甘い物、美女に食われたが、胃に空きがないので異世界に消化を求め転生した!
俺は、「紅い隣人」
厳選された素材と、それを完璧に活かす素晴らしい職人が生み出した、奇跡の存在。
老若男女全てを虜にしつつ、全てのお茶とのコンビネーションを可能にした、まさに至高の存在、究極の逸品。
それはお土産は勿論、頑張った自分へのちょっとしたご褒美、引っ越しの挨拶と活躍の場を選ばない。
口に含めば、素材を活かした自然な甘さ、ふわりとした口どけ、そして芳醇な香りが鼻腔を抜け、多幸感を演出する。
口にした者には数々の選択肢が与えられる。この余韻をそのまま楽しむのか、それともお茶を飲み、新たな余韻を楽しむのか。それは、食べたもの次第だろう。勿論、次を口に運ぶのもオススメだ。
確かに、見ているだけでも、その愛らしい外見を楽しむことも、可能だ。
だがし菓子、いや、だがしかしやはり食べられてこそ、美味いと言って貰ってこその、菓子だ。
そして今まさに、一人の美女が、この俺、紅い隣人を食べようとしている。
勿論、成功は約束されている。
彼女は恐らく、今後、中毒とも言えるほどこの俺を求めることだろう。美女を虜にする、罪な存在。
それが俺、紅い隣人なのだから。
さあそのフォークをこの身に刺し……え?手掴み?いや、良いけどさ……ふふ、そうか、それほど我が存在を強く求めるのなら……精々味わって……ちょ、めっちゃばくばく食うやん、すぐ無くなるやん。
まぁ、味わい方は、千差万別。全ての食べ方を否定せず、その全ての食べ方に美味しいと思わせる、これが菓子の責務だ。
さあ、咀嚼し、精々飲み込むがいい!
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「……ここは?」
食べられた、それは覚えている。だが本来食べられた菓子は、胃によって消化され、姿を変質し、うん……いや排泄物として大いなる自然の循環、万物の輪廻へと誘われる筈だ。
「……お前も、来ちまったのか」
「……お前は!紅い恋人!」
目の前にいたのは、『紅い恋人』。我が身を模倣し、その権利関係的なものでちょっとだけ揉めてるとかなんとか、でも菓子同士にはそのようないざこざは、無縁だ。
「残念だが、ここは、『胃』じゃねえよ」
「なんだと!まさかここは戦士の魂が死後に集うという、『ヴァルハラ』だとでも言うのか!」
「いや、『別腹』だ」
「別腹……」
聞いたことがある。本来の胃の許容範囲は厳密に決められており、人間はそれ以上の食物は摂取できない。
しかし選ばれた稀有な存在、『甘いもの』だけが、その限界を超え、摂取されることが可能だと……
ただその存在は、科学的に証明された存在ではなく、あくまでも噂、都市伝説の類いだと信じていたのだが……
「まさか、『胃世界』に行くつもりが、『異世界』に来てしまうとは……」
「え?」
「いやだから、『胃』と『異』をね……」
「はあ?」
「……」
やめよう、これ以上、奴にはこのハイレベルなジョークを理解するのは期待できないだろう。何てったって奴は所詮模倣品。至高の存在である我が考えなど、到底理解できないのだ。
沈黙していると、紅い恋人が突然叫んだ。
「まて!下らない事を言ってる時間はねぇ!『奴』が来ちまうぞ!」
「いや、下らない事って、なんか俺が滑ったみたいじゃん、俺が滑ったんじゃなくてお前のセンスっつうかさ、あんじゃん?そういうの、つまんないやつに限ってさ、お笑いはセンスじゃなくて好みとかそーゆうこと言うんだよ、でもさ、俺は断然センス肯定派。だってセンスない奴はさ?センスある奴の視点に立てないわけじゃん?なら何をもってお笑いは好みとかそういうさ……」
「滅茶苦茶早口!わかった!『胃世界』と『異世界』最高!センスあるわぁ~」
「出た出た、なんかそういう言い方してさ、俺の方が上だけどねアピール、別にお前になんか認められたくてこっちは言ってる訳じゃねーし、なんかそうやって『はい、評価してあげたよ』みたいな感じ、あるよね、そりゃ褒められれば嬉しいよ?だけどなんかそんな風に変にマウント取る必要なくね?素直に褒めてくれりゃあさあ……」
「ごめんって!悪かったって!」
「うむ、理解できたかね?模倣品」
(コイツ……いつか殺す)
その時、光が輝き、目の前に『門』が開く。
「来ちまったか…」
目の前に現れたのは、『すずめ』だった。
鳥ではない、菓子だ。鳥の模倣から生まれた、鳥を超えし存在。愛らしい外見と、覚えやすさ。
我々のように「どっちだったっけーまぁこっちでいっか」などと言われることのない、抜群の知名度と分かりやすさ。
この紅い隣人の、永遠のライバルである。
「お前らも来てたピヨか……」
「ああ……」
ってかあの女、どんだけ食ってんの?若い代謝に身を任せまくり過ぎじゃない?
「ここで出会ったならしょうがないピヨ……ライバルとして、決着付けるピヨ……」
「良かろう、どちらが最強か、見せてやろう!」
覚悟を決めたその時。
「どうやって?」
「え?」「えっピヨ?」
「そもそも、菓子の決着って何よ。味ならともかく、もう食われてるのに」
紅い恋人の問いかけに、暫し場が沈黙するが……
「お前、空気読めよ!」
「……!そ、そうピヨ!」
「いや、だって」
「いるいる、こう言う俺だけなんか冷静に色々見えてます、お前ら落ち着け、熱くなりすぎワロタみたいな奴。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損!に対して『いや、疲れるから踊った方が損じゃね?』みたいな事いってさぁ、何、お前、子供の時そういうこと言う大人になりたかったのかよ!」
「いや、大人も子供も何も、菓子だし」
「例えばなしだろ、揚げ足取んなよ、『素材の頃』に置き換えるくらいしろよ!」
「素材の頃、別になんも思わねーよ」
「それ言ったら菓子も普通、なんも思わねーんだよ!前提を蔑ろにすんな!」
我々の戦いは、続く。
異世界から、胃世界に帰り、万物の輪廻に戻る、その日まで。
なぜなら、暇で(センスあるわぁ)。
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