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人様の小説を読んでいたら、執筆作業が進まなかった。
頭に思い浮かんだ謎の8文字が最古の龍の名前だった件について。
この情報を聞いた俺が至った考えは一つ...あの龍がその龍なのではないのかということだった。
確信できる情報などは全くないがそうとしか考えられない。そして俺がもしそれと同化した状況にあるのならば、脳内に名前が思い浮かぶのも納得がいく。
「珍しいって言うか...凄いですね...最古の龍とおんなじ名前だなんて...」
「はは...」
もはや、乾いた笑いしか出てこなかった。最悪にも今この場にはお通夜のような空気が流れている。考えてみれば当たり前だった。初対面の奴がすっごい名前してる。それだけで十分な破壊力だった。相手は何言えばいいのか反応に困っているのであろう。俺がその立場だったら、おんなじ状態になるって胸張って言える。
しかし、今回の謎の頭痛から俺と龍の同化説が極めて高くなった。なら、もしかすれば龍の姿も取れるのかもしれない。今度試してみよ。
「えっと、エウトロラレウスさんギルドに行くんでしたよね?」
「あっ、はい。」
「なら、そろそろ一緒に行きますか。」
「そ、そうですね。」
「…」
「…」
気まずい空気がその場を支配していた。何も言わないまま、俺とアルヌはとぼとぼとギルドへの道のりへ歩みを進めた。
この重い空気を打開すべく、俺は口を開いた。
「あの、名前長いと呼びづらいだろうし、龍とおんなじってのもあれ何で...ラレウスでいいですよ...?」
「あ、わかりました!ラレウスさんですね!」
「はい!」
「...」
「...」
誰か俺を殺してくれ。なんて下手糞なんだ俺は...。
俺の話題の展開の仕方がどうしようもなくダメだった。
返答が限られる話題を相手にすれば、話が広がら無いことなんて目に見えているだろう。
超分かりやすく言えば、「これおいしいですよ」ってそれを食べてない相手に話しかけてるのと同義だ。そんなこと言われた相手は「はい、そうですか」といった対応しかできなくなってしまう。
俺が自分の不甲斐無さに肩を竦めていると、アルヌが俺に話しかけてきた。
「ラレウスさんは、何故ギルドに?冒険者志望なんですか?」
アルヌはそういいながら俺の方へと向き直り小首を傾げた。
その姿は宛らゲームのヒロインのようだった。かわいい。
だが、先ほどから思っていたのだが...俺はこの姿になったせいか女を見ても、同姓としての可愛いとしか取れなくなってしまっていた。
だからといって男に対して、異性のカッコよさを感じるかといわれれば答えは否だった。
「ラレウスさん?」
アルヌは心配そうに、俺の顔を覗いてきた。
長考しすぎて質問への応答が遅れたことに、疑問を感じているようだった。
「もしかして...訳ありだったり...?」
「あーっと、なんていえばいいんですかね...身分証を発行しに?」
何故か疑問形になりつつ俺はギルドへ行く理由をアルヌへと告げた。
そんなアルヌは傾げていた小首を更に傾げるかのように、頭上に?マークを浮かべていた。
「...身分証?ラレウスさん身分証持ってないんですか?」
「はい...お恥ずかしながら...」
「あの...ギルドで身分証って発行できるんですか...?私そこのところよく詳しくなくて...」
「俺も詳しいわけでは無いんですけど...門の騎士のおじさんがそこに行けば身分証を発行できるって言ってたので」
俺がここまでに聞いた話をアルヌにしていくと、ゆっくりと納得していったというか...為になった!!と言った顔になっていた。
だが、再びアルヌが顔を顰め、俺に質問してきた。
「あの、ラレウスさんって...この街の外から来たんですよね?」
「...はい。」
「その時はどうやって...」
「...歩いて...?」
「.........まさか護衛もなしで一人で歩いて来たんじゃないでしょうね。」
「......」
俺は喋ってから気付いた。これはまずい。怪しまれる要素しかないと。こんな年端もいかない少女が一人で辺境の小さい村から歩いてきましたなんて言って信じるわけがなかった。
俺はこれまでにないほど焦っていた。背中に冷や汗が伝っていくのが分かる。
アルヌは静かに何かに気付いたかのように俺を問い詰め始めた。
「...ちなみに、護衛を付けるための依頼をギルドに出すときは身分証が必要なはずです。」
「...」
「…もう、隠さなくても大丈夫ですよ...私だってそこまで馬鹿じゃないです...流石に分かりますよ。」
「そう、ですね...」
ばれてしまったものは仕方がなかった。恐らく彼女は俺が人間では無いことを察知したのであろう。この際隠しても無駄だ。言ってしまおう…
そう俺が決心したのだが...その瞬間俺の耳に信じられない言葉が入ってくる。
「ずばり、冒険者に憧れ身分を隠した王族の娘さんか何かですね?」
「...はい?」
俺は耳を疑った。彼女が何言ってるのかが分からなかったのだ。
いや…え?違いますけど...?
