平行線
多分、これは、気づいてはいけない恋で。
恋かもわからないもので。
伝えることは、きっとない。
意地っ張りで、恋や恋愛の仕方を忘れた私には、難しいことでした。
「ご飯いこうよ!」という誘いに、「あの子誘ってよ」というメッセージ。胸が苦しくなったんなんて、きっと気のせい。私と2人でご飯に行くっていう選択肢は貴方にはなかったのかなとか、そんな考えになったのは、貴方の『とくべつ』な友達が私1人じゃ無くなったから。それだけ。
毎回ご飯や飲みに遊びに行くような仲じゃない。たまに、1年に何回かしか会わないのに、それが続いて、気楽でいれる『ともだち』が私たちだ。連絡だって、こまめなタイプじゃない。でも、確かに繋がっていて、ただの友達よりは、少し『とくべつ』な友達。
「自分から頑張らないと!」
お酒を飲みながら、気持ちも良くなって、みんなが貴方を揶揄う。それに加勢して、囃し立てる私は、笑えてる?みんなには、気づかれていないかな。
話の中心で、笑ってる貴方の、少し照れる横顔に、胸が苦しいのは、知らないふり。
「いや、まだわからないから!」
わからないから?馬鹿ね。いままで一緒にいた私が、わからないはずないじゃない。貴方は彼女を好きになってる。こんなに、早く彼女を呼び捨てにしてる時点で、わかりきってる。
みんなの揶揄いとアドバイスに笑いながら、私も話に混じる。この気持ちを抑え込むには、自分から貴方にアドバイスすること。そしたら、みんなも気づかないでしょ?
気づかないでほしいから。
「あいつどう?いい奴だよ」
ほら。また、胸が苦しくなった。
その言葉に、私は貴方の瞳には映らないことがわかる。彼の友達を勧められる度に、私は貴方の選択肢にはないのね。
何回も言わないでよ。なんて答えたらいいのよ?
貴方はそうして何度も傷つける。
大丈夫。私はまだ笑える。
「いつもより、酔ってるじゃん」
私の隣に来なくていい。私のことを気にしないで。親しい言葉をかけないで。
「まぁね!」
触れそうなほど近くなった肩を、一歩下がることで距離を測る。このぐらいの距離が、きっと丁度いい。
貴方は、みんなとの会話に混じりに、先を歩いて行く。少し離れた距離に、安心した。
みんなとの帰り道を、後ろから眺めながら歩く。とても寒く感じるのは、12月の夜だから?私の心の冷たさ?
私の気持ちを隠さなきゃ。
隠すってなんだろう?その時点で私は貴方を、少し想っているの?
仲の良い『とくべつ』な友達に好きな人が出来て、寂しいだけじゃなくて?
恋愛もご無沙汰な私には、これが恋なのかもわからなくて…いや、わからないふりをしていたのかもしれない。貴方と距離の近い『とくべつ』な友達というものに、居心地の良さを感じて、考えないようにしていた。何より、友達でなくなったときに、壊れた関係はどうなるの?きっと、もとには、戻れない。臆病な私には、普通に戻ることがきっとできない。
少し目線が高くなる貴方の後ろ姿を見ながら、心に釘をさす。この想いは、言わない。そして、知られないように。
私は貴方を応援する『ともだち』でいるから。
そしたら、隣でみんなと一緒に笑っていられるでしょ?
本当は、なんとなくわかってた。貴方が少し私を気にしてくれてること。でも、貴方も私も、自分から一歩が踏み出せるタイプじゃない。周りから押してくれる人もいない。少しの言葉遊びで終わり。もしかしたら、貴方は気づいてないかもしれないけど。
私と貴方の道が交わることはない。きっと、少し空いた距離を付かず離れずが、この関係を築くためのポイント。交わりが離れていってしまうなら、私は平行線でいい。
しばらく会わないことが、いまの私には必要。この気持ちを落ち着かせるために。
次会うときは、また心から笑えると思うから。心から応援できるから。
私の心にも休憩をちょうだい。
大丈夫。私は笑える。