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そうしてどれほどの時間が経ったのでしょう。
ある時、メイドに鈴の音が聞こえてきました。
りん。 りん。 りん。
うつろなままその音を聴いていたメイドは、しかしそうして鈴の音を聴いているうちに、その音すらも遠ざかってしまうような気がしたのです。引きつけられるようにして立ち上がると、鈴のなる方へ身体を向かせ、枯葉に足を沈めていきました。
しかし、いくら歩いても、鈴も少女も見つからないのです。
それなのに音が鳴りやむこともありませんでした。
さては幻聴か、または魔物の仕業か。どちらにしてもメイドには些細な事で、むしろ、都合がよかったのです。目的もなく歩き続けるのは苦痛でありますから。あの鈴の音の先に少女がいると信じたメイドは、無我夢中で歩き続けました。
「大丈夫。お嬢様はかならず私が見つけますから、大丈夫。大丈夫……」
すると、いつの間にかくるぶしは濡れていて、メイドの足に鋭い痛みが走りました。驚いてそこから出れば、細かな砂利がいくつも足裏に突き刺さっていました。傷みではっきりとした視界。辺りを見渡せば、青々とした花が咲きほこっているのでした。
それは間違えようのない光景でした。いつの間にか、メイドはあの泉にたどり着いていたのです。しかし、鈴の音はすでに鳴りやみ、少女も見つけられませんでした。死ぬこともなかったメイドは、沈んだ気持ちのまま帰らざるを得なかったのです。
お屋敷を探しても、やっぱり少女はいません。
その次の日も、そのまた次の日もメイドは森へ向かい、傷だらけの足を引きずりながら少女を探し続けました。それでも少女は見つかりませんでした。そして何日かが経って、とうとう、メイドは身体を壊してしまったのです。
酷い熱にメイドはうなされ続けました。
お嬢様のことが気が気でないのに、動くこともできませんでした。それどころか、枕元の水を飲む気力すらもうありません。
化膿したつま先は黒々としていて、黄ばんだ包帯が何重にもまかれた足は、何もしなくたって、ずきずきと痛むのでした。消毒に使った薬品のにおいが部屋に満ち、痛みと共に上がり続けた熱のせいで、メイドの意識はもうろうとしていきました。
「お嬢様。お嬢様。どこにいらっしゃいますか……」