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甘い物、美女に食われたが、胃に空きがないので異世界に消化を求め転生した!

作者: 長谷川凸蔵
掲載日:2018/09/24

 俺は、「紅い隣人」


 厳選された素材と、それを完璧に活かす素晴らしい職人が生み出した、奇跡の存在。


 老若男女全てを虜にしつつ、全てのお茶とのコンビネーションを可能にした、まさに至高の存在、究極の逸品。


 それはお土産は勿論、頑張った自分へのちょっとしたご褒美、引っ越しの挨拶と活躍の場を選ばない。


 口に含めば、素材を活かした自然な甘さ、ふわりとした口どけ、そして芳醇な香りが鼻腔を抜け、多幸感を演出する。


 口にした者には数々の選択肢が与えられる。この余韻をそのまま楽しむのか、それともお茶を飲み、新たな余韻を楽しむのか。それは、食べたもの次第だろう。勿論、次を口に運ぶのもオススメだ。


 確かに、見ているだけでも、その愛らしい外見を楽しむことも、可能だ。


 だがし菓子、いや、だがしかしやはり食べられてこそ、美味いと言って貰ってこその、菓子だ。


 そして今まさに、一人の美女が、この俺、紅い隣人を食べようとしている。


 勿論、成功は約束されている。


 彼女は恐らく、今後、中毒とも言えるほどこの俺を求めることだろう。美女を虜にする、罪な存在。


 それが俺、(クリムゾン)隣人(ネイバーフッド)なのだから。


 さあそのフォークをこの身に刺し……え?手掴み?いや、良いけどさ……ふふ、そうか、それほど我が存在を強く求めるのなら……精々味わって……ちょ、めっちゃばくばく食うやん、すぐ無くなるやん。


 まぁ、味わい方は、千差万別。全ての食べ方を否定せず、その全ての食べ方に美味しいと思わせる、これが菓子の責務だ。


 さあ、咀嚼し、精々飲み込むがいい!


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「……ここは?」


 食べられた、それは覚えている。だが本来食べられた菓子は、胃によって消化され、姿を変質し、うん……いや排泄物として大いなる自然の循環、万物の輪廻へと誘われる筈だ。


「……お前も、来ちまったのか」


「……お前は!紅い恋人!」


 目の前にいたのは、『(クリムゾン)恋人(ラヴァー)』。我が身を模倣し、その権利関係的なものでちょっとだけ揉めてるとかなんとか、でも菓子同士にはそのようないざこざは、無縁だ。


「残念だが、ここは、『胃』じゃねえよ」


「なんだと!まさかここは戦士の魂が死後に集うという、『ヴァルハラ』だとでも言うのか!」


「いや、『別腹(ベツバラ)』だ」


「別腹……」


 聞いたことがある。本来の胃の許容範囲は厳密に決められており、人間はそれ以上の食物は摂取できない。


 しかし選ばれた稀有な存在、『甘いもの』だけが、その限界を超え、摂取されることが可能だと……


 ただその存在は、科学的に証明された存在ではなく、あくまでも噂、都市伝説の類いだと信じていたのだが……


「まさか、『胃世界』に行くつもりが、『異世界』に来てしまうとは……」


「え?」


「いやだから、『胃』と『異』をね……」


「はあ?」


「……」


 やめよう、これ以上、奴にはこのハイレベルなジョークを理解するのは期待できないだろう。何てったって奴は所詮模倣品。至高の存在である我が考えなど、到底理解できないのだ。


 沈黙していると、紅い恋人が突然叫んだ。


「まて!下らない事を言ってる時間はねぇ!『奴』が来ちまうぞ!」


「いや、下らない事って、なんか俺が滑ったみたいじゃん、俺が滑ったんじゃなくてお前のセンスっつうかさ、あんじゃん?そういうの、つまんないやつに限ってさ、お笑いはセンスじゃなくて好みとかそーゆうこと言うんだよ、でもさ、俺は断然センス肯定派。だってセンスない奴はさ?センスある奴の視点に立てないわけじゃん?なら何をもってお笑いは好みとかそういうさ……」


「滅茶苦茶早口!わかった!『胃世界』と『異世界』最高!センスあるわぁ~」


「出た出た、なんかそういう言い方してさ、俺の方が上だけどねアピール、別にお前になんか認められたくてこっちは言ってる訳じゃねーし、なんかそうやって『はい、評価してあげたよ』みたいな感じ、あるよね、そりゃ褒められれば嬉しいよ?だけどなんかそんな風に変にマウント取る必要なくね?素直に褒めてくれりゃあさあ……」


「ごめんって!悪かったって!」


「うむ、理解できたかね?模倣品」


(コイツ……いつか殺す)


 その時、光が輝き、目の前に『門』が開く。


「来ちまったか…」


 目の前に現れたのは、『すずめ』だった。


 鳥ではない、菓子だ。鳥の模倣から生まれた、鳥を超えし存在。愛らしい外見と、覚えやすさ。


 我々のように「どっちだったっけーまぁこっちでいっか」などと言われることのない、抜群の知名度と分かりやすさ。


 この紅い隣人の、永遠のライバルである。


「お前らも来てたピヨか……」


「ああ……」


 ってかあの女、どんだけ食ってんの?若い代謝に身を任せまくり過ぎじゃない?


「ここで出会ったならしょうがないピヨ……ライバルとして、決着付けるピヨ……」


「良かろう、どちらが最強か、見せてやろう!」


 覚悟を決めたその時。


「どうやって?」


「え?」「えっピヨ?」


「そもそも、菓子の決着って何よ。味ならともかく、もう食われてるのに」


 紅い恋人の問いかけに、暫し場が沈黙するが……


「お前、空気読めよ!」


「……!そ、そうピヨ!」


「いや、だって」


「いるいる、こう言う俺だけなんか冷静に色々見えてます、お前ら落ち着け、熱くなりすぎワロタみたいな奴。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損!に対して『いや、疲れるから踊った方が損じゃね?』みたいな事いってさぁ、何、お前、子供の時そういうこと言う大人になりたかったのかよ!」


「いや、大人も子供も何も、菓子だし」


「例えばなしだろ、揚げ足取んなよ、『素材の頃』に置き換えるくらいしろよ!」


「素材の頃、別になんも思わねーよ」


「それ言ったら菓子も普通、なんも思わねーんだよ!前提を蔑ろにすんな!」


 我々の(こうろん)いは、続く。


 異世界から、胃世界に帰り、万物の輪廻に戻る、その日まで。


 なぜなら、暇で(センスあるわぁ)。


よろしけれは他作品もご一読お願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] お菓子なのにキャラが立ってるのが面白かったです。 喋っている姿を想像したらフフっとなりました。
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