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ギルドに入り、流されるかのように冒険者カウンターまで来てしまった俺は今、とある書類を書かされている。
「...あの?これは...」
「ギルドカードに書き込む個人情報ですね。」
「はぁ...あの、俺別に冒険者になろうとしてここに来たわけじゃあ...」
無理やり連れてこられて現状に至ることを、今更になって告白した。
受付の人は訳が分からないと言った表情を浮かべた。
「え?なら何故ここに?依頼ですか?」
「いえいえ!違います!ここで身分証を発行できると聞いてきただけです!」
不思議そうな表情を浮かべていたギルドの受付の人が、俺の言葉を聞いて納得が言った顔をした。
初めから言えばいいのにといった表情にも見えるが、俺は言ってたんです。遮られてただけです。
心の中で、訂正を要求するが無様にもその声は誰にも届かなかった。
「それでしたら、ギルドカードが身分証なので大丈夫ですよ。」
「...はい?どういう事です?」
「はい、説明を致しますと世間一般で言う身分証とは身分を証明できるもののことを指しますよね?なので、最低限の個人情報が記載されているギルドカードは身分証扱いになるんです。」
「あぁ、そうなんですか...なるほどなるほど...でもそれだったらギルドカードは必要ないのでは?」
正直必要のない質問だと、言った後に気付いた。なにしろ先程答えに近いことは入ってたのだ。
そう、最低限。この言葉で多機能があることなんて予想は出来た。ここにきて、自分のバカさに呆れかえった。
「いえいえ、ギルドカードは身分証と似てますが本質で言えば全く異なるモノなんです。身分証は名の通り身分だけしか記載されてませんが、ギルドカードにはその人のステータスたるものが表示されます。」
「ステータス?」
ここで俺の耳に妙に聞き覚えのある言葉が舞い込んできた。
ステータス。これは、RPGやソシャゲをプレイしたことあるやつなら必ず聞いたことがある言葉だろう。簡単に言えば、そいつの能力値というやつだ。
攻撃力、防御力、筋力、知力などそう言ったものを指す言葉だ。
今の説明の通りならば、ギルドカードを発行することによって俺自身の能力値を図ることができるということだった。
「はい。表示については追々説明しますが、これ以上話しても長くなるだけですので後は慣れて下さい。では、書類にご記入を。」
と、ここで説明に飽きたのか受付の人が話を切った。誠に不服である。
しかし、時間を潰すのも惜しいので、俺は身分証獲得のため手元にある書類に筆を走らせた。
書いている途中で、先ほどから黙々と描いていたアルヌが書き終えたと言わんばかりに叫んで、受付に出していた。
「書けました!」
「はい、少しチェックしますね。」
その間に、俺も追いつくため個人情報を書いていくことにする。
...年齢...15?くらいか?性別は男...じゃないわ。今は女か。で、名前は...短縮名でいいか。ラレウスっと...
だが、着々と書いていた俺の手が突然止まった。とある項目に行き詰ったのだった。
その名も「種族」。
俺は正直目を疑った。なんせ、ギルド登録する奴なんて人間しかいないと思ったからだ。
当然疑問に思った俺は受付に、質問を投げかけた。
「すみません。この種族ってなんですか?」
「あーそれですか。それはですね、人族の中のエルフやドワーフなどといった人たちに設けられる欄ですね。稀に亜人族の方もいたりします。人間の方は何も書かなくていいですよ。」
聞いたら俺の知らない単語ばかりが行きかっていた。正直分かるのはエルフくらいだった。
だがエルフも何故知ってるかって聞かれたら、正直俺自身覚えていない。
話を聞く限りは、この欄に龍とか書く阿保はいなさそうだな。よし、ここはスルーだな。
俺が黙々と書き始めて30秒くらい経ったころにアルヌが俺の元へやってきた。
どうやら、俺が終わるまで待ってくれるらしい。ありがたいことだ。
「ラレウスさん!書類書き終わったらステータスの登録だって!」
「わかった。あとちょっとだから...よし!終わった!」
書類を書き終えた俺は、受付へと提出した。
渡された受付の人がアルヌの時と同様、確認に目を走らせる。
「はい、大丈夫ですね。後はステータス情報を付与するだけですので少々お待ちください。」
そう言うと受付の人は、俺たちの書類を持ったまま奥の方へと消えていった。
しばらくすると、片手にクレジットサイズのカードを持って帰ってきた。
「こちらが貴女方のギルドカードになります。こちらがアルヌさんで、こちらがラレウスさんですね。」
指で丁寧に名前を示しながら、俺とアルヌに一枚ずつカードを渡してくれた。
カードを確認すると、名前やら年齢やらと色々な情報が載っていた。小さくて見辛いはずなのだが、見ている情報が自然と頭に入っていく、そんな感覚があった。
「文字が小さいですが、確認しようとすれば直接脳に発信される魔法が施されています。なので、目が悪くなったり失明してもカードは確認できるのでご安心ください。あと、名前の下にある欄はスキルやステータスが書かれて行く場所となっております。ご心配は入りません。」
さらっと怖いことを言いながら、受付で業務的な説明を受けていく。失明する状況があることに俺は小さく恐怖を覚えるが、アルヌは爛々とした目つきで話を聞いていた。
