第46話 ロクサーヌの野望
(やっぱりそうだ)
ウォーケンがデルタミアの住人をあっさりと気絶させた姿を見て、ロクサーヌは確信した。
──やっぱりこの人めちゃくちゃ非常識だ、と。
彼の事を神の如く崇めるマウンや、そこまでとは行かずとも、全幅の信頼を置いているオラシオン。
自分と二人は、ウォーケンに対しての認識が全然違う。
ロクサーヌも、ダテに奴隷市場で客引きをしていたワケではない。
人を見る目が生活に直結する、そんな生活を幼少期から何年も過ごしていたのだ。
今でこそ、オラシオンから教育される事で、多少は淑女らしい振る舞いも覚えた。
成長し、自らの容姿が異性に対して有利に働く事も自覚しているし、だからこそネコを被っている。
それでも、本質は変わってない。
元は生き馬の目を抜く名案内人として、奴隷市場でも一目置かれていたのだから。
人を見る目には自信がある。
ウォーケンと出会い、奴隷市場を案内したあの時──。
彼は勇者の事も、洗礼の事も、なんならオラシオンの事も詳しく知らなかった。
少なくとも、勇者が教団から認定を受け、洗礼によって決まるなんてのは子供でも知る常識だ。
だから周囲が『ウォーケン様は何でもお見通し』みたいな事を言う度に『イヤイヤイヤイヤ』と心の中で突っ込んでいた。
さっきも『白は弱者の色』などという頓珍漢な謎理論を言い始めた。
その上さっさと情報を言わないデルタミア住人にイラッとして、考えなしに手を出しただけのクセに『証明した』などと言っている。
そんなの、ただの言い訳だ。
ウォーケンは周囲が評価するような、思慮深い人間ではない。
どちらかと言えば──バカ。
いや、とっさの言い訳や頭の回転は早そうなので、地頭は良いのだろう。
じゃあ、ロクサーヌがその慧眼を通して観察した結果、ウォーケンに対しての評価が低いか?
と問われれば、真逆だ。
高評価だ。
だって、ウォーケンは優しい。
王都で差別され、暴力を振るわれる魔族の子供を見て、自分の制止を振り切って助けに入った。
ロクサーヌが奴隷扱いされる事に、あんなにも怒ってくれた。
何の得も無いはずなのに、初めてケーキを奢ってくれた。
攫われた自分を助けに来てくれた。
久し振りに会った時、伸ばした髪を『似合う』と言ってくれた。
──友人だと言ってくれた。
周囲がウォーケンの事を勘違いするのを、わざわざ訂正する気も無い。
むしろ、ウォーケンの事を神格化する周りを見ているのは楽しい。
みんなが勘違いする中、自分だけ本当のウォーケンに気が付いている、その事に堪らなく優越感を感じる。
ただ、気掛かりなのは⋯⋯。
ウォーケンが有り得ないほど男前で、恐らく本人がそこに無自覚な点だ。
王都で店をやっていたマリベルなど、店を閉めてまでウォーケンの側にやってきた。
そして、拳聖ベイドラントの傍らにいた女──。
オラシオンやマウンにも報告はしていないが、あれは間違いなく勇者候補のリリシュナだろう。
そして、あのリリシュナの態度。
間違いなく、ウォーケンに好意を持っていた。
マリベルやリリシュナに関しては、ハッキリ言ってウォーケンが悪い。
取り繕うために言った言葉が、女を勘違いさせる。
しかもこの外見だ、そりゃ女は堕ちる。
さっきロクサーヌが着替えた際もそうだ。
『いいじゃないか、凄く似合ってるんだから』
と、微笑みと共に言われた時。
ウォーケンに他意などない、とわかってるロクサーヌでさえ、くらっときそうになった。
つまりロクサーヌの、ウォーケンに対する評価は──。
基本はバカ(ただし地頭は良し)。
そして外見が有り得ないほど整っている。
⋯⋯はっきり言って、最悪の物件だ。
ロクサーヌが、仮に同性の友人から相談されたら『アイツだけは止めとけ』って止めるタイプ。
鈍感で、自らの魅力に無自覚で、そのクセ変に格好つけようとして、時に女をその気も無いのに喜ばせる⋯⋯要素を上げるだけでヤバい。
だがそれを上回る魅力がある。
優しさと強さ。
だから周囲の勘違いなんて、利用すればいい。
彼らの勘違いを上手く利用し、尊敬を集める魔王として、この大陸を統べるウォーケン。
その側に、自分が軍師として付き従う。
それが今の、ロクサーヌの願い。
その為に、コッソリとウォーケンを信仰する教え等も広めたのだ。
だからもし今後、ウォーケンの真の姿を見抜くような者、特に女が現れたら⋯⋯排除しなければならないだろう。
とにかく今必要なのは、このデルタミアでのウォーケンの行動を、知識を与える事で出来るだけ制御する事だ。
その為の事前知識は頭に入れて来ている。
「旦那様、ちょっと確認したいんだけど⋯⋯」
「ん?」
「教主選定会議って、現教主レズモンドと、対抗馬のガフローランの票争いが拮抗してるじゃない?」
「ああそうだ。よく勉強してるな」
「だから融和派のガフローランを支援するためにも、レズモンド派を少しずつ排除する⋯⋯ってのが旦那様の考えであってる? だから資金源のマーラン伯爵を失脚させたんだよね?」
「⋯⋯だいたいそんな感じだ」
「良かったー! 間違ってなくて」
そう、少しずつ。
自分がいると便利だとアピールしていけばいい。
──ウォーケンが、自分を常に側に置いておきたくなるように。
いつもお読み頂きありがとうございます。
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上は完結済みの主人公最強系、下は連載開始したばかりの勘違い系です!
どちらも面白いので、是非ご覧ください!
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2023/7/25
他の小説の話を間違えて投稿しちゃいました、申し訳ありません。




