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第42話 帰る場所

「では、彼女はウォーケン様のお眼鏡にはかなわなかった、と?」


「実力はある。だが、師の元で腕を磨けば更に上を目指せる⋯⋯今はまだ早い、と判断した」



 王都で出会った少年と共に、母親の元へと薬を届け、物見遊山を兼ねて帰路をのんびりと旅して2ヶ月、俺達はアレンポートへと戻った。


 オラシオンの奴は何故か、俺が王都で衛兵をぶっ飛ばし、街中でスカウトマン──ベイドラント、という名前らしい──と揉めた事まで知っていた。


 いや、噂って怖いな。


 で、


「何故ウォーケン様は、彼女をそのままにしてきたのですか?」


 と聞かれたので、俺は答えた訳だ。



 いや、ぶっちゃけケーキは充分に旨かったし、連れて来れるものならそうしたかったわけだが。

 だが実際の所は拒否され、連れて来れなかった訳だし。

 それを素直に認めるのは、上官として格好悪い。


『ええっ、ダメだったんですか⋯⋯情けない』


 となるのは⋯⋯いや、俺は良いよ?

 ぜんっぜん構わないよ? どう思われようが。

 でも、ほら、コイツらのモチベーション低下を考えるとさ?

 尊敬してる人の失敗とか、見たくないじゃん?

 俺も魔王様の失敗なんて見たくないし⋯⋯いや、いつか俺の女にするときには、負かさないといけないけどさ。

 でも、俺以外の奴に追い詰められたりしてる所を見るのは嫌だ。


 コイツらだって、俺の失敗なんて見たくないに決まってる。

 だから、ここはあえて保留にした、そういう事にしておこう。


 そう、これは見栄などではなく、部下のモチベーション管理だ。

 できる男は、周囲にやる気を出させる事はあれど、やる気を奪うなんて事はしないのだ。

 俺の言葉に、オラシオンは苦笑いを浮かべた。


「自分と敵対するかも知れない人物に、腕を磨く機会を与えるなど⋯⋯いや、ウォーケン様らしいと言えばそれまでですが」


 ⋯⋯敵対? 大袈裟だな。

 ああ、魔族排斥派だからって事か。

 まあ俺にケーキは売らない、とかになってしまえば、オラシオンに買わせればいいしな。

 うん、そうしよう。


「まあ、俺の手に余るようなら、お前に任せよう」


 俺の言葉に、オラシオンは伏し目がちに笑った。


「ふふふ、わかりました。私も現状に満足せず、高みを目指せ⋯⋯という事ですね? ご期待に添えるよう、より一層精進致します」


 ほら。

 部下のモチベーションアーップ!

 何の高みを目指すつもりかは知らんが、高みを目指す事は良い事だ。


 これが出来る男の話術よ。


「その通りだ」


「わかりました、その際はご用命下さい。我が命に代えても成し遂げます」


「うむ」


 命懸けでケーキ買うとか何言ってんの? とは思うが、ここはモチベーション低下防止のため、鷹揚に頷く。

 しかし、あのスカウトマン有名人なのか。

 今までどんなスイーツ作ったんだろう? オラシオンに聞いてみようかな?


「オラシオン、パティシエについてだが⋯⋯」


「ああ! そうだ、お忙しいかと思いまして、こちらで全て手配しておきました、既にあのお店は再開してますよ。ウォーケン様がお戻りになったら是非訪ねていただきたい、と」



 ⋯⋯ん?





──────────────



「お、本当だ。店が開いてる」


 アレンポートを出発する前、確かに閉店していたはずの店が再開していた。

 店に入ると⋯⋯


「あっ、ウォーケン様、お待ちしてました」


 出迎えてくれたのは、王都で会った、黄色いクリームの絶品ケーキを売っている店の売り子だった。

 ⋯⋯何故ここに?


「先日は王都でありがとうございました。自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません。私はマリベルと申します」


「マリベルか。覚えておこう」


「ありがとうございます。王都で過分なお言葉を頂き、あのお店を閉める踏ん切りがつきました」


「そうか」


「はい、それでお言葉に甘えてウォーケン様に雇って貰おうと思って、オラシオン様に事情をお話すると、このお店の再開を手配してくれたんです」


「なるほどな」


「はい。あの時はちょうど焼き菓子が焼きあがる時間だったので、話途中で中座してしまい⋯⋯大変失礼しました」


 ⋯⋯ん?

 ということは、こいつがあの店のパティシエ?

 売り子ではなく?

 中座したのはパティシエを探しに行ったからではない?


