ドールー5
あれから幾つかゴレムに命令を出して分かったことがある。
第一に僕が単純かつ明瞭な命令を出した場合、ゴレムは僕の言葉通り忠実に実行する。
ただし、その命令が実行不可能な場合は行動に移すことは無い。
第二に僕の出した命令が曖昧かつ達成可能か不明な場合は自分でまずは考え行動に移す。
途中、もし僕の命令が達成不能と判断された場合、ゴレムは行動を停止する。
第三に僕の出した命令が明らかに不明瞭な場合は行動しない。
それ以外にもゴレムの身体的特徴や特性を知ることが出来た。
しばらくゴレムを観察していた僕は残っている材料で二体目、三体目のゴレムを作ってみることにした。
作る工程は先程と同じ。
まず、書いてある製図を見ながら頭の中で形をイメージし材料に触れる。
必要な部品を全て完成させ、出来上がったら組み合わせていく。
ただそれだけ。
最後に僕の銘を刻印すれば完成。
床に並んだ小さな泥人形が三体
愛くるしいドールたちが僕をじっと見つめていた。
すぐにでも母様やシアナ姉さまに見せたいけれど、折角ならならもっと色々作れるようになって驚かせたい。
僕のスキルがこんなに凄いものだと知ればきっとみんな僕を見直してくれるに違いない。
胸の高鳴りを抑えながら、僕はゴレムたちに命令し散らかってしまった部屋を片付ける。
「ゴレム達、床に散らばった土を集めて鉢に戻して。それから雑巾で床も拭いね」
僕が命令するとゴレム達は了解と言わんばかりに右手を振り上げ互いに協力し片付けを始めた。
その間、僕はシートを片付け、雑巾を用意する。
それから鉢を抱え一階に降り残った土を畑に戻すと、小屋に道具を小屋にしまい部屋に戻った。
扉の前に立ち息を整えた僕はゴレムに気付かれぬよう静かに扉を開け、こっそり中を覗き見る。
僕が見ていなくても彼等はちゃんと命令通り掃除をしており、雑巾で懸命に床を拭いている。
しばらくして掃除が終わると仲良さそうに部屋の中央に立ち並び、主である僕の帰りを待っているようであった。
そっと扉を開けた僕は、ゴレムたちに気付かれないよう足音を忍ばせながら部屋に入った。
三体のゴレムは、どうやら掃除が終わったらしく、部屋の中央で仲良く横一列に並び、まるで「任務完了!」と言わんばかりに胸を張って立っている。
その姿があまりにも健気で、僕は思わず口元が緩んでしまった。
「ただいま、ゴレムたち。お疲れ様」
そう声を掛けると、三体は一斉にピッと右手を上げて敬礼のような仕草をした。
「……本当に可愛いな」
胸の奥がじんわり温かくなる。
これほど心が満たされるのは、いつ以来だろう。
僕は誰にも必要とされていないと思っていた。
でも、今は違う。
この小さな泥の仲間たちは、確かに僕を「主人」として見てくれている。
僕はしゃがみ込み、三体の頭を順番に撫でてやる。
泥で出来ているはずなのに、不思議と指先に伝わる感触はほんのり温かい。
「よし、ゴレムたち。今日はありがとう。もうゆっくりしていいよ」
三体はこくりと頷くと、各々部屋の隅に移動してちょこんと座り込んだ。
その動き一つ一つが、まるで本当に意思を持っているようだ。
――いや、もしかしたら。
本当に、彼らは“生まれた”のかもしれない。
胸の奥でそんな予感がよぎる。
スキルの説明には「泥人形を作成する」としか書かれていなかった。
だが、これはただの泥人形じゃない。
命令を理解し、工夫し、協力し、行動する。
まるで、人間の子どものように。
「……このスキル、きっともっとすごい力があるに違いない」
僕は思わずそう呟いた時、不意に扉の向こうからコンコンと軽くノックする音がした。
「ルーク、入わよ?」
シアナ姉さまの声。
まずい――!
僕は何故か慌てて振り返り、部屋の隅でくつろいでいる三体のゴレムを見る。
「っ、みんな動いちゃダメ! 静かにしてて!」
三体はハッとしたように体を硬直させ、まるで置物のように動きを止める。
直後、扉が開く。
「ルーク、さっきから部屋で何してるの? ってこれ、土の匂いかしら……」
姉さまは首を傾げながら部屋の中を見渡す。
僕は心臓が跳ね上がりそうになるのを必死に抑え、自然な笑顔を作った。
「どうしたの? シアナ姉さま、今日は身体の具合もいいから少し掃除していたんだ」
「そうなの? 確かになんだか凄く綺麗だけれど……」
シアナ姉さまの視線が床を滑り、ベッド、机……そして、部屋の隅へ。
祈るような気持ちで固まる僕。
しかし、シアナ姉さまは一瞬眉をひそめただけで、すぐに僕の方へ笑顔を向けた。
「まぁいいわ。実はね、さっき母様が新しいハーブティーを淹れたの。ルークにも飲んでほしいって」
「……あ、うん。ありがとう、姉さま」
「ふふ。じゃあ下で待ってるわね」
そう言って軽く手を振ると彼女は扉を閉め立ち去っていった。
――助かった。
扉が閉まるのを確認した瞬間、別に悪いことをしている訳でもないのに僕はその場にへたり込んでしまった。
しばらくして顔を上げると、ゴレムたちはそろそろと固まった姿勢を解き、心配そうに僕を見つめていた。
「……ありがとう。本当優しいんだね」
三体は嬉しそうに小さく頷いた。
「よし。いつか堂々とみんなに紹介できるように、もっともっとスキルを磨かなきゃ」
その言葉に、三体のゴレムも誇らしげに胸を張った。
僕はその姿を見て思う。
――ドール・マスターは、きっと“神様が僕にくれた”特別な力だ。
誰かを守るため。
誰かを助けるため。
そして僕自身を救うため。
胸に灯った小さな自信と希望を抱きしめ、僕は立ち上がる。
「さぁ、みんな。今日はゆっくり休もう。明日からまた一緒に頑張ろうね」
三体は嬉しそうに手を振り、ちいさな身体でぴょこんと跳ねて答えた。
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