動費として黄金の粒を幾つか貰っている。
黄金なんて俺からしたら、何かちょっとキラキラしただけの、柔らかい金属だけどな。
同じ金色なら、魔王様の髪や瞳の方が価値を感じるぜ。
これを人間が使う通貨に換金しろ、と言われていたが⋯⋯。
「ま、黄金は価値があるらしいからな。何粒か渡せば、羊の一頭くらい譲って貰えるだろう。よしグラッツオ、行くぞ!」
グラッツオの背に飛び乗り、羊の群れへと向かった。
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結果から言えば、羊はあっさりと譲って貰った。
羊飼いのおっさんと交渉する前に、先走ってグラッツオが二頭ほど食ってしまったのだが、許してくれた。
いやー、良い人でよかった。
そう言えば、ドラゴンは討伐対象だってことはすっかり忘れていたので、悪気は無かったことを伝え、必死にフォローしておいた。
気苦労かけやがるぜ。
世話になったので、何かあったら助けてやるという約束までした。
こういうのはお互い様だからね、俺って義理堅い。
あまり長居するのも彼らの邪魔だろうと考え、グラッツオが食べ終わったらすぐにそこを離れたのだ。
そのあと、グラッツオは名残惜しそうに何度も俺を噛んだあとで飛んでいった。
涎には新鮮な羊の血が混じっていた、ははは、こいつめー、生臭さーい。
「んじゃグラッツオ、またなー」
竜が飛び立つ姿を見送ったあと、一人で思案する。
帰る方法については考えてある。
魔王様に事前に渡された、蓋付きの黄金のペンダント。
このペンダントを開けば、魔王様に信号を送れるらしい。
つまり、信号を送ったあとでその場に待機していれば、迎えがくるのだ。
さっさと勇者を探し出してブチ殺し、このペンダントを開こう。
とはいえ、一抹の不安もある。
「あの、『待て』もできないポンコツが、ちゃんと迎えに来るのかね⋯⋯」
とはいえ、今はそんな事を考えても仕方がない。
来なきゃ来ないで、時間をかけて帰りゃいい。
考えても仕方ないことは考えない、が俺の流儀だ。
さあ、勇者探し開始だ。
そう思いあたりを見回すと⋯⋯そこは見渡す限りの平原。
──探すつっても、どうやって?
あー面倒だな。
何かもう、あっちから探しに来てくれんかね?