 しばし俺が考えていると、マリベルが不安げな表情になる。

 おっと、ここは出来る男として、気の利いた事の一つも言わないとな。


「ふっ⋯⋯俺の話す事など、せっかくの焼き菓子を焦がす事に比べれば、些細な事だ。俺の言葉なんて、お前が作る菓子程の価値はないぞ、マリベル」


 俺が言うと、マリベルは儚げな雰囲気にそぐわない、紅潮した表情で言った。


「やっぱり⋯⋯ウォーケン様は、私が思った通りの方です」


「そうなのか?」


「はい。今まで知り合った男性は、最初こそ『お菓子づくりができるなんてすごいね』なんて言ってくれますが⋯⋯私が仕事に夢中になっていると、すぐに『お菓子づくりなんて』と言い始めるんです」


「ひどい話だな」


「はい。だから私はびっくりしました。王都でのウォーケン様のご様子見は、お菓子づくりやお菓子そのものに深い愛情を感じました」


「そうか」


「だから私⋯⋯ウォーケン様のお側で、お菓子をつくりたい⋯⋯そう思ってこの街に戻ったんです」


 そう言って、マリベルが縋るように俺を見てくる。

 ふむ。

 何て返そうか⋯⋯まあ、変に言葉を飾らず、そのままでいいか。


「マリベル」


「はい」


「俺は使命があってこの大陸に来た」


「⋯⋯はい、存じてます。色々と噂は聞いていますので」


「これからも、この大陸中を回る必要がある。この街に滞在するのも、一時的な事でしかない」


「⋯⋯っ、はい」


 マリベルはエプロンを掴み、下を向いた。

 ふふふ、心配するな。

 ここまではあくまで前置き。

 ここからが大事な話だ、俺は次の言葉を続ける。


「だが使命の途中、お前(の作るケーキ)に出会ってしまった。俺の心を強く縛り付ける、お前(の作るケーキ)に」


「⋯⋯! は、はい!」


「だから、ここで待っていて欲しい。この大陸でここが⋯⋯俺の帰ってくる場所だ」


「はい、私は⋯⋯ここで待ち続けます! ウォーケン様にいつでも、私のケーキを召し上がって頂けるように⋯⋯!」


「ありがとう。では早速、ケーキを貰えるかな?」


「はい、ご用意します!」


 







 運ばれてきたケーキは、王都で食べた物よりも良い香りがした。


「あのケーキをさらに改良しました⋯⋯どうですか」


「うん、旨い⋯⋯こんなケーキを食える俺は幸せ者だ」


 ケーキを食う俺を、マリベルは嬉しそうに眺めている。

 それは、単に自分が作った物を美味しそうに食べる姿が微笑ましい⋯⋯という範疇を越えているような?

 ⋯⋯じゃあその感情は何か? と聞かれたらサッパリわからんが。

 なぜなら、今はそれどころではない。


 視線を受けながら、俺の脳内を一つの疑問が支配していたからだ。




 

 王都で会ったあの二人⋯⋯誰?






 なんか話が噛み合っちゃったけどさ⋯⋯いや、思い返せば、あの偽パティシエ⋯⋯。


 俺の言葉に「お前は何を言っているんだ」みたいな顔してたぁあああ!

 そうか、あの女、俺が頓珍漢な事言っても、「頑張ります」とか、気を使って適当に話を合わせてくれたんだ!

 まるで子供に適当に返事する親みたいな感じで!



 恥ずっ! 俺恥ず!

 あの二人には、もう合わせる顔がない!


 ⋯⋯よし、あの女の匂いや気配は覚えたし、出逢わないように気をつけよう。

 エンカウントを避けまくってやるぜ、俺の鼻を駆使すれば簡単だ。


 二度と会わない相手なら、かいた恥も無効!

 だから、あの女とは絶対に会わないようにしなければ。

 あと、オラシオンとあの二人について話すのもよそう。

 偶然話が噛み合ったが、話し過ぎればボロが出そうだ。


 王都での出来事は、もう部下たちとも今後は話さない。

 高みがどうのこうの言ってたし、オラシオンが何か言ってきたら「まだ早い」とでも返しておこう。


 よし、方針決定!

 もしあの女が近くに来たら──全力で逃げてみせる!




 しかしまあ、悪いことばかりではない。

 これで食べたい時には、いつでもこのケーキを食えるって事だ。

 当面の目標は完全に達成した。

 後顧の憂いなしってやつだ。

 細かい事は気にしてもしょうがないし。


 ではそろそろ。







 ──ちゃんと勇者でも捜すとしようか。





お待たせし過ぎてすみませんでした!

なんか書けませんでした。


ウォーケンは気に入っているのでまた続き考えたいと思ってます。


気長にお待ちいただければ幸いです。


今がだいたい本一冊の文章量になりますので、ここまでの一区切りで


「面白かった」

とか

「続きが読みたい」


と思って頂けた方は、★とかしていただけるとモチベーションが上がります。


よろしくお願い致します。

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[良い点] 勘違い系は、ニヨニヨしちゃうの [気になる点] プロポーズしやがった・・・魔王様にバレたら [一言] 魔王様頑張れ。
[良い点] 更新来たぁ!! この作品最高すぎるんですが作者は本当に大変な作品でもあると思ってます。 今後も楽しみにしています♪
[良い点] わたっしまーつーわ いつまでもまーつーわ(野太い声で
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