表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/46

第32話 オッサンの世話を押し付ける

 さて、気絶したオッサンをどうするか。

 それが当面の問題だ。


 俺はオッサンを抱えたまま、街道を進んでいた。


 おっ?


 なんか村がある。

 とりあえず、あそこに行くか。


 少し街道を離れた場所に、その村はあった。

 結構寂れているが⋯⋯なんか、復興中って感じだ。


 俺は道を歩いていた爺さんに話しかけた。


「なあ、じーさん。この村、何て名前だ?」


「ああ、ここはレビーサ村⋯⋯あっ、あなたは!」


 爺さんは俺を見ると、びっくりした表情を浮かべた。


「そのお姿⋯⋯まさか、ウォーケン様では?」


 え?

 なんでこんな村の爺さんが、俺の事を知ってるんだ?


 俺が疑問に思っていると、爺さんが叫んだ。


「おーい! ウォーケン様が、ウォーケン様がおいでなさったぞ!」


 爺さんの呼びかけに、村から人がワラワラと集まってきた。

 見ると、ほとんどジジババだが、数人の若者が混ざっている。


 その若者の中から、ひとりが歩み出てきた。

 若者はそのまま俺に近づき、跪いて顔を上げた。


「そのお姿⋯⋯マウン様から聞いております、ウォーケン様。われらをあの忌々しい船から解放し、新たな生き方を与えてくれた、と」


 ⋯⋯なんの事だ?

 全然身に覚えがない。

 まあ、素直に聞いてみるか。


「さて、何の事だかな」 


「ふふ、あの方に聞いている通りです。そんなご謙遜頂かなくても大丈夫ですよ、我々はわかってますから」


 あ、これダメだ。

 コイツ、あのマウンの奴と同じ目してる。


 綺麗な瞳してるだろう? コイツ完全に誤解してるんだぜ? って感じだ。


 なら、無理に誤解を解かなくて良いか。

 

 俺がそんな事を考えていると、今度は爺さんが俺に近寄ってきて、オッサンを抱えている手と反対の手を握りながら、泣き始めた。


「ワシはこの村の村長です。この村は、マーラン伯爵の悪政によって、滅ぶ寸前じゃったんじゃ」


「そうか」


「はい。若者は無理やり徴兵され、若いおなごは奴の慰み者にされ⋯⋯この村には、老人しか残されていなかったんですじゃ」


「大変だったな」


「ええ、それをアナタ様が、奴隷を安くしてくれたおかげで、なけなしのお金で、何とか働き手を確保できました。もちろん、彼らを奴隷として扱ったりしておらん、新しい家族としてここに迎え入れたつもりじゃ。アナタは村の救世主じゃ、本当に、本当に、ありがとうございます」


 なるほど。

 ジジババは元々の村人、若者はあの船に積まれていた魔族で、奴隷⋯⋯いや、今はこの村の家族って事か。

 だけど、俺のおかげってのがわからん。


「俺のおかげなどと思わなくていいぞ、俺は何もしてないからな。頑張ったのは、あくまでお前たちだろう?」


 だって、奴隷を買う金を用意したのはコイツらだ。

 ふっふっふ、俺は金のありがたみがわかる、違いのわかる男だ。


 俺の言葉に、村人がざわついた。

 


「おお⋯⋯何と謙虚な⋯⋯」


「これが、ウォーケン様⋯⋯正に人の上に立つに相応しいお方⋯⋯」


「やはり排斥派は間違えている⋯⋯この方に会えば、すぐにでもわかるはずだ⋯⋯」

 

