ドール ー3
ただ土を掴んだだけなのにボクのイメージした通りに頭部が出来上がってる。
何が起こったのか訳が分からず、しばらく呆然としていたボクは気を取り直し完成した頭部をシートの上に置くともう一度土に手を伸ばした。
これがボクのスキルの力なのだろうか?
さっきは頭部をイメージしながら土に触れたけど、今度は胴体をイメージしながら試してみよう。
ボクは再度図面を見ると目を瞑り頭の中で完成図を強くイメージする。
質感、大きさ、重さ、色、香り。
より具体的に、より鮮明に――。
目を開けボクはゆっくり手を伸ばす。
緊張に喉が渇き、指先が僅かに震えている。
大きく手を広げ大胆に土塊を掴み取る感覚は先程とあまり変わりはない。
ボクはゴクリと唾を飲み込むと視覚を閉じ恐る恐る手を引き抜いた。
――明らかに先程までとは違う感触。
大きさに見合わぬ質量、それでいて表面は磨かれたようにスベスベとしていて障り心地はとても良い。
すべてがボクのイメージした通り。
傷付かぬよう丁寧に頭部の隣に並べ図面と再度見比べてみる。
やはり寸分の狂いもない出来栄え。
「すごい」
土に触れただけでこんなことが出来るなんて。
手を返しながら表と裏を繰り返し見やるが、特に変わったところは見当たらない。
これなら難しい技術を習得する必要もないし、道具だって必要ないかもしれない。
“ドール・マスター”
人形作りには本当に最適なスキルなのかもしれない。
――あと両手、両足さえ作れば人形は完成する。
ボクは今まで感じたことのない高揚感にすぐさま土を手に取ると作業を再開させる。
右手、左手、右脚、左脚
本来なら水を加えてから土を練り、成型して乾燥させる必要がある。
難しい工程はないが泥人形と言えどちゃんとしたものを完成させようとすれば少なくとも数時間は時間を要する。
しかしスキルのおかげですべての工程を省くことができ、全身を作るのになんとものの数分も掛からなかった。
「あとはそれぞれの部位を組み合わせれば完成っと」
両脚を立てその上に胴体を乗せる。
つなぎ目は胴体に穴が開いており、両脚と両手、頭部を差し込めるよう設計してある。
腕を差し込み、最後に頭を乗せれば――
「出来た!」
ボクが初めて作った泥人形。
一から材料を集め、誰の力も借りずに作り上げた。
達成感は、正直スキルのおかげであまりないけど、でもそれでもボクの心はすごく充実していた。
「そうだ、折角だから制作者の名前も入れておかないとね」
三頭身の愛くるしい泥人形を持ち上げ机の上に乗せると、背中の下に彫刻刀で名前を刻む。
「えーっとルーク・シェラード作。うん、これでよし!」
名を入れたことで何となくだがこの人形にも魂が宿ったようなそんな気がした。
「それじゃ残りの材料も使ってもう一体作ってみようかな」
こんなに早く完成すると思ってなかったので夕飯までまだまだ時間はたっぷりある。
今度は別の形にしてみようかな。
床に置いてあった図面とペンを拾い上げ、ベッドに横たわり頭の中でイメージを膨らます。
今度は人型じゃなくて、動物とかどうかな。
複雑な形も作れるのだろうか。
試してみたいことは山ほどある。
……うーん、どうしよう。
「お前は、どう思う?」
人形好きな人なら分かると思うが、誰も居ない所でついぬいぐるみや人形に話しかけてしまう。
別に返事を期待している訳ではないのだけれど。
ふと先程作った泥人形に目をやる。
「あれ?」
違和感を覚えたボクは慌てて飛び起き机に駆け寄る。
「ない、ない!」
ついさっきまで机の上にあった泥人形が無くなっている。
嘘!?
なんでないの!?
慌てて部屋を見渡すが、泥人形の影も形も見当たらない。
どこに消えたの!?
さっきまで確かにここにあったのに!
訳が分からずただ一人混乱していると、不意に何者かにズボンの裾を引っ張られボクは足元に視線を移した。
この作品を少しでも「面白い」「続きが気になる」と思って頂けたら下にある評価、ブックマークへの登録よろしくお願いします('ω')ノ
”いいね”もお待ちしております(*´ω`)
また、ブクマ、評価してくださった方へ。
この場を借りて御礼申し上げます(/ω\)