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第34話 王都

 アレンポートからの旅路には、オラシオンが手配した馬車を利用した。

 馬車は初めてだが、乗ってみるとこう、まどろっこしいな。

 自分で走った方が早い。

 まあ、一人だと途中でそうしていたかもしれない。

 道中での話し合いの結果、ロクサーヌには俺の呼び方はともかく、話す際の敬語を禁止した。

 ロクサーヌは少し渋ったが、じゃあ友人ではなく部下になるか? と聞いたところ、慌てたように首を振った。

 それでも、と言いながらロクサーヌは条件を出してきた。


「じゃあ、二人の時だけね! オラシオン様ってそーいうのうるさいからさ」


「そうみたいだな、堅物っぽいし。良い奴だけどな」


「へへ、そうなの意外だよねー。実は私も喋り方無理してたんだ」


「そうか。俺は友人に無理をさせる男ではないからな、ふっふっふ」


 これに慣れてくれれば、旦那様などという奇妙な呼び方を改める日も来るだろう。



 十日後。

 俺とロクサーヌは王都を一望できる場所まで辿り着いた。 


「旦那様! 見えたよ!」


「だな」


 こうして王都の門に着いたわけだが。

 どうやら門は通行が制限されているらしく、簡単な取り調べがあるみたいだ。

 門の前には詰め所があり、数人の門番が人の出入りを管理しているようだ。

 待ち人たちの列に並び、しばらくして俺たちの順番が来た。


「こちらをご確認下さい」


 ロクサーヌが一枚の紙を取り出し、衛兵へと差し出した。


「ふむ、⋯⋯ウ、ウェルナンド商会!? あの王国最大手の⋯⋯名前はウルケンとロクサディア、ね。この紹介状によると、お二人は⋯⋯?」


「はい、夫婦です。つい先日結婚したばかりで、王都へは商用と新婚旅行を兼ねて参りました」


「なるほど。身元保証人も確かですし、問題ありません。では所定の通行料を払って、そのあと魔族検査用暗室へ」


「はい」


 ウェルナンド商会とやらは知らないが、恐らく偽造だろう。

 出発前、オラシオンがロクサーヌに何やら色々渡していたしな。

 よくできた部下だ。

 その甲斐あって、俺が口を挟む事なく受付は進んでいるが⋯⋯。


 魔族検査用暗室?

 やばいんじゃね?


 だって暗がりだと、虹彩のせいで魔族ってバレちゃうじゃん。

 それとも王都は、魔族フリーって事か?

 まあ、よくわからんし、入ってみるか。







 暗室へと向かう最中、ロクサーヌが兵士には聞こえない程度の小声で呟いた。


「旦那様、わたしがやっても良い?」


 その一言で状況を察する。

 やはり、この暗室で魔族かどうかチェックし、魔族なら何らかの処置を取る、ということだろう。

 魔族フリーな訳ないか、フリーならそもそもチェックする必要ないし。

 


 ロクサーヌの言葉から判断するに、恐らく、暗室で兵士が「魔族だ!」と騒ぐ前に殺す、という事だろう。

 ロクサーヌも、もしかしたら既に、何度かこの手の汚れ仕事をこなしているのかも知れない。

 先日見せた魔術の腕前を考えれば、そんじょそこらの兵士を殺す事なんて楽勝だろう。


 だがなぁ。

 俺がいるのにロクサーヌに手を汚させるってのも⋯⋯。

 しかも今回の王都訪問の目的は、魔族排斥を掲げた派閥に存在するパティシエの雇い入れな訳だし。

 衛兵殺して会いに来た、なんて知れたら態度を硬化させそうな気もする。

 そもそもパティシエを雇う為に、まず邪魔な衛兵を殺害して排除しましょう、ってのもな。

 自分自身を倫理的だとも思わないが、これまで出会った羊飼いのおっちゃん、団子屋のおばちゃん、それにオラシオンと人間にもいい奴多いからなぁ。

 衛兵にも良い奴がいるかも知れん。


「お願い、私も充分やれるって事を見せたいの、私は旦那様の⋯⋯友人なんだもの」


 そうか。

 そこまで言うなら、と頷く。

 俺の勝手な良心でロクサーヌを甘やかし、友人の誇りを傷つけるのは、できる男のやる事ではない。

 手間取るようなら、俺がやればいい。


 改めて周囲の気配を調べる。

 兵士らしき気配は、二十人前後。

 ま、問題ないだろう。


 人間の街の事は詳しくないが、例え魔法使いがいたとしても、まさか魔将軍クラスの使い手が、たかだか門の警備をしているとも考えにくい。

 そんな人材を門の警備に配置出来るほど人材が豊富なら、もう人間どもはとっくに暗黒大陸に攻め込んで来ているだろう。


 暗室と呼ばれたのは、レンガ造りの建物だった。

 それほど大きくはない、おそらく一部屋程度で、五人も入れば狭く感じるだろう。

 それが五棟ほど並んでいる。

 複数の通行人を一度にチェックするためだろう。

 そのうちの一つ、一番左の建物の扉を兵士が開けて入室し、続いて俺とロクサーヌで入る。

 中には小さな蝋燭が一つ。

 狭い部屋だが、空気の流れを感じる。

 燃焼による酸素の枯渇を考えてか、床の四方は地面スレスレに、また天井にも通気孔があるが、光が入らないように工夫しているようだ。


「ではチェックしますね」


「はい」


 ロクサーヌは返事をしながら、兵士からは死角になるように身体を少し傾け、指をせわしなく動かした。

 そして兵士がロクサーヌと俺、それぞれの目を覗きこみ⋯⋯。


「⋯⋯はい、オッケーです。規則なのですみませんね」


「いえ、お勤めご苦労様です」


「では王都へようこそ」


 何事もなかったように、入室したのと反対側に案内され、外に出た。

 兵士は付いて来る事はなく、元の入り口から持ち場に戻ったようだ。


「うまく行ったね!」


 小声だが、興奮したようにロクサーヌが呟く。

 ふむ。


「無詠唱の幻術だな。上手くごまかせたな」


 あの指の動きが、魔法を使用するための固有行動(ユニークアクション)、ということだろう。


「うん! 練習通りできたよ、まあ旦那様から見たらまだまだだろうけど」


「いや、見事だったぞ」


「ほんと!? へへーっ、嬉しいな」


 実際、ここに来るまで手形や紹介状の事など頭に無かったし、ロクサーヌを伴っていなければ門で一悶着起こしていたのは確実だ。

 持つべきものは友だな。



 俺が内心でロクサーヌのことを高く評価をしていると⋯⋯。


「誤魔化せると思ったのか、薄汚い魔族め! 逃がすか!」


 衛兵の叫び声がしたのち、次に


「ピピッ! ピピピピーッ!」


 と、鋭い警笛の音が周囲に鳴り響いた。

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