ルーク・シェラードー3
そんな日々を送っていたボクもようやく明日、成人である15歳の誕生日を迎えることとなった。
シェラード家では15歳の誕生日になると必ず家族が全員揃い教会から司教様をお招きし授かったスキルが何か鑑定してもらう。
――正直、明日を向かえるのが不安でしょうがなかった。
ただでさえ病弱なのに、明日授かるスキルまでも平凡な物だったらきっと父様や母様、それに兄様たちは酷くがっかりするに違いない。
いや。もともと僕には何の期待をしていないかもしれないが、それでもあの諦めに似た父様の視線を再び見たくはなかった。
「ねぇ、オソ。きっと大丈夫だよね?」
ボクはそっとオソを抱きしめると現実から逃げ込むようにベッドの中に潜り込んだ。
翌朝、身支度を終え神託を受けるべく大広間に向かうと既に家族全員が揃っていた。
コンラッド兄さまとヴァレイ兄さまは普段王都に勤めているので、こうして顔を合わすのは本当に久しぶりのことだ。
シアナ姉さまも今年学院を卒業し来年には王宮に仕えることが決まっているので、ますます皆が顔を合わす機会は減っていく。
「おはようございます、父様、母様。それにコンラッド兄さま、ヴァレイ兄さま、シアナ姉さま」
「ルーク、久しぶりだな。しばらく見かけないうちにまた大きくなったんじゃないか」
「コンラッド兄さま。最近では少しの運動ならあまり熱も出なくなりました」
「そうか、それは良かった。けど、くれぐれも無理はするんじゃないぞ」
「はい、ありがとうございます」
「そうだぞ、ルーク。お前は頭が良いんだ。無理して身体を動かすことはない。そうだろ、シアナ?」
「そうね。ヴァレイ兄さまも偶には良いことを言うのね」
「偶にはって酷いな。シアナ、お前ルークには過保護なくせに俺にはいつも冷たいよな」
「あら、ヴァレイ兄さまは私に優しくしてもらいたいのですか?」
「いや、遠慮しとく。シアナに優しくされると何か裏があるんじゃないかと勘繰っちまうからな」
「その言い方、まるで私が悪い妹みたいじゃないですか」
「そう聞こえたのなら、きっとそうなんだろよ」
「まぁ、酷い。ねぇ、ルーク、絶対にヴァレイ兄さまの様になってはダメよ」
「はいはい、ヴァレイ、シアナ。二人ともそれくらいにしておきなさい」
「はい。母様」
「みな久しぶりに顔を合わせ積もる話もあるだろうが、今日はルークの成人の日だ。まもなく司教様もお見えになる。くれぐれも粗相のないように」
「「はい、父様」」
家長の一声にそれぞれがピンと背筋を伸ばすと、それから家族揃って朝食を取り司教様が到着するまでの間、いつもの様に母様の入れてくれた特製のハーブティーを飲んでその時が来るのを待っていた。。
そして丁度皆のカップが空になる頃、屋敷内に司教様の到着を告げる鐘の音が低く鳴り響いたの。
――ザイン大司教
フロメティア教会の司教にして父様の古くからの友人である。
兄さまや姉さまの神託もザイン様がその都度この屋敷に訪れていて、ボクも数度お会いしたことはあるのだけれど、こうして司教様と直接お話をするのは初めてだ。
平民や下級貴族は成人を迎えると大抵は教会に自ら足を運び神託を授かるのだけれど、シェラード家にはこうして特別に出向いてくれている。
「ザイン大司教、この度我が息子ルーク・シェラードがこうして無事成人の日を迎えることが出来ました。これもすべて王国とそしてフロメティア教会の加護のおかげです」
「いえいえ、あの病弱だったルークがこうして元気な姿で前に立っているのは皆の献身の賜物。ルークよ、本当に立派になりましたね」
「はい、ザイン大司教様」
「こうして今を向かえることが出来たのも全てはここにいる人のおかげです。そのことをこれからもゆめゆめ忘れることのないようしっかりと心に留めておきなさい」
「はい」
「ルークよ、今日お前には神託が下り一人の大人として一歩を踏み出します。お前に授けられるスキルは神の為、王国の為、大切な者の為、そして何より自分自身を助けるために与えられるものです。良いですかルーク、神の教えを守り正しい道を歩みなさい。さすれば神のご加護がいつでもお前を守ってくれるでしょう」
「はい、司教様」
「うむ、よろしい。では、早速神託の儀式を始めるとしましょう」
そう言うとザイン大司教は銀の刻印が施された聖杯を手に取り、用意されていた聖水をゆっくりと器に満たしていく。
「――ルーク、これを」
司教様に手渡されたのは一本の銀の短剣。
左手に短剣を持ち指先に当てると傷口から赤い血が刃を伝って一滴、二滴と聖杯の中にしたたり落ちていく。
短剣を返し、薄っすら赤く染まった聖水を両手で受け取ると、聖杯に口をつけゆっくり飲み干していく。
口から喉に、喉から食道を通り、身体全身に聖水が染みわたる。
すると数秒もしないうちに身体の奥底が熱を帯びていき、やがて己の内に何か未知なる力が芽生えるのを感じた。
「……これがスキル」
「そう。どうやら無事儀式を終えたようですね。ルーク、これでお前も立派な大人の仲間入りです」
「ありがとうございます、ザイン大司教様」
「それでザイン大司教。ルークのスキルは一体どのようなものなのですか?」
「はっはっはっ、そんなに慌てなくてもすぐに分かります。いま鑑定の書を持ってこさせましょう。ルークも緊張で疲れているでしょうし、向こうですこし休んでいるといい」
「ルーク、よく頑張ったな」
「ありがとうございます、コンラッド兄さま」
「父様はお前のスキルをいたく気にしているようだが、どんなスキルを授かろうがお前はお前だ。何も気にすることはない」
「はい、兄さま。ですがボクもシェラード家の端くれ。出来る事なら兄さまたちの力になりたいとそう思っています」
「そうか」
コンラッド兄さまはそれ以上何も言わずただ優しく微笑むとポンポンとボクの頭を軽く叩いてくれた。
それからしばらくしてボクの目の前には一冊の書物が置かれていた。
「これは鑑定の書。表紙に描かれた魔法陣に手を当てると、その者の扱う事の出来るスキルが中のページに書き出される」
これで僕が授かったスキルが何なのか判明する。
「さぁ、ルーク、この本の上に手を置きなさい」
「はい」
これでボクの運命が決まる。
いままでずっと迷惑をかけてきたんだ。
これで外れスキルなら、ボクがこの家に生まれた価値などないに等しい。
緊張でボクの心臓は破裂しそうなほど激しくなり、掌から止めどなく汗がにじみ出てくる。
「ルーク、何をやっている。早く手を乗せるんだ」
父様の声がいつにもまして重く聞こえる。
ボクは意を決し魔法陣の上にゆっくりと手を合わせる。
すると鑑定の書に描かれた魔法陣がボクの手に反応し淡い光を放ち、表紙にルーク・シェラードの文字がうっすらと浮かび上がってきた。
ボクは表紙から手を放しゴクリと生唾を飲み込み恐る恐るページを捲るとそこにはこう記されていた。
スキル「ドール・マスター」
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