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俺のアルヌとは程遠いステータスを見た受付の人は、まさに顔面蒼白といった風でギルドの奥へと駆けていった。
俺とアルヌはその場に蒼然と立ち尽くしていたが、受付の人がある人を連れてきたのを皮切りに正気に戻った。
男の人の登場に俺は頭に?を浮かべていたが、アルヌはそうではなかった。それはもう嬉しそうにその場で跳ねていた。
「も、も、もしかして元風の凶弾のウォンさんですか!?」
アルヌは男に向かいそう叫んだ。
なんだ風の凶弾って。ちょっと厨二入ってないか...と思ったけど龍と同化してそうな俺が言うと滑稽な話だな...
アルヌの声を聴いた男はぎこちない笑みを浮かべながら、照れくさそうに口を開いた。
「あー...あんまりその名前で呼ばないでほしいな...気恥ずかしいって言うか...うん......ってそうじゃない!ラレウス君はどっちだい?」
「あ、俺がラレウスですけど。」
どうやら反応的にアルヌが言うウォンさんで間違いはないようだった。
見た感じ筋肉というよりはヒョロっとした感じの細い男だ。服装はローブっぽいものを羽織っており、フードっぽいモノも確認できた。
ラレウスが俺とわかった瞬間、ウォンは俺の方に近づき肩に手を置いた。
「ちょっと、奥まで来てくれないか?」
今更身分証作りに来ただけですなんて、俺の口からは言えず、渋々ギルドの奥へと連行されるのであった。
その際、アルヌもついていく許可を得たようで、ニコニコ笑顔で俺の後をつけてきていた。
されるがまま着いていった先はギルドマスターの部屋だった。
部屋に親切にも書いてあったから間違いない。
そこに入ると同時にウォンは部屋の鍵を閉め、俺たちをソファへと座らせた。
何だか学校で問題を起こして校長室に来た気分だ。そんなことしたことないけど。
「まず、自己紹介をするね。僕はこの街のギルドマスターをやっているウォンって言うんだ。よろしく。」
この部屋に入った時点で、ウォンがギルドマスターであることはわかっていた。
しかし、見た感じそこまで強そうにも見えなかった。魔法を使えるのか、少しだけ魔の気を感じるが、それも微々たるものだった。
「俺は今日この街に来たラレウスって言います。宜しくお願いします。」
「私は冒険者学校戦士科のアルヌって言います!宜しくお願いします!」
俺とアルヌは相対的な挨拶をした。あまり乗り気ではない俺は、簡単な挨拶というかあまり気の入ってない挨拶にしたが、アルヌは自身の全力を出したかのような挨拶だった。
どうやらアルヌは彼の事を尊敬しているっぽい。
「君は冒険者学校に通ってるんだね...成程。デイモンドは元気かい?」
「はい!デイモンド様は毎日私達の授業風景を見に顔出ししてくれます!」
「そうなんだ。彼も丸くなったなぁ...」
俺の知らない名前がポンポンと出ながら、二人の話が弾んでいた。
蚊帳の外にしていたことに気付いたのかウォンは俺の方を向き、デイモンドについて説明してくれた。
「デイモンドって言うのは冒険者学校の理事長をやってるやつなんだ。なんで僕が、そんな人のことを聞いたかって言うと...さっきアルヌ君が言ってた風の凶弾ってあるでしょ?あれのパーティーメンバーだったんだよ。」
「へー、そうなんですか。すいません。そう言うの疎くて...」
「いやいいんだ!逆に知られてなくて安心してるくらいだよ!」
彼は顔の前で大げさに手を振りながら何かを誤魔化すようにはにかんだ。
何だか関係ない雑談ばっかりだが未だに本題が切り出せていないウォンに俺は助け船を差し出すことにした。
「あの、ウォンさん。どうして俺はここに?」
「あー!そのことについて話さなきゃね!」
まるで忘れてたと言わんばかりにウォンは向き直った。絶対忘れてたなと確信しながら俺は呆れた。
この一瞬で忘れられるとは脳内がお花畑なのだろうと、出会って5分もたってない相手に悪態を吐いた。
「ラレウス君、君のギルドカードを見せてくれないかな?」
ウォンは俺に向かってくれといわんばかりに手を差し伸べてきた。
ここで見せないほど俺の性格は曲がってないので、素直に渡した。
ギルドカードを見たウォンは何だか諦めにも近く、知っていたと言わんばかりのリアクションをとっていた。
「成程ね。こりゃセナも焦るよ。」
「セナ?」
「あぁ、受付の人ね。」
