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公爵家を勘当された僕は薬屋ソルシエールで働きます  作者: 雪下月華


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24/28

初めての来客



 「よし、計画は決まりだ。みんな、作業を始めるよ!」


 僕は改めて、水源からふもとの畑までの景色を見渡す。


 幸いなことに、ここから『ソルシエール』の裏手までは、行く手を阻むような深い谷やゴレムでも動かせないほど巨大な岩盤は見当たらない。


 これなら最短距離でまっすぐ水路を掘り進めても大きな問題はなさそうだ。


 「まずは地面を掘って、水の通り道を作ろう。そのあと、周りにある石を敷き詰めて、水路が崩れないように補強していくんだ」


 僕は地面に枝で大まかなラインを引き、ゴレムたちに掘削の指示を出す。


  ゴレムたちはその強靭な腕を器用に使って、面白いほどサクサクと土を掘り返していく。


 力強く地面を掻き出す彼らの作業スピードは凄まじく、僕一人なら何日もかかるような作業が、あっという間に進んでいく。


 同時に、もう一体のゴレムには水路の補強に使う材料を集めてもらうことにした。


  「この辺りに落ちている石や岩を使うから平らで丈夫そうなものを選んで運んできて。それを水路の底と脇に敷き詰めていくからね」


 この山には、長い年月をかけて削られた手頃な石や、どっしりとした岩がたくさん転がっている。


 ゴレムたちはそれらを軽々と持ち上げ、僕が指示した場所へと次々に運んでいく。


 石を隙間なく並べることで水が土に染み込むのを防ぎ、水路も補強される。



 山の上からふもとへと、僕たちの「水路」が着実に伸びていく。


 石を並べる小気味よい音が森に響き渡り、土の匂いと湿った空気の中、僕たちは夢中で作業を続けていた。


 「――みんな、後は任せてもいいかな?」


 水路づくりは順調だけど、ふもとの畑まで繋げるには、どれだけゴレムたちが力持ちでも数週間はかかりそうだ。


 ずっと山に張り付いているわけにもいかないし、水が届いたあとの準備もしなくちゃいけない。


 僕は手を止めると数体のゴレムにそのまま掘削と石積みを任せ、残りのゴレムたちと一緒に一足先に『ソルシエール』の畑へと戻ることにした。






 僕は店の裏手に回ると薬草園のすぐ隣にある空き地に目星を付けた。


 山から流れてきた水を直接畑に流しっぱなしにするのではなく一度小さな池に溜めるようにすれば、使いたいときにいつでも必要な分だけ水が使えるようになるし、何より水がある風景ってなんだかワクワクする。


 「みんな、まずはここを掘り下げて。深さはこれくらいかな」


 僕の指示で、連れて帰ってきたゴレムたちは休む間もなく一斉に作業を開始する。


 彼らが力強く土を掻き出すと、みるみるうちに大きな穴ができあがっていった。


 ふと、掘り出された土の山を見て、僕はあることを思いついた。


 (この土、結構いい粘土質だ。……そうだ、この土を使ってまた新しいゴレムを作ろう)


 池を作れば、それだけ管理する場所も増える。


 今の仲間たちに加えて、もっとたくさんの手伝いがいれば薬草園はもっともっと立派になるはずだ。


 「この土は捨てないで、あっちにまとめておいてね。後でみんなの新しい仲間を作るから」


 僕がそう言うと、作業中のゴレムたちが心なしか嬉そうにより一層張り切って土を運び出した。



 穴が十分に深くなったところで、次は池の形を整える作業だ。


 「次は池の底と壁をしっかり固めて、水路と同じ様に水が漏れないように石を敷き詰めよう。……えっと、材料はあそこにあるのを使おうか」


 僕は、畑を耕した時に出てきた石の山や、庭の隅に転がっている手頃な岩を指差す。


 邪魔者扱いされていた石たちが、今度は池を守る大切な材料になる。


 ゴレムたちはその大きな手で、掘り起こした穴の斜面や底へ石を一つずつ丁寧に埋め込んでいく。


 仕上げに、石と石の間の隙間を粘土でぎゅっぎゅっと埋めていくと、ずっしりと重厚な石造りの池の姿が見えてきた。


 「うん、これなら水が漏れる心配もないよね」


 数週間後、山の上から「湧き水」がここへ辿り着く。


 その時、この池がキラキラした水で満たされるのが今から待ち遠しくてたまらなかった。





「これで貯水池はバッチリだね」


 池が完成してからの毎日は、驚くほどあっという間に過ぎていった。


 僕は時折、山へと足を運び、コツコツと岩を並べ水路を延ばしているゴレムたちの様子を見て回った。


 彼らの作業はとても丁寧で、少しずつ、でも着実に『ソルシエール』に向かって水路が近づいてきている。


 店に戻れば戻ったで、やることは山積みだ。


 池を掘った時に出た粘土質の土をこねて、新しいゴレムを形作ったり、水路が完成した時にすぐ種が撒けるよう畑を耕したり。

 

