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プロローグー1



ここは街外れにある薬屋”ソルシーエル”



街の人たちからは魔女の薬屋なんて呼ばれているみたいだけど、この店に魔女なんてものは存在しない。



なぜ、そう断言できるのかって?



それはルーク・シェラード、ボク自身がこの店で働いているからに他ならない。








 


 「ご主人様ぁぁぁぁぁ♪」



 身支度を整え部屋から出てきたボクの姿を見つけると少女がいつものように駆け寄ってきた。


 彼女の名前はマロン。


 栗毛色の髪と楚々とした黒い瞳が印象的で、向日葵のように明るい少女だ。



 「おはよう。今日もマロンは元気いっぱいだね」



 「うん、マロンはいつも元気だよ」



 マロンは箒片手にその場でくるっと一回転してみせた。


 お店の雰囲気が以前と比べ格段に明るくなったのは、間違いなく彼女のおかげだ。



 「そうだ! ねぇねぇ、ご主人様!」



 「ん? なんだい、マロン」



 「お店のお掃除が終わったから見て欲しいの」


 

 マロンはボクの返事も待たずに、服の袖を掴み強引に引っ張っていく。



 

 ん? 



 店内に一歩足を踏み入れると、ほんのりとあまり香りが鼻腔をくすぐった。



 「いい香りだね、マロン」



 「ご主人様もそう思う? 庭先に咲いてたハーブの花を摘んで来たの。マロン、この香り大好きなんだ」



 そう言うとマロンは突然、ご機嫌な様子で箒相手に鼻歌交じりのステップを踏み出した。


 彼女が花弁のようにクルクル舞う度に、ハーブの香りも一緒にダンスを踊り、部屋全体がさらに華やかな香りに包まれる。



 窓際に生けてあった薄紫色の小さな花の前で立ち止まると、スカートの裾をつまみ軽く持ち上げ、腰を曲げて頭を下げて見せた。



「これはラーヴェンの花だね。こうして花瓶に生けて部屋に飾っても綺麗だけど、観賞用以外にもハーブティーにも使えるんだ」



 「そうなの?」



 「確か前に読んだ本に書いてあったような気がする」



 「ハーブティーかぁ。クッキーと一緒に飲んだらきっと美味しいよね」



 「そうだね。ねぇ、マロン。このラーヴェンの花はソシエールの庭先に生えてたのかい?」



 「うん、そうだよ」



 ボクがここに来た時にはなかったはずだし、庭先に植えた記憶もないから、きっと種が風に飛ばされて自生したのだろう。



 「狭い庭先じゃこのハーブも可哀そうだし、折角だからあとで裏の畑に場所を移して、きちんと育ててあげようか」


 「本当!? ご主人様!」



 ボクが笑顔でコクっと頷くと、マロンは満面の笑みを浮かべ、小さな花瓶を大事そうに抱え頬ずりしていた。



 あれ? そう言えば、ボク、マロンとここで何をやっているんだっけ。



 確か――



 「ところでマロン」



 「なんですか? ご主人様?」



 「さっき、掃除がどうとか言っていなかったっけ?」



 「あっ……」



 マロンはピタッと動きを止めると、本来の目的を思い出したのかバツの悪そうに顔を赤らめた。



 それから努めて冷静を装い花瓶を元の位置に戻すと、軽く咳払いしてからこちらに向き直り、もじもじと話しかけてきた。。



 「ねぇねぇ、ご主人様。お店の中、綺麗になったでしょ? マロン、今日はいつもに増してお掃除頑張ったんだ」


 マロンにそう言われて店内を見渡すと、確かに店の隅々までピカピカに掃除してあった。


 

 床や棚には塵一つ見当たらず、机の上やショーケースも驚くほど綺麗に整理整頓されている。さらに窓ガラスに至っては、光が当たらなければそこに何も存在しないのではと思わせるほど丁寧に磨かれていた。



 「どう、凄いでしょ?」



 「うん、そうだね。まるで開店したてのお店に来たみたいだ。きっとソルシエールも喜んでるよ」



 「えへへ。 そ、そうかな?」



 「絶対喜んでるよ。ボクが保証する」



 「だったら、マロンも嬉しいな」



 「ねぇ、マロン。いつもお店を綺麗にしてくれてるけど、どうして今日は特に頑張ってお掃除したんだい?」



 「ご主人様、忘れちゃったの?」



 忘れた? 一体何だろう。何か忘れていたっけ?



 うーん、いくら考えても思い出せない。



 「……ごめん、マロン。全然わからない」



 ボクは素直に降参すると、マロンは少し残念そうな顔をして見せた。



 「ご主人様、今日でソルシエールがオープンしてから丁度一年になるんだよ」



 「一年、そうか、もう一年も経ったんだ」


 ボクが実家を出て、このソルシエールで生活するようになってから、もうそんなに月日が流れているんだ。


 「だから日頃の感謝を込めて今日は念入りにお掃除したんだ」



 「そうだったんだね。マロン、覚えていてくれてありがとう」

 


 「ここはマロンにとってすっごく大事な場所だから」



 「そう言ってくれるとボクも嬉しいよ」



  ボクは照れくさそうにしているマロンにそっと近づくと、彼女の頭を優しく撫でてあげた。


  目を瞑ったマロンは猫耳をくたっと垂れ下げ、お尻から生えている尻尾は嬉しそうに右へ左へと踊っていた。




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