ドール ー1
あれから数日、スキルを授かったボクの日常に特に大きな変化はなかった。
コンラッド兄さまとヴァレイ兄さまはあの後すぐ王都に戻り、シアナ姉さまは部屋で学院卒業に必要な論文を執筆している。
ボクはという日課の畑の手入れと母様の手伝い以外部屋に籠っていた。
神託の儀式でスキルを授かったあの日、ボクは自分自身が情けなくなり夜も満足に寝ることが出来なかった。
ボクには兄様のような剣の才能も無ければ姉様のような魔法の才能もない。
頑張って努力しようにもすぐに身体が悲鳴を上げ、いつも皆の足を引っ張ってしまう。
「――無理する必要は無いわ、ルーク」
ベッドに横たわるボクに掛けられるいつもの台詞。
心配そうに見つめる視線に耐え切れずボクは背を向き布団を被る。
皆が優しければ優しいほど自分の無力を思い知り、ボクの心は酷く締め付けられた。
だからボクはスキルに、神託の儀式に一縷の望みを託した。
兄様たちのような凄いスキルを授かれば、きっとボクも皆の役に立てる。
そう思っていた。
――けど結果は、ただ父様を失望させただけだった。
「こんなゴミみたいなスキル!」
やはりボクはこのシェラード家には必要のない人間。
父様の言葉に諦めにも似た感情がボクの全てを支配する。
台座に置かれた一片のナイフ。
死んでしまえばもうこんな想いをしなくて済むのかな
無意識に手を伸ばそうとした刹那、ザイン大司教がボクをそっと抱きしめていた。
「――ルーク、あなたが神様からこのスキルを授かったのには必ず何かしらの意味あると私は思っています。今は一見価値がないように思えても、いつかあなたの助けるになる日が来るかもしれません」
ボクはベッドの腰掛け鑑定の書をイメージする。
ボクのスキルは父様の言う通りただゴミスキルなのかもしれない。
本当に何の価値もないのかもしれない。
……でも、そんな無価値なスキルでも、もしいつか父様や母様の役に立つ日が来るのならここで簡単に投げ出しちゃいけないんだ。
きっとこんなボクにも何かできることがあるはずだから。
目の前に現れたページには相変わらず“ドール・マスター”というスキル名と説明文が記載されている。
ザイン大司教は鑑定の書には自分の能力が表示されると言っていたけど、今の所これと言って他に何も見当たらない。
「人形を造り出し操ることが出来る能力、か」
ボクはそのままベッドに横になると鑑定の書を隅から隅までチェックする。
スキルを授かったのはいいのだけれどこれって一体どうやって使うのだろうか。
スキル名を言葉にしても、頭でイメージしても一切何も起こらない。
うーん、どうしよう。
シアン姉さまか母様に相談してみようかな。
いや、いや、いや。
姉さまは論文で忙しいし、母様も宮廷からの依頼が溜まっていると言っていた。
もうボクも成人したんだし、これくらいは自分一人で何とかしないと!
でも、どうしよう。
何かヒントさえあれば……。
そうだ!
シアナ姉さまから借りた操作魔法の学術書。
もしかしたらあれに何か手がかりが書いてあるかもしれない。
ベッドから起き上がるとボクは一縷の望みを託し本棚に手を伸ばす。
「えーっと確かこの辺に。あっ、あった」
目の前にあった学術書を抜き取ろうと手を伸ばしたその時、偶然にもボクの指先が鑑定の書のスキル名に触れていた。
「え?」
するとそこには先程まで表示されていなかった見慣れぬ一文が書き記されていた。
”LV1―泥人形”
思わず学術書を放してしまったボクは慌てて本を拾い上げる。
「泥人形?」
なんだろう、これ?
これもスキルの一種なのだろうか?
恐る恐るもう一度画面に触れると今度は更に説明書きが追加表記された。
“土を原料に泥の人形を作成するスキル。良質な土ほど良い人形が製作可能。泥人形の能力や作成数は使用者のレベルに依存する”
これはスキルの説明?
だとするとやっぱりボクのスキルは人形を造り出す能力で間違いないみたいだ。
それにしてもこの説明文に書いてある泥人形の能力って一体何のことなんだろう。
しばらく本棚の前で考えていたがまるで見当がつかないので、ボクは本を戻しすぐさま行動に移すことにした。
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