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それからもメイドは少女を探し歩きました。
──幼いお嬢さま、あのような細足でいったいどこまでいけるのでしょう。非力な腕で、どうしてこの鬱蒼とした草むらをかいくぐれるのでしょうか。
メイドはただただ少女の心配をしていました。鋭い草に自分の衣服や肌が傷つけられることなど構わずに、森を進み、身体のそこかしこに傷ができました。背の高い草は踏みつけて、時には枝を折りました。そして、最初にできた傷から出た血がすっかり固まってしまった頃にはもう、辺りは薄暗くなっていたのです。
沈む前の太陽が放つ、赤紫色の光。その光景にメイドは不穏なものを感じました。ざわつく胸の高鳴りが、一斉にある方を向きはじめたのです。
──それでも、お嬢様もあの光に向かって進んでいるにちがいありません。
仄かな希望を胸に秘めたメイドは、一層深いところへ進んでいきました。
しかし、夜も更けて、メイドにもすっかり帰り道がわからなくなってしまいました。それどころか、一寸先も見えない暗闇に覆われてしまったのです。辺りをうろついても、なにに触れても、同じような木々や枯葉があるばかりでした。
首が痛くなるまで上を向いて、運よく風が吹けば、樹々の隙間から月明かりが見えました。それを目印にして、かろうじて進むことができました。けれど、それがいったい何になりましょうか。どこへ向かっているのかもわからないまま、ときたま見上げるおぼろげな光こそ、メイドを一層切なくさせたのです。
どこからともなく聞こえる、小さき物達の声が静寂を濃くしました。夜風に冷えた草は歩くたびにカサカサと耳障りでした。
一体いつまで歩けばいいのでしょう。何を頼りにして、どこへ進めばいいのでしょう。がむしゃらに歩いていると、何かにひっかかって、メイドの靴が片方脱げてしまいました。暗闇の中、いくら探しても見つけられません。それでも探そうとすれば、湿った土や枯葉、想像もできないようなぬめっとした何かが触れて、一歩進むのもためらうほどに恐怖と孤独を感じたメイドは、もう立ちすくむことしかできませんでした。
頭上を見れば、煌々と輝くお月様。蒼白く、ぼんやりとしたその光の下では、春先といえど肌寒く感じられます。
いったい少女も同じようにあれを眺めているのかと思うと、どんなに心細いことだろうと思って、メイドは泣いてしまいました。
──どうしてあんな話をしてしまったのでしょう。
──どうしてお嬢様をひとりで行かせてしまったのでしょう。
さめざめと泣くメイドは、そんなことばかりを考えていました。
──きっとお嬢様は、幸せな鳥を見つければ、また奥様が生きていた頃のような生活が送れると思っていたのでしょう。それほど寂しい思いをさせていたのです。もしお嬢様の想いに気付けていれば、もう少し気を配れていたら……もう少し愛せていたら。
「ああ、お嬢様、いったいどこにいらっしゃいますか」
座り込んだメイドの鼻をうつ、湿った土や樹皮のにおい。
もう、メイドには自分の身がどうなろうが知ったことではありません。少女を見つけられないのなら、このまま朽ち果ててしまいたいと思うほどでした。そして近くにあった小枝を身に引き寄せると、そのまま目を閉じてしまったのです。何年もの間、そうして眠っていましたから。