何だか合点の言ったように呟くウォンに納得のいかないような顔をした俺は、隣にいたアルヌに突かれた。
どうやらウォンが唸っている状況を見て、俺に察しろといっているようだった。
実際、俺は大体は察している。恐らくだが、Lv.1にしては異常って話だろう。
だが、あまりにも当たり前でしょう見たいな、分かってます的な態度をとるほど俺は己惚れたくない。
なので微妙に気付いてない風を装っているのだ。
「ラレウス君。これどういう意味か分かるかな?」
俺に語りかけながらウォンは俺のギルドカードを見せてきた。
「...俺のギルドカードですよね。」
「やっぱり、分かってないか...」
何だか落胆のようなウォンの表情に俺はマジの困惑の色を見せた。
演技ではなく真面目に何故落胆したのか分からなかった。
実際この落胆は、ウォン自身が相手の才能に嫉妬し、自分の弱さに落ち込んだだけだった。ウォンの心情を知らないラレウスは把握できない物だった。
「じゃあ、この際僕のギルドカードを見せよう。」
そう言うとウォンはポケットから徐にギルドカードを取り出した。
俺は自分のギルドカードを受け取り、その隣に並べるようにしてウォンのカードを置いた。
そんな、ウォンのギルドカードのステータスを見た瞬間、俺の脳は真っ白になった。
―ステータス―
【ウォン】age:47 種族:人族
職業:魔法使
ギルドマスター
Lv.74
物理攻撃力 88
物理防御力 121
魔法攻撃力 302
魔法防御力 557
俊敏力 32
器用力 86
運力 21
【スキル】
回復魔法適正C
地属性魔法適正C
まず、目を疑ったのがステータス全体の数値の低さ。
全てにおいて、俺を上回ることができていなかった。(器用度は除く。)
次に疑ったのはLvだ。
彼のレベルは74だったのだ。その割には明らかに全体ステータスが低かった。否、低く思いたかった。
だが、そんな現実逃避もウォンの言葉によって打ち砕かれる。
「僕はね、魔法防御力がこの世界で一番高い人族なんだ。」
やばい。自分の正体がばれてしまう。そう俺は本能的に感じ取った。
何せウォンの言うことが本当なのであれば、俺はLv1にして人族のTOPを取ったと言っても過言ではない。
「それにね、この世で人族が持っているスキルの最大数は3つなんだ。」
何だか確信に迫るように言い始めるウォン。
俺は軽く恐怖を覚えていた。なんだか、こいつからは危険な香りがする、そう本能が感じ取っていた。
「恐らくだし、隠さなくてもいい。嫌なら言わなくたって構わない。だからひとつ聞かせてくれ。」
「......はい。」
ここで確信に迫る質問をされるのだろう。
ウォンは言わなくても構わないと言った。だが沈黙は了承だと言われても否定はできない状況だった。
俺は逃げられないと直感した。
「君は王族の隠し子だね?」
「......は、はい?」
あまりに想定外な言葉に耳を疑う。
明らかに彼は王族といった。俺はこの街に来て2度目の言葉だった。一度目は言わずもがなアルヌだ。
「やっぱり、何も言わなくていい。君みたいな少女にそんな酷なことを言わせるなんて僕はそこまで非道な男じゃないからね。」
そう言うとさわやかな笑顔で俺の方を見てきた。
いやいやいや、違うし何か根本的に勘違いしてるし!
...だけどここは何も言わない方が得策だった。
事実、これ以上自分の人外じみた部分を抜かれると正体がばれかねない。
ならば、乗るしかないのだ。この糞みたいな勘違いに。
「稀にあるんだよ。体におかしなほど強すぎる力を秘めた子が生まれることが。でもね、その生まれた子は見つかった瞬間に殺されてしまうんだ。忌子としてね。」
何だか壮大な話になっているがもう俺は脳みその中身を空っぽにして聞いていた。
隣にいるアルヌは鼻息を荒くして、ウォンの話にくぎ付けだった。
こいつらアホすぎるだろ。それが俺の心情だった。
「だからね、隠された子だったら納得なんだ。だが平民がやると下手したら反逆罪で死刑になる。なので王族ってことになるんだよね。」
「私もそう思ってたんです!実は、ラレウスさんってこの街に歩いてきたって言うんですよ!身分証もなしに!」
「あぁ、なるほどね。ここに来たのは隠されていた影響で発行できなかった身分証の発行をするためか...街に歩いてきたとなると護衛も居たはずだろう...こうなるとはっきりしてきたね。」
どうしよう。取り返しのつかない方向に話がうまくつながっていってしまう。
そんな奇妙な状況に、俺は頭を抱えるしかなかったのだった。