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公爵家を勘当された僕は薬屋ソルシエールで働きます  作者: 雪下月華


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湧き水




 翌朝、僕はまだ朝露が残る中、準備を整えて裏山の入り口に立った。


  隣には、昨日名前を刻んで命を吹き込んだばかりの精鋭ゴレムたちが、主の命令を待って静かに佇んでいる。


 「みんな、今日はこの山で僕たちの畑を潤すための水源を探そうと思うんだ」


 僕の声に応えるように、ゴレムたちが重厚な足音を立てて一歩を踏み出す。


 裏山に足を踏み入れると、そこはふもとの空き地とは比べものにならないほど濃密な生命力に満ちていた。


 見上げるほどの大樹が幾重にも重なり、陽の光を遮るほどに葉を広げている。


 僕は歩きながら、かつて夢中で読んだ本の内容を一生懸命に思い出していた。


(たしか、湧き水ができるまでには、長い時間がかかるんだよね……)


 本には、山に降った雨が時間をかけて、落ち葉の重なったふかふかの土や、砂利の層をゆっくり通り抜けていくと書いてあった。


 そうしている間に水がどんどん綺麗に磨かれて、地中の固い岩にぶつかると逃げ場を求めて地下に水の通り道ができる。


 それが岩の隙間なんかから飛び出してきたのが「湧き水」なんだ。


(これだけ木々が青々と茂っているんだ。地下には豊かな水の道が通っているはず。その水が外に飛び出している『出口』を探せば……)


 僕は、肌に触れる空気の変化と、足元の植物が発するサインに神経を集中させた。


 乾燥した場所を好む針葉樹が減り、次第に広葉樹が目立ち始める。


 深く艶やかな緑色の苔が岩肌を覆い、水辺を好む白い花が点々と咲き乱れる場所までやってくると、肌に当たる空気がしっとりと重く、ひんやりとした感触に変わっていた。


 「……空気が潤ってる。もしかしたらこの近くに水源があるかもしれない」


 僕の合図で、ゴレムたちは各々散らばって探索を始める。


 一人は大きなシダの葉を両腕でかき分け、もう一人は突き出した岩の陰に顔を突っ込むようにして覗き込む。

 僕も湿り気を強く感じる方向へと慎重に足を進めたが、水源はなかなか見つからない。


 湿った土を踏みしめ、生い茂る蔓を払いながら歩き回る。


 耳を澄ませても、聞こえてくるのは風に揺れる葉の音と鳥のさえずりだけで、肝心の水の音は聞こえてこなかった。


 「おかしいな……植物はこんなに生き生きしているのに」


 焦りからか、額にじっとりと汗がにじむ。


 何度も斜面を上り下りし、ゴレムたちと顔を合わせるたびに首を横に振る時間が続いた。


 もしかして、もっと高い場所にあるんだろうか。


 それとも、厚い腐葉土の下に隠れてしまっているのか。


 足の疲れが隠せなくなってきたその時、少し離れた場所から「ドスン!」という重々しい衝撃音が響いた。


 

 僕はもつれる足を叱咤して、音のした方へ駆け寄る。


  そこは、周囲を何重にも取り囲むような巨木と人の背丈ほどもある複雑な岩に隠されたまるで天然の小部屋のような場所であり、正面にはひときわ巨大な岩が幾つも重なり合うように立ち塞がっていた。


 「あ……! その岩の隙間……!」


 ゴレムが指し示した先、影になった岩の深い割れ目から、キラリと光る雫が絶え間なく溢れ出しているのが見えた。


 「見つけた……湧き水だ!」


 岩の隙間からは、まるで大地が呼吸をしているかのように、清らかな水がこんこんと溢れ出している。


 岩肌を伝う水は小さな池を作り、その底では砂粒がポコポコと踊るように跳ねている。


 今もなお、地面の奥底から新しい水が力強く湧き上がり続けている証拠だ。


 大地の層でじっくり磨き上げられた、最高の『湧き水』。


 「……これだけ水量があれば、どんな日照りでも枯れないよ」


 湧き水に触れるとひんやりとした冷たさが指先から伝わり、心地よい達成感が全身を駆け抜ける。


 「これなら……この豊かな水があれば、きっと良質な薬草が育てられる」


 僕は一度深く息を吐き、改めて水源の周囲を見渡した。


 見つけた喜びで舞い上がっていたけれど、よく見ると湧き出し口は崩れた土砂や重なり合った岩に半分ほど埋もれてしまっている。


 水はそこから辛うじて隙間を縫って溢れ出している状態だった。


 「よし、まずはここをきれいにしよう。そこの大きな岩を、少し脇にどかして。足元の小さな石も取り除かないと」


 僕の指示に従い、ゴレムたちはその巨大な腕を器用に使って作業を始める。


 僕一人ではびくともしないような重い岩も、彼らが持ち上げればまるで軽い小石のようだ。


 ゴレムたちが余計な岩を一つ、また一つと丁寧に取り除いていくと、隠れていた「水の出口」がはっきりと姿を現した。


 塞いでいたものがなくなったことで、水の勢いはさらに増し、透き通った水が岩肌を滑るようにして勢いよく溢れ出していく。


 「すごい……こんなに水があったんだ」


 仕上げに、池の周りにあった不安定な石を組み直して、水が溜まりやすいように縁を整えてもらった。


整備が終わる頃には、そこはただの岩場の陰ではなく鏡のように澄んだ美しい水溜まりへと生まれ変わっていた。


 こんこんと湧き出す水の音も、先ほどよりずっと軽やかに森に響いている。


 「ありがとう、みんな」



 整えられた水源を見つめ、僕は満足感に包まれながらも、どうやってこの湧き水を運ぶか頭を悩ませていた。


 いくら水量が豊富でも、このまま放っておけば水はただ流れ出て全て地面に染み込んでしまう。


 木をくり抜いて「樋」を作り、水の通り道にするのもいいけれど木は時間が経てば腐ってしまうし、強い風や倒木があればすぐに壊されてしまうだろう。


 それに、喉を渇かせた大きな獣が足を引っ掛けて壊してしまうかもしれない。


 薬草園にとって水は命綱。


 できるだけ壊れにくい丈夫なものの方が良い。


 (……だとすると、時間はかかるけど、地面に水路を掘り、石を敷いて水を導くのが最良だと思う)


 石を敷き詰めた水路なら、腐る心配もないし、強風や動物の足跡くらいではびくともしないはずだ。


 幸い、僕の隣には力自慢のゴレムたちがいる。


 彼らがいればきっとお店まで続く立派な「水路」が作れるはずだ。


 新しい薬草園の完成形が、僕の頭の中でさらに鮮明に描き出されていく。


 希望に満ちたその景色を思い描き、僕はゴレムたちに誇らしく微笑みかけた。





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