悪役令嬢に転生した乙女ゲーマー
※作者は悪役令嬢モノは好きだし乙女ゲームの世界という設定も好きです。あと私自身プレイした本数多くないです。
2020/9/6追記:春馬キヨタカ様より二次創作をいただきました。ページ下部のリンクよりどうぞ!
皆様ご機嫌よう。おはようございますこんにちはこんばんは──おはこんばんにちは。
そんなことを言ったら殺されるかもしれませんわね。その前に正気を疑われるかしら。
わたくしの名はキャロライン、公爵令嬢にして王太子様の婚約者でございます。つり目がちな瞳はきりっと輝きバストは豊満、金色に輝く髪は形状記憶合金もかくやという天然縦ロール。王妃教育バリバリで公爵令嬢として恥ずかしくない出来上がりやで。……『ですわ』。
メッキが剥がれまくった言葉遣いからお察しの通り、わたくし前世というものを覚えている精神異常者でございまして、以前は喪女をさせていただいておりました。乙女ゲームを嗜み早十年──と言いたいところですが、最近は情報を集めるばかりで新作はなかなか買っただけで詰んでしまっておりましたわね。お恥ずかしい限り。
そんなわたくしの目下の使命は──このトチ狂った世界を是正すること! 産まれる前に神とやらに『君好みの乙女ゲームとやらの世界を作っておいたよ』などと言われましたが、ぜって~~~~~あの神エアプですわよ。まちがいねぇ。
まずですわ、まずですわよ、貴族社会物が乙女ゲーでメジャーだといつから錯覚していた? むしろ逆でしょ。明日は命もないかもしれないシチュの方が多いでしょ。……とは言い過ぎかもしれませんが、某乙女ゲームの最大手メーカーがおそらく一番移植してアニメ化終わった後も移植しすぎてそろそろ薄まったお湯でしょいつまで引っ張ってんだこれ? という作品、舞台は幕末ぞ? 攻略対象はだいたい史実で死ぬからその辺どうすんの? ってとこが幕末モノの見せ所であって。貴族社会物の好まれる理由の一説ってご存知? 『その後二人は幸せに暮しましたとさ』って言いやすいからですわ。そしてそれはむしろラノベサイドで好まれるやつです。乙女ゲーは結構ハードな舞台なの。こんなな~~んの悪意も波乱もない貴族社会なんちゃって学園モノなんてやってられるか。舞台が平和だった場合は主人公がだいたい平和じゃないもんよ。記憶喪失とか復讐とかなんか抱えてる。貴族に親殺されたから学園に侵入するんだよ。
次にだ、悪役令嬢ってなんだよ。私のポジションっていわゆるそれだって神にも言われましたけどもね、ンなもんいねえわ。いや、もちろん個別ルートで恋敵としてめんどくさい女いることもあるがだいたいモブ。そしてほぼモブだから没落とかそこまで描かれない。じゃあ恋敵は? そりゃ男がやるに決まってる。主人公の死因なんて九割隠し攻略対象でしょ。自分に殺意向けてきた男が最後に解放されるルートで主人公にすがりついて憎悪を愛に変換する瞬間が嫌いな人いる? ごめんなさい主語でかオタクだった。私は大好き。まあつまり恋敵の女ってそんな多くないか、いても友達だったりして案外平和だしどのルートでも邪魔してくるってことはそんなに多くないってこと。
……あつくなってしまいましたわね。まあつまり、何が言いたいかというと、わたくしは悪役令嬢なんてやる気はないし、そもそも存在がおかしい、という話でございます。
「そんなはずありません! わたしが主人公で、あなたは悪役なんです!」
そう言う彼女はweb小説の読み専をしていたらしい。乙女ゲームは高くて買えないから知らない、でも悪役令嬢モノなんていくらでもある、と主張している。そのだいたいが乙女ゲームを舞台としているんだからこれも乙女ゲームだと主張してくる。この世界は初見らしいが。
「伝わっていないようですわね、シャルロッテ様」
わたくしはふ、とため息をつきながら扇をぱちりと閉めた。
「わたくしはね……なにもそのポジションを否定したいのではありません」
「じゃあなにを?」
「これが乙女ゲームだと思い込んでいらっしゃる創造神様に全力でツッコミ申し上げたいのですわ」
これは悪役令嬢モノというジャンルにおけるイマジナリー乙女ゲームの世界であって乙女ゲームではない。わたくしは心からそう思っている。
「……そのためだけに裏で公爵家の仕業とわからないよう二重三重に予防線をはった上に口頭で唆しただけで証拠もなにもないようにしてわたしの実家を焼いて復讐を決意させたと?」
「まあそうなりますわね」
「ノーブルリリィの称号を家柄関係なくその美しさと能力で選ばれるよう改革したのも?」
「わたくしが入学前から手回ししました」
「その上でカーティス先生をつかったり王太子様と関わらせたりしてわたしに教育を施そうとした?」
「ぜんぶわたくしとバレないようにやるのはなかなか骨が折れましたわね」
ちなみにシャルロッテの実家を焼いたのはカーティス先生である。かんぺき!
「……わたしの転生タイミングが入学時じゃなくて出生時なら殺されてますよ」
「ご両親を殺すのはわたくしも流石に日本人としてどうかと思うのでちゃんと保護しております」
「どうりで死体がないわけだ!?」
なんちゅうサイコパスだ、とシャルロッテ様は頭を抱えた。サイコパスとはなんだサイコパスとは。
「人聞きの悪い……あまり死にそうな目に合わなさそうな舞台ならこのくらいの盛り上がりがないと導入として面白くないですわよ。命短し恋せよ乙女、ですわ」
「わたしの人生をそんな演出のためにもてあそばないでください……」
ため息混じりにそう言われればわたくしも少し困ってしまう。確かにそうだ。
「それについては申し訳ございません。この世界は全部あのエアプ創造神のつくりものだと思っておりましたので、まさかわたくしの行動に違和感を覚えられる現代人がもう一人現れてしまうとは……」
「その神様、わたしの転生のときには『あの悪役令嬢をなんとかしてくれ』と仰ってましたけど」
「マジかー」
そうかあ、私のせいかー。
「っていうか、そんなにこの舞台、いやですか?」
シャルロッテ様がしょんぼりとする。彼女は悪役令嬢モノの大好きなオタクだったのだ。こんなに世界を恋愛そっちのけで全身全霊で否定して引っ掻き回す女の存在はちょっと悲しいのかもしれなかった。慌ててわたくしはかぶりを振った。
「違いますわ、わたくし悪役令嬢ものは悪役令嬢もので読みますし割と好きでしたわよ」
まあだからこそ転生した瞬間、自分のポジションを把握できたのだし。
「じゃあどうしてこんなことを……」
「先程から申し上げておりましてよ」
にっこりと笑いながらわたくしは扇を天高く突き上げた。そう、気に入らないのはこれを『悪役令嬢ものの世界』ではなく『乙女ゲームの世界』だと思い込んでいる創造神である。ゆえに。
「エアプ野郎知ったかしてないでコンシューマー乙女ゲーやれ!!!!!!!!!!!!!!」
おすすめタイトルを数作さけんだ声は、虚空に溶けていった。
神作品なので『夏空のモ○ローグ』をやってください