スライムと少年
朝早くから目を覚まし少年はスライム修行に取り掛かる。体に張り付いたスライムは存外に寝心地は良かったが期限が2日しかないので寝すぎる事は出来ない。
「…よし。」
体に気合いを入れて右手に短剣を握る。目の前の木に狙いをすまし体を捻りながら全体重を乗せて投げる。
短剣は木のど真ん中に命中し、スライムもそれを覆うように纏わりつく。
「…あれ?」
だが、昨日よりもスライムの集まりが悪い。体の至る所にスライムが残りしかも微妙に粘りが強いというか体が重く動き辛い。
…スライムが昨日よりも少し固い。もしかして時間が経つにつれスライムは固くなるのか?もしくは昨日食べさせた肉がいけなかったのか。
短剣を持たず投げる振りをする。スライムは右手に、左足に、腰に集まりはするものの中々一点に集まらない。
「…うーん。」
試しにジャンプしてみるとスライムは上下する。クルクルと回ってみると端に寄り始める。ダッシュからのいきなりのストップしてみると進行方向に寄り始める。
「…全体を使った動きだとスライムは纏まって動く。」
次に蹴り技、回し蹴り。胴体と両足でYの字を作りながら木を蹴るとスライムはほとんど動かない。微妙に腰と蹴り足に集まってるくらいだ。後ろ回し蹴りはそれより少し多く動く。
全力で走りながらドロップキック。スライムが足に集中したが勢いが足りないからか全てとはいかない。
前蹴り、もといヤクザキック。下半身移動がスムーズだからか蹴り足のみのスライムが綺麗に集まる。他の部分は移動しない。
踵落とし、ローキック、膝蹴りはほぼ変化なし。
次に突き、体重移動をスムーズにしたジャブ。集まり方は上々、ただし足、腰、腕でスライムの移動スピードがまばらで違和感があり最終的に集まらない。移動スピードを同じにしないと集中しそうにない。
腰を回してタメを作った中段突き。腰と腕は中々いい感じのスムーズさ。だが、足はやはり微妙に合わない上に足元にスライムが溜まりやすい。
アッパーよりのガゼルパンチ。これは意外とスムーズに動く、足から腕まで綺麗に移動する。ただし、勢いが足りないから全部はこない。
「ゼェ、ゼェ。」
つ、疲れる。体が動き難い上にこう何度も試すのは大変だ。
…まとめてみよう。
1.進行方向に向かっての速度、重さ、つまりその勢いでスライムは動く。
2.体の動作の連動がスムーズだと勢いが少なくてもその分スライムは動く。
3.全体を使った動きだとスライムは纏まって動く。逆にばらけていると分散する。
4.残り1日半。
「…ゼェ、…厳しい。」
集まりが悪いわけじゃない。でも全てを集めようとすると上手くいく自信がなかった。
「…ゼェ…タイミングが難しいんだ。」
手や足を部分部分で纏めようとするとちゃんと集まる。だけど、蹴りなら腕のスライムを腰に、腰から足に集中させる。突きなら足から腰に、腰から腕に集中させる。これが難しい。
「…ハァ…ハァ…それに使ってない部分があるんだ。」
スライムが移動する際に急に流れが悪くなる時がある。きっと無意識にスライムの移動を邪魔してるんだ。特に短剣を投げる時はそれがよくわかる。
「ハァ…ハァ。よし!色々試すぞ!」
少年は揺れるスライムを一点に纏めるために動き出す。そこに、
「ギギャ!」
「ギギャ!」
「「「ギャギャ!!」」」
ゴブリンがワラワラと集まってきた。
「ハァ…ハァ…またこいつらか、メンドくさい。」
少年は短剣を引き抜く。
ゴブリン達が襲いかかってきた。