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メイドが目覚めたとき、その額には濡れタオルが置かれていました。
ずいぶんと長い間眠っていたようで、すっかり夜も開けていました。窓から覗くのはいつもの景色と眩しいくらいの光。視線を窓から移せば、剥がれ落ちた包帯が床に散らばっていて、あんなに汚れていた包帯達も、新品のようにまっさらでした。まさかと思って爪先を見れば、あの鬱血して黒々としていた傷がすっかり治っています。こんなことあるはずがない。それなのに、不思議と具合は良かったのです。メイドは易々と立ち上がることができました。
枕元の水を飲み、窓を開けると、暖かい風が部屋に流れ込みました。それを受けながら、メイドは先ほどの不思議な体験を思い返しました。
ーーあれが夢でないのなら、お嬢様はどこにいるのでしょう。
すると、窓際におかれた手紙に気づいたのです。
おはよう。具合はどうかしら?
お母さまは元気だったでしょう
わがままばかりあなたへ言っていたのを
たくさん叱られてしまったわ
今は幸せの鳥と一緒にいるの
やっぱりひとりでいたから
しばらくは傍にいてあげようと思う
でも、あなたが独りぼっちになるでしょう?
わたしも寂しいし、ここはとっても寒いわ
あなたもはやく泉にいらっしゃい
幸せの鳥に会わせてあげる!
その文面に奥様の面影を感じて、メイドは思わず微笑みました。そして花瓶に活けられた花を四本取ると、そのまま部屋を出ていきました。それからお屋敷には、もう誰も帰ることはありませんでした。いつまでも、ずっと。