オオカミ少年
「うわぁ~!イノシシが出たぞ~!」
少年が大声を張り上げ、村を駆け回った。
その声を聞き、村の大人達はライフルなどの武器を携え、緊迫した表情で声の元に駆けつけた。しかし大人達は、少年の顔を見てガックリと肩を落とした。
「また、君か…」
「イノシシが!イノシシが出たんだ!」
少年は興奮して言った。大人達は周りを確かめたが、やはりイノシシなどいなかった。
「何処にもいないじゃないか」
「全く困った子だね。狼の次はイノシシかい。いい加減にしてくれよ」
「嘘はいけないと、あれ程言ったじゃないか」
大人達は少年にそう言い聞かせて、それぞれの家に帰っていった。少年はフンと口を尖らせた。
そして、数日後。
「うわぁ~!イノシシが出たぞ~!助けて~」
少年は大声で叫んだ。そんな少年の声を聞いても、村の大人達は誰も相手にしなかった。しかし、叫びながら村を駆け回る少年の後ろには、イノシシの大群がいた。
イノシシは少年に突進して跳ね飛ばすと、村の畑を荒らして山に帰って行った。少年は命は取り留めたものの、重傷を負った。
それから村の大人達の間で、こんな噂が囁かれるようになった。
「ねぇあの子、嘘を付いているわけじゃないんじゃないかしら」
「狼もイノシシも、結局は本当に現れたもんな」
「もしかして予知能力があるんじゃないかなぁ」
「えぇ!まさか…」
それからしばらく経ったある日。少年はまた、大声を出して村を駆け回った。
「うわぁ~!ヒョウが出たぞ~!助けて~」
その声を聞いて、大人達は武器を手にして駆けつけた。しかし少年は1人で掛け回っているだけで、ヒョウなど何処にもいなかった。それでも少年は懸命に言った。
「ヒョウが、ヒョウが出たんだ!」
大人達は辺りを見渡し、少年に対し優しい口調でこう言った。
「今日はヒョウはいないみたいだね。また出た時には、教えておくれ」
大人達は少年の頭を撫でて帰って行った。少年はいつもと違う大人の態度にポカ~ンと口を開けた。
それから少年は、来る日も来る日も叫び続けた。
「ヒョウが、ヒョウが出たぞ~!」
大人達はその度に駆け付けたが、一向にヒョウは現れなかった。
一週間が経った。
「うわぁ~!ヒョウが出たぞ~!助けて~」
村を掛け回る少年の後ろには、本当にヒョウの大群がいた。大人達は何度と無く予行演習をやっていたので、手際良くヒョウを追い詰めて、捕らえることに成功した。
そして少年は『嘘つき少年』から『予知能力少年』と呼び名が変わり、称賛されるようになった。
村人は、ヒョウから取った毛皮や牙で作ったアクセサリーで、裕福になった。全て少年のおかげであると、ついにはその少年は、『神の子』と、崇められるようになった。
しかし少年は喜ぶどころか、いつも不機嫌そうな顔をしていた。それがまた、少年の貫禄となっていった。そして村人たちは、少年の次の叫び(予知)を、今か今かと楽しみに待つようになった。
そして、青く晴れ渡ったある日。とうとう少年は大声を張り上げ、村を駆け回った。
「うわぁ!角の生えた頭が3つある、全身がウロコで覆われて羽の生えた3㍍もある怪物が四つん這いで這って来たぞ~!助けて~」
その声を聞いて、大人達は頭を抱えた。
「これは予知なのか…それとも…」
終