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そしてある日は、メイドが洗濯をしている時でした。
泡でいっぱいになった桶で少女が遊んでいると、ふいにできたシャボン玉が宙に舞い、その鼻先で弾けました。
びっくりしてしまった少女は、しばらく眼を閉じたままでしたが、濡れた鼻を拭ってから
「ねえ、幸せの鳥はどんな姿をしているの?」と聞きました。
「そうですね、それはあまり大きくないようです。そこの花壇にとまる蝶のように、とても小さな鳥でしょう」
「そしたら、わたしでも捕まえられる?」
「ええ、きっと捕まえられますよ。ただ、その手で触ってしまっては羽が濡れてかわいそうですから、お屋敷に戻る前に拭きましょうね」
はーい、と間延びした返事をした少女は、冬風で冷たくなった指先に息を吹きかけるのでした。
またある日、ふたりがお風呂に入っている時でした。髪をばしゃばしゃ洗い流した後に、固くつむった目を開けて少女は聞きました。
「ねえ、幸せの鳥はどんな声で鳴くの?」
「そうですね、小さな鈴の音のように可憐で、遠くまで響くようです」
「でも、わたし、そんな声聞いたことないわ」
「きっと朝早くに鳴くのでしょう。お嬢様は遅起きですからね」
「そうかしら。あなたがはやすぎるのよ」
「なら、今日はお風呂を済ませたら、はやく寝ましょうね」
はーい、と間延びした返事をした少女は、湯船に浸かってその温かさに身をゆだねるのでした。
「朝に鳴くなら、あなたは聞いたことがあるの?」
「さて、どうでしょう。私はお嬢様にお仕えしているだけで幸福ですから、聞こえないのかもしれません」
「なら私もおなじね」
「どうしてですか?」
「ひみつ!」
またある日は布団に入ったところでした。ふわふわの毛布が気持ちよく、ふたり寄り添っているうちに、重たくなった瞼を擦りながら少女は聞きました。
「ねえ、幸せの鳥はどこに住んでいるの?」
「そうですね、あの泉のそばにも住んでいるようです」
「あら、そしたらとっても冷えてしまうわ。ちゃんと暖かくしているのかしら」
「ええ、もちろんです。眠るときには、こうして寄り添いながら温めあっているのでしょう。さあ、今日はもう寝ましょうね」
はーい、と間延びした返事をした少女は、布団に潜ってメイドに抱きつきました。
「私、お母さまにもう一度会いたいわ」
「どうしてですか?」
「あなたにしてもらった話を沢山話して、私はこんなに幸せなのよって自慢するの」
「そうですか。お嬢様。その時には私もお付き添いします」
「何を話すの?」
「それはまだ、内緒です」