安らぎの空間をあなたに
第1話 香月姉妹
国道を北へ一本入った路地に洋館風の一軒の喫茶店がある。
駐車場はなく敷地は緑の木々が生い茂っている。
扉を開けると「カランカラン」とベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
カウンター5席とテーブル席4つの落ち着いた店内に高校生らしき少女が出迎えてくれた。
珈琲香月は平日はご近所のご老人や主婦達が通う憩いの場。
しかし週末になると「Caffe KADUKI」として営業している。
香月蓮希高校3年生と颯希高校1年生は市内では「香月姉妹」と認知度が高い。
高校は姉妹揃って首席合格。
見た目も校内一とまではいかないが美形なので自然と人目をひく。
週末は姉妹揃って「Caffe KADUKI」で祖父母の代わりに働いている。
「おはよう」
オープンと同時に店にやってきたのは姉妹と同じ高校に通う黒川輝夜。
土曜日のこの時間に必ず来店する常連さんだ。
指定席のカウンターの一番奥の席に陣取ると
「樹、ホット。」
と注文する。
週末のマスター、香月樹は高校2年生。
真ん中の宿命とでも言うべきか姉の蓮希、妹の颯希に比べると成績はほどほど、容姿もまあまあなのですっかりと影を潜めている。
「かしこまりました」
幼馴染の輝夜の注文を恭しく受けてると手際良くコーヒーを淹れる。
「輝夜ちゃん、いらっしゃい。今日はフィナンシェだよ。」
蓮希が今日のモーニングのフィナンシェを輝夜の前に置くと素早くパクリ。
「ん〜!やっぱり颯希の焼き菓子はおいしいね〜。甘過ぎなくてサックサク。
ね〜、そろそろ作り方教えてよ〜」
輝夜は手を合わせてお願いするが
「企業秘密です。」
と微笑を浮かべて拒否された。
「また〜⁈幼馴染じゃんか〜、ねぇねぇ樹にも食べさせてあげるから教えてよ!」
難攻不落の妹分を回避してかわいく樹にお願いのポーズ。
「ん?俺に言われても作り方知らないぞ。」
「使えないな〜。」
嘆息してカウンターに突っ伏した輝夜の目の前にコーヒーカップを置く。
「俺の仕事はこれだから。冷めないうちに飲めよ。」
ここ数ヶ月、土曜日の朝はこの光景が繰り返されていた。