第10話 割り込み禁止
どうやらこれなら足りるようだ⋯⋯と安心していると、俺たちのやり取りを見ていた男が話に割り込んで来た。
「旦那、旦那! 旦那ほどの方がそんな奴を案内人にするなんて勿体ない! ここは俺に任せてくれよ! 希望の奴隷をバッチリ紹介しますぜぇ!」
言葉から察するに、どうやら同じ案内人のようだ。
男の登場に、少年はウンザリした様子で食ってかかった。
「おいおい割り込みは禁止だよ! 最大手案内所の人間が、案内人の仁義守らないなんてどういうことだい!」
俺をそっちのけで何やら揉め始めた。
「あーん? オメェラが仁義語るんじゃねぇよ、大体どうせ騙してこの旦那捕まえたんだろ?」
「人聞き悪いこと言わないでよ」
「旦那、あんたどうせ『一番の案内人が必要なら金を弾め』とか言われなかったか?」
男が俺に聞いてくる。
「ああ、言われたな」
「それだ! それがコイツらの手口さ。あんたが幾ら払おうが、案内人するのはコイツって寸法だ。そうやって一見さんを騙すのがコイツらのやり方なんだぜ?」
「ち、違う! それはムグッ⋯⋯」
少年が何か言おうとするも、男はさっと手を伸ばし、口を塞いだ。
「ね、旦那。こんな奴ら相手にしちゃあダメですぜ」
そう言うと男は、少年の手から金貨をもぎ取った。
「な、何するのさ!」
「うるせぇな、黙っとけ。それとも何か、俺たちと本気で揉めるつもりか? ババアとお前のたった二人で、仁義とやらをどこまで通す自信があるんだ?」
男は耳元でこっそり少年に言っているつもりのようだが。
残念ながら俺は地獄耳だ、しっかり聞こえてる。
「くっ⋯⋯」
「ね、旦那。俺が案内しますよ、いいでしょ?」
勝手に話を進める男に、俺は手を伸ばした。
男が不思議そうな表情をしたが、しばらくして聞いてきた。
「旦那、どういう事です?」
「金返せ」
「へっ?」
「早くしろ」
俺が語気を強めると、男はしぶしぶといった様子で金を返してきた。
受け取った金貨を再度少年に渡すと、二人が驚いた表情を浮かべる。
「いくぞ」
「ちょちょちょ、旦那、どうして?」
男がしつこく食い下がってくる。
面倒だが理由を告げることにした。
「お前、口臭いからやだ」
「⋯⋯ぷ、ははははははは!」
少年が笑い出すと、男が顔を真っ赤にして叫んだ。
「わ、笑うんじゃねぇ! クソ!」
うーん、どうでもいいからさっさと出発したい。
ここでのやり取りに興味を引かれたのか、なんか周りにも人が集まってきてるし。
俺は勇者探しに関係ない事で注目を浴びたくはない。
そう考え、少年を肩に担ぎ上げた。
「わ、わわわ」
「首にでも掴まってろ」
「えっ、ちょっと⋯⋯わーーーーっ!」
人垣を飛び越え、外側に着地する。
「え、なんだ今の⋯⋯」
「魔法じゃないのか?」
「いや、呪文を使ってる素振りなんてなかったぞ!」
背後で色々と何か言っている。
ざわつく集団を振り切り、そのまま市場の奥へと駆ける。
「わっ、うぇ、ひゃ、ひぃん」
「口閉じてないと舌噛むぞ」
片手一本で肩に担いでいるので、少年が上下に揺れ、それに合わせて呻き声がする。
しばらく駆け続け、先ほどの場所からかなり離れた場所で肩から下ろした。
俺は息一つ切らしてないというのに、担がれていた少年がゼエゼエと悶えている。
情けないことだ。
「軽いなお前、ちゃんと飯食ってんのか?」
「旦那、ハァハァ、が、バカ力、ハァ、過ぎるんだよ、ハァハァ」
少年の呼吸が落ち着くまで待つ。
しばらくして、息を整えた少年が聞いてきた。
「しかし旦那、凄いジャンプ力だね。しかも人を抱えて⋯⋯信じられないよ」
「ん? そうか? ふふふ」
全然本気じゃないし、全力ならもっと飛べるけどな。
そういうのは言わぬが華だろう。
「⋯⋯あと、さっきの話だけど」
「さっきの話?」
「あの男が言ってたでしょ? 騙そうとかなんとか⋯⋯」
「ああ、気にしてない」
「え? 本当に?」
「ああ。最高の案内人⋯⋯なんだろ? それが本当なら、あとはどうでもいい」
「し、信じてくれるの?」
「ああ、俺は人を見る目には自信がある。ボウズは最高の案内人のはずだ」
ふっふっふ。
俺が言ってみたかったセリフその6、『人を見る目には自信がある』、だ。
ようやく言えたぜ。
とっても強者感っつうか、出来る奴っぽさ溢れてるよな。
俺の言葉に、きっと少年も目を輝かせ⋯⋯おや、なんか半目だ。
「旦那、見る目あるけど、見る目無いね。取りあえず何を案内すればいい?」
どういうことだ? それになんだか不機嫌そうだ。
まあいいか。
「取りあえず、この街で一番旨い甘味を出す店に案内してくれ」
「え? 甘味?」
「スイーツだよ、スウィィツ」
俺のリクエストに、少年はどの店にするのか考えでもしているのか、少し首を傾げたあと、口を開いた。
「⋯⋯似合わないね」
うるさいな。