「猫の災難」
「ただいま~」
「ムー?」
「………………んー♪」
「どこ~?」
「………んんー♪」
いつもなら
「遅かったな」とでも言うように
嬉しさをおくびにも出さず
ふくれっ面の仮面を被り
玄関に迎えに来る猫が、
来ない、、、
「ムー?」
「………………ココだぜ~、」
と、囁くような微かな声がする
「ムー?」
「遅くなってごめん」
「おやつにしよか~?」
(カリカリの音をさせてみる)
いつもなら
プライドも投げ捨てて
どこにいても
駆けつける
カリカリの魔法が効かない。
(これはおかしい、)
名前を呼びながら
「ムー?」
お気に入りのソファー
(いない、)
「ムー?}
フローリングのひだまり
(いない、、)
「ムー?」
階段の7段目
「ムーー!」
マッサージチェアーの裏
(いない?)
「ムーーーー―!!!!」
出窓の上
「んんん~」
(近い)))))
「ムーーーーー!?」
「ここだ~~~~ッ♪」
ブッ。(笑)
「どしたん!?」
「どこ挟まってるん?」
「いいから、早く助けろ、」
「おまえ、今 笑ったな 」
「嫌やな~、笑ったんとちがう、」
「驚いただけw、」
「………まあいい、」
抱き上げて
抱きしめてやると
いつから挟まっていたんだろう
すっかり肢体が冷たくなっていた。
可哀想にと撫でながら
彼の一番感じるあの、
肩甲骨と顎にかけてのラインを
丹念に撫で上げてやると
目を細め
ゴロゴロと云い
安堵の表情を浮かべた。
そして彼は
涎を垂らしながら
わたしの指に噛みついた
「笑った罰だぞ」と
わたしは知っている。
それは彼が興奮している
証拠であることを………
ガラス窓と飾りケースの間に
挟まってたムー♪
(あんがいドジ、、、)
同じ月をながめながら、
もうひとつの月をみている
「それぞれの」月。