「他の村にも伝えないと⋯⋯」


「少し疑っていた、そんな自分が恥ずかしい。やはり人と魔族の融和こそ、大事なことなんだ⋯⋯」


 ⋯⋯何かさらに勘違いが加速した気もするが、まあいいか、本題に入ろう。



「少し、頼みたい事があるんだが」


「はっ、何なりと」


 答える若者の前に、俺は担いでいたオッサンを下ろした。

 すると、村長が叫んだ。


「こっ、こやつは!」


 おっ。

 知っているのか。


 どうやら若者も知っているみたいだ。

 ブルブルと体を震わせている。


 やべー。


 ヤッパリこいつ、融和派とかいうやつの、偉い奴なんだな。

 だから、意識を失ってる姿を見て、こんなに震えるほど焦っているんだろう。


 二人だけではない、村人は次々と言い始めた。


「こいつには、息子が!」


「私は、娘を!」



 へーっ。

 ずいぶん色々な人を世話してやってるんだな。

 さすが魔王様の知り合い。


 俺は若者に聞いてみた。


「コイツは、お前にも色々とやってくれた⋯⋯そうだな?」


 俺の言葉に、若者は頷いた。


「はい。私の父母は以前、コイツの⋯⋯」


「いや、みなまで言わなくていい」


 そこまで興味ないし。


「はっ、失礼しました」


 若者が答えてくる。

 うんうん、素直な奴だ。

 さて、本題に入るとするか。


「コイツの面倒⋯⋯任せても良いな?」


 俺が頼むと、若者は驚きに、少し喜悦を混ぜたような表情を浮かべた。


「よ、よろしいのですか!? 助けて頂いただけでなく、こんな機会まで!」


 ⋯⋯?

 何コイツ、オッサンの世話するのが好きなの?

 あ、そうか。

 だからジジババの村がコイツには合ってるんだろうな。

 俺にはわからん趣味だが、まあ、それも人それぞれか。


「ああ、好きにするが良い」


「はい! ありがとうございます! 何という慈悲深い方なのだ⋯⋯自分でやれば簡単なのに、コイツに対しての我々の気持ちを考え、わざわざここに連れてきてくれた⋯⋯そうですね?」


 いちいち大袈裟な奴⋯⋯。

 もう面倒だし、それで良いよ。

 

「まあ、そういうことにしといてくれていい。その代わり、しっかり面倒見てやってくれ」


 俺の言葉に、若者は心底嬉しそうな笑みを浮かべながら頷いた。


「ええ、しっかりと面倒見てやります。しっかりと⋯⋯ふふふ、楽しみです」


 若者は「覚悟しろよおっさん、この俺がトコトン面倒見てやるぜ」そんな気持ちが伝わってくる、何か仄暗い信念と覚悟を感じさせる表情を浮かべていた。


 ⋯⋯ここまで来ると、何かちょっと怖いな。

 オッサンの面倒見るのに、何か執念すら感じる。


 まあ、良いか。

 しかしこんだけ慕われてる様子を見るに、オッサンは幸せ者だな。

 きっとこの村でも、このあと相当歓迎されるんだろうな。

 良かった良かった。


  




 俺はオッサンを置いて、アレンポートへと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
新作です!

『レンタル魔王』は本日も大好評貸出中~婚約破棄騒ぎで話題の皇家令嬢に『1日恋人』を依頼されたので、連れ戻そうと追いかけてくる婚約者や騎士を追っ払いつつデートする事になりました~

「決勝で会おうぜ!」と約束したのに1回戦で敗退した俺。いつの間にか「真の優勝者はアイツ」みたいな扱いをされてしまう~待って待たれてまた待って~

その他の連載作品もよろしくお願いします!

『俺は何度でもお前を追放する』
コミカライズ連載中! 2022/10/28第一巻発売! 下の画像から詳細ページに飛べます!
i642177

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
書籍化作品! 画像クリックでレーベル特設ページへ飛びます。
i443887 script?guid=on
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 名前すら名乗れない哀れな伯爵!一センチぐらい幸あれ(笑)
[良い点] 天然世界最強生物って○ーズ様をも超える逸材 [気になる点] 最終的にノクターンでハー○ムを築く2ndストーリーか展開するわけですね、わかります。 [一言] 悪役さん、寝ても覚めても生き地獄…
[気になる点] 魔王城にタッチがおいてあるのかな? 魔王様はサンデー派かな? 魔王城に魔王城でおやすみあったらシュール
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