 泥んこになりながら、時間を忘れて忙しく動き回る日々は、いままでに経験したことがないほど充実していた。



 そんなある日の午後。


 僕が畑で土をいじっていると、お店の入り口の方から控えめな声が聞こえてきた。


 「ごめんください……」


 慌てて顔を上げると、そこには見知らぬ老婆が店の中をそっと覗き込んでいた。


 背中を少し丸め、彼女の手には使い込まれた杖がある。


 「あ、はい! いらっしゃいませ」


 僕は泥を払って急いで駆け寄ると老婆は見慣れない僕の姿を見て少し意外そうに目を細めた。


 「おや、見ない顔だねぇ……ミスティラさんはお留守かい? あの人の作る薬は本当によく効くからね。以前貰ったお薬がちょうど切れてしまって困っていたんだよ。同じものを分けてもらおうと思ってね」


 「すみません、あいにくミスティラさん今、旅に出ていて留守にしているんです」


 僕がそう伝えると、老婆は深くため息をつき、ひどく落胆した様子で顔を曇らせた。


「えっ、留守……。そうかい、それは弱ったねぇ……。あの人の薬じゃないとダメなんだよ。他所の薬も試したけれど、さっぱりでね。……困った、どうしたものかね」


 老婆は途方に暮れたように独り言をこぼし、力なく杖を突き直した。


 「あの、日差しも強いですし、取り敢えず中へどうぞ」


 僕は彼女の肘にそっと手を添え、ゆっくりとした歩調に合わせて店の中へと案内すると、老婆は使い古された椅子に腰を下ろした。


「すみません、お名前を伺ってもいいですか?  それと、お薬はどんな症状のために飲まれているものなんでしょうか」


 僕が努めて明るい声で問いかけると、彼女は「グレッタだよ」と名乗り、警戒心を解き大まかな病状を話してくれた。


 どうやら、雨の日や冷え込む夜になると昔痛めた腰と膝がどうしても疼いて眠れなくなるらしい。


 しかし、ミスティラさんの薬を飲むと、その痛みが嘘のように和らいで体が芯から温まるのだという。



 「……グレッタさん、ですね。ちょっと待ってください。きっと、何か手がかりがあるはずですから」


 僕は彼女を待たせるとカウンターの奥にある棚に向かう。


 ミスティラさんのことだ、お店を任せるくらいだから、きっと街の人たちのための備忘録だって残しているに違いない。


 棚の奥に並んでいた数冊の分厚い手帳を、一冊ずつ丁寧に確認していく。


 指先に伝わる紙の質感を感じながらページをめくっていくと、やがて一冊のノートが目に留まった。



 (……あった、これだ)


 「顧客台帳」と記されたノートを開き、『グレッタ』という名前のページを見つけ出す。


 そこにはミスティラさんの独特な筆致で、彼女に処方していた薬草の種類や配合比率がびっしりと書き込まれていた。


 ところが、そのレシピをよく見て、僕は顔を曇らせた。


 調合に必要な薬草のうちのいくつかが、今のこの店には在庫がないことに気付いたからだ。


 (困ったな……。材料が足りないんじゃ、今すぐには作れない……)


 せっかく頼ってくれたグレッタさんに、なんて説明すればいいだろう。


 焦る気持ちでノートをもう一度見つめ直したとき、項目の隅に書かれた小さな「番号と特殊な記号」が目に飛び込んできた。


 (……番号と、このマーク。どこかで見たような……)


 その瞬間、ある光景が僕の脳裏をよぎった。


彼女が旅立った後、僕とゴレムたちで店の中を整理したときのことだ。


 完成した薬が整然と並ぶ棚の引き出しに、これと同じような番号と記号が記されていたのを思い出した。


 「グレッタさん、少々お待ちくださいね!」


 僕は彼女を待たせ、奥にある保管棚へと急ぐ。


 ゴレムたちと一緒に一つひとつ埃を払い、整理したあの棚だ。

 

 薄暗い影を指先でなぞりながら、ノートの記述と一致する場所を探す。


 「……これだ、『12』の横に三日月のマーク」


 重みのある木製の引き出しを開けると、そこには丁寧に包まれ、同じ記号が添えられた小瓶がいくつか並んでいた。


 それは、ミスティラさんが事前に用意しておいた薬だった。


 僕は念のため、小瓶に貼られたラベルの成分表示と、台帳に記された配合を一つひとつ指でなぞりながら照らし合わせる。


 (……うん、間違いない。これで大丈夫)


 確信を持ってカウンターへ戻り、僕はグレッタさんにその小瓶を差し出した。


 「グレッタさん、お待たせしました。ミスティラさんが作り置いていた薬が見つかりましたよ。いつものものと同じかどうか、確認していただけますか?」


 グレッタさんは震える手で小瓶を受け取ると、蓋を開けてそっと香りを確かめ瓶を撫でた。


「ああ、これだよ……。この色。間違いない、ミスティラさんの薬だねぇ。……助かったよ、本当に。ありがとう、坊や」


 彼女は安心したように顔をほころばせると、布の財布から硬貨を取り出し代金を支払った。


 その薬は、ちょうどひと月分。


 「薬が切れる頃に、また伺わせてもらうよ。次はミスティラさんが帰っているといいんだけどね……。でも、坊やがいてくれて本当に良かったよ」


 「お気をつけて。次は雨が降る前に、予備を取りに来てくださいね」


僕が見送ると、彼女は何度も頷きながら、来た時よりも心なしか軽い足取りで店を後にした。





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”いいね”もお待ちしております(*´ω`)


また、ブクマ、評価してくださった方へ。

この場を借りて御礼申し上げます(/ω\)



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