薬草づくり
幸いなことに、僕は母様の手伝いで一から薬草を育てた経験がある。
土の触り心地や、芽が出たときの喜び。
あの頃の記憶を必死に手繰り寄せながら、まずは身の丈に合った小さな畑作りから始めていくことにした。
ミスティラさんが研究のために使っていたのか、倉庫には薬草の種も多少はストックしてあった。
中には見たこともない不思議な形をした種もあったが、まずは馴染みのあるものから選んでいく。
「皆、お願い。まずはあそこの草むしりから手伝って」
僕が指差すと、重厚な音を立ててゴレムたちが動き出す。
彼らの力強い腕は、建物の隣にある空き地の地面を掘り返すのにも、生い茂った雑草を根こそぎ引き抜くのにもうってつけだった。
僕も一緒になって泥にまみれ、一つ一つ石を取り除いていく。
少しずつ形になっていく小さな畝を眺め、僕は額の汗を拭った。
「草むしりに耕作、それに水やり……。これから薬草の種類が増えていったら、きっと今の人数じゃ全然足りない」
この広大な空き地をすべて管理するには、今のゴレムの数だけではどうしても限界がある。
僕は腰に手を当て、泥だらけのゴレムたちを見つめる。
彼らは忠実に動いてくれるけれど、やはり一度にできることには限りがある。
「……なら、もっと人手を増せばいいじゃないか」
僕は自分の手に刻まれた魔法陣を見つめると、畑作りをゴレム達に任せ、店内へと戻っていった。
ゴレムを作るのに、資料や書物を漁る必要はない。
今の僕には、成人の日の神託の儀式で授かったスキル『ドール・マスター』がある。
以前、実家の菜園で母様に土を分けてもらい、初めてこのスキルを試した時の感覚が指先にしっかりと残っている。
「まずは、材料からだ」
僕が作り出すのは、魔力回路を組み込んだ精巧な自動人形じゃない。
僕自身のスキルで命を吹き込む、文字通りの『泥人形』。
スキルの説明によれば、「良質な土ほど良い人形が製作可能」だという。
僕は集めてきた土を「ふるい」にかけ、枯草や小石を丁寧に取り除き、さらさらになった土に少しずつ水を加え、粘り気が出るまで根気よく捏ねあげていく。
頭の中で完成形を強くイメージしながら、泥を盛り、腕を付け、足を整える。
「よし、形はこれでいいはずだ」
泥を捏ね、人形の形を整え終えると、僕は仕上げに取り掛かる。
右の掌に意識を集中させ、あの日から刻まれている魔法陣の力を指先に宿す。
僕は泥人形の背に、僕自身の名前――『ルーク・シェラード』と、一文字ずつ丁寧に刻み込んだ。
名前を刻み終えた瞬間、僕の魔力が土の身体へと流れ込み刻印が淡い光を放つ。
すると、土の塊だった人形たちがまるで来ているかのようにゆっくりとその頭をもたげ、立ち上がった。
一体目の泥人形が完成すると僕はさらなる仲間の製作に取り掛かる。
作業の合間、僕は時折手を止めて畑の様子を見に行く。
僕が店内で泥と格闘している間も、ゴレムたちは僕の意図を汲み取って休むことなく畑作りを続けてくれていた。
「うん、順調だね。そこの大きな岩はあっちへ運んでおいて。次はこっちの区画を耕そう」
窓から、あるいは直接土を踏みしめて指示を出すと、泥人形たちは無言で、けれど力強く応えてくれる。
外で働く彼らの姿を頼もしく思いながら、僕は再び店内に戻り、次なる仲間に名前を刻んでいく。
その繰り返しの中で、あんなに荒れ果てていた建物の隣の空き地が見る見るうちに整った「畑」へと姿を変えていった。
気づけば、僕の周りには頼もしい泥人形の軍団が出来上がり、彼らが一心不乱に働く音と掘り返された土の匂いが庭に満ちていた。
「これなら、ミスティラさんが残してくれた種を植えても大丈夫だよね」
夕暮れに染まり始めた空き地で着々と広がっていく畑の畝を見つめながら、僕は小さく笑った。
一人では到底無理だと思っていたけれど、この子たちとなら、この場所を最高の薬草園にできる。
そんな確信が、僕の中に芽生え始めていた。
畑の畝がきれいに並んだのを見届けてから、僕はミスティラさんが残してくれた薬草の種を一つずつ丁寧に土に埋めていく。
「元気に育ってね」
指先から土の温もりを感じながら、僕は未来の収穫に思いを馳せる。
けれど、種を植え終えた後に直面したのは現実的な問題だった。
植物を育てるには、大量の水が必要だ。
僕は手近なバケツを持って、敷地の隅にある古びた井戸へと向かう。
「……これだけ、か」
井戸を覗き込むと底の方にわずかな水面が見えた。
一先ず、新しく作った力自慢のゴレムたちにも手伝ってもらい、何度も往復しながら完成したばかりの畑に水を撒いて回る。
ようやく水やりが終わった時には今の畑の広さでさえ井戸の水位はかなり下がっていた。
「ふう……。みんな、ありがとう。今はこの井戸の水だけでなんとかなったけど、これから畑をどんどん大きくしていったら、この小さな井戸だけじゃ到底賄いきれない」
ゴレムたちがいくら力持ちで文句一つ言わずに水汲みをこなしてくれても、水源そのものが枯れてしまえばお手上げだ。
この『ソルシエール』に来るまで近くに川らしきものも見当たらなかった。
僕は顔を上げ、お店の背後にそびえ立つ深い緑の裏山を見つめる。
「……裏山なら、きっとどこかに湧き水くらいあるよね」
これだけ木々が青々と茂り、大樹が力強く根を張っているんだ。
その奥深くには、必ず大地を潤す豊かな水の源があるに違いない。
物流が滞っている今、水も枯れ薬草づくりが出来なくなってしまったら、本当にこの店は立ち行かなくなってしまう。
僕は決意を固め、土だらけの服を払い立ち上がる。
「よし。明日はみんなで裏山を探索しよう。何とかしてこの場所まで引いてこれる水源を探すんだ」
僕がゴレムたちに声をかけると、彼等は一斉に腕を振り上げる。
未知の山に入る不安よりも、この場所を自分の手で作り上げていく高揚感の方が今の僕の胸を強く叩いていた。
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