ていうか魔法か、すごいな。この世界の魔法って結構万能なのか?てっきり、水攻撃や火攻撃ができる程度だと思ってた。もしかしなくてもそう言った常識を捨てなければならないかもしれない。
「情報は随時更新されるので書き換え等は行わなくても大丈夫です。では、そろそろステータス情報の付与に参りますか。」
「はい!」
自身のステータスが知れるのがうれしいのか、アルヌはとても元気に返事を返していた。
正直、冒険者学校に通ってるもんだから自分のステータスくらい知ってるもんだと思ったが...そんなことはなさそうだな。
「付与は簡単です。カードを自分の心臓の位置に5秒間当てるだけですから。心臓は魔力の循環や、自身の情報などを取り扱ってる最重要機関なので、正確に読み取ることができます。」
心臓で自身の重要情報を取り扱ってるとか、脳みそかよ。とツッコミを入れたくなったが、この世界に来てから一回たりとも常識といったものが通用した覚えがないので心の中に留めておく。
説明を受けてやり方が分かったアルヌは、さっそく自身の右胸にカードをあてた。障害物がないから簡単に情報を読み取れそうだな。
「ラレウスさん、今絶対余計なこと考えたよね?」
どうやらアルヌは読心術を持っているようだ。悟り妖怪だったりするのだろうか。
「ああ!ごめんなさい!謝りますから、俺の脇腹つねらないでください!」
「もう、次はないからね!」
茶番をしてる間に5秒が経ったのか、アルヌのカードにはきちんとステータスが表示されていた。
―ステータス―
【アルヌ】 age:15 種族:人族
職業:学生
Lv.7
物理攻撃力 166
物理防御力 123
魔法攻撃力 21
魔法防御力 17
俊敏力 73
器用力 59
運力 14
【スキル】
身体強化F
【流派】
サライム流
うむ。凄いのか、ダメなのか全くわからん!てかサライム流ってなんだろうか。流派ってあるし剣のなんかか?
「おお、凄いステータスですね。レベル7で物理攻撃力が150超えている人なんて初めて見ましたよ。」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。これは誇っていいステータスだと思います。更に身体強化もFですが持っているので、王道な剣士ステータスですよ。」
「やった!!」
アルヌはよろこびからかその場で何度も跳ねていた。
正直俺にはすごいのか全くわからないので、静かに眺めていた。
アルヌもどうやら跳ねていたら落ち着いたのか、俺の元へと静かに目線を移した。
「ラレウスさんはやった?」
「まだだよ。」
「なら早くやってみようよ!」
「そ、そうだね。」
まだ興奮の色が醒めないのか、顔を近づけて俺に催促をするアルヌ。
やめろ。俺だって中身は男なんだ。そんなに顔を近づけられたらやばい。色々な意味で。
流石に焦らすのもあれなので、俺も右手に持っていたカードを左胸にあてた。
む、にょんといった感触が俺の右手に伝わってくるが、自分のモノなので興奮もしなければいやらしい気にもならない。ある意味哀しかった。
カードを胸に当てていると、アルヌが人を殺せる目線で俺の胸を睨んでいた。ごめんて。
流石に5秒立っただろうと思った俺は、カードを胸から外しステータス欄を確認してみた。
―ステータス―
【ラレウス】 age:14 種族:人族
職業:無職
Lv.1
物理攻撃力 438
物理防御力 512
魔法攻撃力 683
魔法防御力 655
俊敏力 569
器用力 58
運力 346
【スキル】
身体強化A
全属性魔法S
重力変化A
形態変化S
__は?
俺はステータスに目を通したと同時に目を疑った。なにせ、アルヌの時に比べ異様にステータスが高かったからだ。
龍と同化した状態であると言っても、人型である以上は同じ土俵に立っていると錯覚していた俺は、今のこの非現実的であるステータスに困惑していた。
そんな俺の苦労も知らず、アルヌは俺に声を掛けてくる。
「ラレウスさん?ステータスどうだった?」
そう言いながら、俺のギルドカードを覗き込んだアルヌは当然の如く、目を点にした。
ギギギと首が音を立てるかの様に、ゆっくりと俺の方へと顔が向けられる。
「ら、ララララレウスさん!?こここ、これはなに!?」
流石のアルヌも動揺を隠せずに、すごい剣幕で俺に問いかけてきた。
顔の色はきれいに消え、先ほどの興奮はどこへ行ったんだと言わんばかりの表情だった。
「いや…俺にもさっぱりで...」
「で、でも...このステータス...Lv1にしちゃあ異常って言うか...おかしいって言うか...強すぎる...」
一人で唸りながらアルヌは、考え込むかのように腕を組んだ。
考察モードに入ったのか、俯きながら何かをぶつぶつと呟いていた。
その後、受付の人も俺のステータスを見てから顔を真っ青にして、走りながら奥の部屋へと消えていった。
何だか腹が立ったので、俺がなにしたって言うんだ!ステータス付与しただけやろ!と心の中で叫んでおいた。
身分証を発行しに来ただけだったのに、もう何だか、静かに終わる気が全くしなかった...
だがまだこの時の俺は気付かなかったが後に知ることとなる...
この表示されたステータスが―
―龍基準であると__
スキルのAとかDとかはランクだと思ってくれれば幸いです。
G~AでSが最高値です。
世界観で言えばこの数値は天性のモノであり、上がることは無いと考えてくれて構いません。
攻撃手段等は今後明らかになってくると思いますので長い目でご覧ください。