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ドール ー2





 説明文には良質な土ほど良い人形が作れると書いてある。


 この屋敷内でボクが入手する事が出来る一番良質な土と言えばあそこにしかない。


 部屋を飛び出したボクは速足で階段を下っていく。



 「――失礼します、母様」


 調剤室の前で足を止めたボクは呼吸を整えると小さく扉をノックする。


 「あら、どうしたのルーク?」


 調合の手を止めた母様は試験管を置きマスクを外すと何故か心配そうにボクの顔を覗き込んだ。


 「ルーク、あなた少し顔が赤いわ」


 「え? そうかな」


 自分の頬を触ってみると確かに少し熱を帯びている気がする。

 

 「熱はないの?」


 「うん、大丈夫だと思う」


 「そう、それなら良いのだけれど。それで私に何か用かしら?」


 「あ、その、母様。母様に一つお願いがあって――」


 「私にお願い? ああ、ルークが欲しがっていたあの薬草図鑑の新書ならちゃんと頼んでおいたわよ」


 「いや、そうじゃなくて」


 「あら、違うの?」


 「うん。そこの菜園で使用している土を少し貰えないかと思って」


 「畑の土を?」



 母様は調剤室の窓から見える菜園に目をやった後、ボクを見て思わず首を傾げた。



 薬の材料に使う薬草やハーブを育てている母様自慢の畑。


 朝早くから土を耕し、小石や雑草を除去し、薬草に合った肥料を与え時間を掛け大切に育てていく。


 数年前からボクも母様の作業を手伝うようになり畑の手入れがどれだけ大変かを知っている。



 「ルーク、畑の土をどうするつもり?」


 「え? あ、えーっと、その、へ、部屋で薬草を育ててみたくて」



 ボクは思わず嘘をついていた。


 神託の儀での父様のあの失望した顔。


 まだどんなスキルかもよく分からないのに例え相手が母様でも誰かを期待させるようなことはとても言えなかった。



 「ダメかな?」



 一瞬悲し気な表情を見せた母様だったがすぐさまいつもの笑顔に戻っていた。

 


 「勿論いいわよ。けど、あまり部屋を汚さないようにね。あの人に見つかったら私まで怒られてしまうわ」


 「うん、わかった」

 

 「ルーク、他に何か必要な物があれば自由に使っていいわよ」


 「ありがとう、母様」

 


 母様に礼を言いそのまま調剤室から庭に降りると、菜園脇に建てられた小屋に足を運んだ。



 丸太で組み上げられた小屋には農作業に必要な用具が一通り揃っており、ボクは母様の言葉に甘えスコップとふるい、それから植木鉢を借りると畑に隅に腰を降ろした。



 土で人形を作る場合、陶器と同じように粘土を使うのが一般的である。


 粒子の荒い土ではどんなに捏ねても目に見えぬ隙間が生まれ、焼いた時に崩れてしまうからだ。


 だが、残念な事にシェラード家の庭では粘土は見当たらない。


 地中深くまで掘ればもしかしたら粘土層があるかもしれないけど、今は出来る限り早く自分のスキルを試してみたい。


 ボクは少し湿り気のある土をふるいに乗せると、余計な枯草や小石を丁寧に取り除いていく。


 粘土とまではいかなくても、不純物の少ない土ならきっと良い泥人形が作れるはず。



 ふるいにかけた土は徐々に雪のように鉢に積もり、それを十数回と繰り返しようやく丁度植木鉢一杯分の材料が手に入った。


 道具を片付け、こぼさぬよう慎重に部屋に運んだボクは床にシートを広げると両手一杯分の土をその上に置き鑑定の書を開く。



 ――さて問題はここからだ。



 どうやってこの“泥人形”スキルを使えばいいのだろうか。


 あの時のように鑑定の書触れてみても、今回はうんともすんとも言わない。


 一通り試してみても何も変化はない。


 仕方なく床に腰を降ろすと汚れぬよう腕まくりをし、小さな山と対峙する。



 まずは一旦手作業で泥人形を作ってみよう。


 もしかしたら何か起こるかもしれない。



 ……でも、泥人形、泥人形、かぁ。



 確かにボクは人形を作るのは好きだけど、実は土から人形を作ったことなど一度も無い。


 いや、もしかしたら小さい頃、庭で作ったことがあるかもしれないけど、残念ながら今のボクにその記憶はなかった。


 そもそもどういうものが泥人形としての正解なの。


 ただ土を固めて人型にするだけでいいのか、それすらもボクはよく分からない。



 何にしてもまずはどんな姿、形にするか決めてしまおう。



 ボクは一旦立ち上がると紙とペンを取り出し簡単な図面を書いていく。



 今回の目的はあくまでスキルの検証。

 

 だから出来るだけ早く楽に作れる方が良い。



 となれば――


 ボクは机の上にあった人形を出来る限り簡略し、書き起こしていく。

 


 ……こんな所かな。



 今回作るのは球体のみを組み合わせたシンプルなもの。


 部品は頭部、胴体、両手、両足のみで、大きさの違う泥の球体を作り組み合わせていく。

 

 これならば難しい作業も必要ないし、短時間で出来るだろう。



 ボクはさっと製図を描き上げると今度こそ作業に取り掛かるべく再び土に手を伸ばした。



 ――よし、まずは頭部から。



 再度図面を確認しボクは気分が高揚するのを感じながら思いっきり手を突っ込む。


 ほんのり湿っているがさらさらと交じりっ気のない良質な土。

 

 母様との畑の手入れで慣れ親しんだ感触が手に伝わる。



 土を掴み手を引き抜いた次の瞬間――



 「……え!?」


 ボクは驚きのあまり思わず声を上げてしまった。

 

 ボクの手の中にあるはずの土塊。


 それが何故か既に頭の中で描いていた頭部の形を成していた。






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