第18話 固有行動(ユニークアクション)
左手を右肩に。
右手を、落下してくる物を受け止めるように前に出す。
その後奴は口を動かし、傷の回復を行った。
詠唱前に行った動き、それが奴の回復魔法の固有行動、ということだ。
俺は吹き飛んでいった奴の動きを、遠目からでもしっかり観察していた。
対魔法使い戦において、この固有行動の看破は必須だ。
魔法を行使する上で省けない行動。
それが固有行動。
魔法というのは厄介な事に、「範囲内必中」だ。
魔法が発動された時点で、効果を及ぼす範囲内にいれば、防ぐ方法はない。
対処法は二つ。
発動前に範囲外に逃げる。
発動前に、叩き伏せる。
この二つだ。
その二つを可能にするためには、まずは魔法の範囲を知ること。
そして相手がどれだけ詠唱を短縮、または無詠唱で魔法を行使できるのか。
固有行動に要する時間はどの程度か。
その三つの見極めだ。
俺が魔王様より「自分の方が弱い」と結論付けているのも、その三つ。
魔王様の魔法範囲は、他の魔将軍と比較しても別格。
しかも無詠唱魔法の達人なうえ、固有行動も最速で最小限。
魔法を食らえば即気絶、という弱点を持つ俺にとって、まさに天敵だ。
逆に言えば、魔法使いにとって魔法の範囲や詠唱の有無、固有行動を見切られるのは死活問題、ということだ。
他の魔将軍たちも、固有行動は何かを悟らせないように、巧妙に隠蔽している。
固有行動に無意味な動きを混ぜ、フェイントをし、幻惑してくる。
固有行動を見切られるってのは、「今からこの魔法発動するよー」と相手に知らせるようなものだからだ。
だからこそ固有行動を見切り、魔法を空振りさせ、安全圏から一気に間合いを詰め、一撃を叩き込む。
それが俺の魔法使いへの対処法だ。
相手を如何に倒すかを考える時間は──楽しい。
それは、山には無かった娯楽。
駆け引き。
山では駆け引きもクソもなかった。
殴って、殺す。
それだけ。
それは戦闘ではない。
俺は山を降りて、初めて「戦闘」の喜びを知った。
自らの特性を把握し、相手を出し抜く。
最高の娯楽だ。
そんなことを俺が考えていると、後ろから声をかけられた。
「だ、旦那⋯⋯大丈夫?」
ロクサーヌが心配そうに俺を見ている。
心配ない、と言いたいところだが、こればっかりはわからないからなぁ。
「さあな。負けるかもしれん⋯⋯殺す気なら、さっき殺せてたがな」
手加減はミスしたが、それでも壁にぶつけて気絶くらいはさせるつもりだった。
あの一瞬でとっさに防御魔法を発動し、傷をあっさり癒やす、しかもそれなりの身体能力を持つ相手となれば、必勝とはいえない。
「おい⋯⋯もし良ければ、俺が少女を連れて逃げよう。だから、この鎖を何とかしてくれないか?」
鎖を巻いた変態が何か言ってきた。
「いや、お前はあいつの仲間だろ?」
「いや⋯⋯どういう勘違いをすればそうなる⋯⋯あの男、オラシオンは敵だ」
え?
あいつがオラシオン?
ふむ。
じゃあこの鎖男は、勇者の居所を聞くのには関係ないな。
「じゃあそうしてもらおうか」
俺は鎖男の背後に近付くと、巻かれている鎖を背中の部分で連結している、部品らしきものを手刀で断ち切った。
山には物を切る道具が無かった。
なので、素早く手を動かして振り抜き、物を切断する技術が身に付いたのだ。
鎖がほどけ、男は解放された。
振り向いた男は、真っ二つになった部品を、驚いた様子でみている。
「お前⋯⋯これを素手で⋯⋯? いや、そうか、切断系⋯⋯しかし無詠唱でここまでの断面⋯⋯」
男がぶつくさ言っている。
「ほら、怪我人は邪魔だ。さっさとロクサーヌを連れて⋯⋯」
──と。
オラシオンが倉庫へと戻ってきた。
服はボロボロで⋯⋯何だ?
左手に、先ほどまで無かった腕輪がはまっている。
そのまま奴は倉庫内に転がっている剣を拾い上げると、そのままこちらへやってきた。
「逃げるのは間に合わなそうだ、何かあったら彼女を庇え」
「しょ、承知した。あと、俺の名はマウン。何か指示があれば名を呼ぶが良い」
「ああ」
適当に返事をしながら、オラシオンを観察する。
──妙だな。
さっきまでベラベラ喋っていたのに、無言だ。
しかも、何か⋯⋯違和感がある。
本来あるべきものが、ない、と感じる。
そのままオラシオンは、まっすぐこちらへと歩み寄ってきた。
もう少しで、また俺の間合い。
まあ、好都合だ。
殺さないと決めている以上、拘束するのがベスト。
先ほどからの観察により、やつの固有行動は手が起点となっているようだ。
両腕をへし折れば、魔法をくらう事もないだろう。
──と、その時。
「ふぅううううううっ!」
奴が勢いよく、息を吐いた。
そこで、感じていた違和感の正体に気がついた。
奴は、息をしていなかった。
呼吸を止めていた。
呼吸音が聞こえていないという事実を、俺の耳は拾っていたのだ。
まさか。
呼吸を止め、吐く。
それが奴の固有行動?