「そう考えれば納得がいきます!!まず身分証の件は、平民を装うために必要最低限の行動です!今のご時世で身分証持ってないなんて珍しいと思いましたが、そういうことでしたら合点がいきます。次に、この街の外からは歩いてきたと言ってましたが恐らく、城の護衛が付いてきてたんですね。ですが、平民に化ける以上街の中まで来られては困るので、一人で街へ入ったということですね。プラス、こう考えるのにはほかの__」
俺が黙っているとアルヌはどうしようもなく残念な推察を述べていった。聞いていて呆れるような話だった。
俺は脳内で本当にごめんなさい。全然違います。そこら辺にいる一般人です。(絶対にいません)と復唱し続けた。
ていうか、俺の知識では王族ってなんですか。美味しいんですかって感じなんですが。
この訳の分からない状況に俺は軽い混乱状態にあった。何せ、急に自分の弱点ともいえる情報をついてきた挙句、全く関係のない方向に話を展開されれば、ついていきようがなかった。
「以上の理由から、ラレウスが王族の娘さんってことが分かるんだよ。」
「い、いえ、ちが」
「大丈夫!誰にも言わないから!」
いつの間にか砕けた感じで喋りかけてくるようになったアルヌ。そんな彼女に、今はどんな言葉も届かなかった。
「よし!そろそろギルドだよ!もうこの話はおしまいねラレウスさん。」
「いえ、あの何か勘違いを...」
俺が訂正を入れようとしても彼女は聞く耳を持たなかった。
もう彼女の中では俺=王族になりつつあるだろうと考えると、俺は溜息しか出てこなかった。
*
アルヌの案内の元、俺はギルドに来ることができた。
あの後、何度も訂正を試みたが彼女は生暖かい笑みをこちらに返してくるだけで、何も言わなかった。
どうにもバカにされている気がしてならなかった。
「ここがギルド!私も入るのは初めてなんだけど...ラレウスさんが一緒で本当に良かった!」
「は、はぁ...」
彼女はそう言いながら俺の左腕に飛びついてきた。俺はお前の彼女か、と脳内でツッコミを入れておいた。
長くここに突っ立ってるわけにもいかないので俺たちはギルドの中に足を進めるのであった。
ギルドの扉を開けると中は、酒場みたいな作りになっていた。酒の並んだ棚に、カウンター席があった。そこの前には丸い机に椅子もきれいに囲んであった。
ギルド内にいた人たちは町行く人たちより屈強な男が多く、何だか室内に汗の臭いが充満していた。
俺らの開店と同時に、男たちの視線が俺たちに集まった。
その中にいた一人の青年らしき細い男がこちらに駆け寄ってきた。
まさか、ナンパか!?そう思った俺はアルヌを背にして戦闘態勢にいつでも入れるような体制をとった。
「お嬢さんたち、どうしたんだい?こんなところに来て」
俺の予想とは裏腹に、男の声色は温かく、俺たちを驚かせないようにする気配りを感じさせた。
どうやら思い違いだったようだ。
「あ、あの身分しょ」
「冒険者登録をしに来ました!」
俺が身分証の発行をしに来たことを告げようとした瞬間、後ろから大きな声が上がった。
勿論、アルヌの声だった。
その声を聞いた男は目を真ん丸にして聞き返してきた。
「君たちが冒険者登録だって...?」
「い、いえ、おれは」
「はい!わたしたちは冒険者登録をしにきたんです!」
「...そうか」
何だか暴走気味なアルヌの声に危険を感じ俺が後ろを振り返ると、顔を真っ赤にしたアルヌがたっていた。
ダメだ、正常を保ててない...もとより正常なのかは謎だが。
男は俺たちの目を見て、最後に声を掛けた。
「冒険者というのは...大抵が命を落とすが......その覚悟があってなんだな?」
「い「はい!」」
「わかった。君たちの意思は本物だろう。」
ごめんなさい。片方は偽物だと思います。
まぁ、俺に喋らせぬといった感じの被せ方をしてくるアルヌには、もう流石の俺も諦めていた。
俺たちの確認を終えた男はもといた酒場のカウンター席へと戻っていった。
取り残された俺たちはしばらくとその場に立ち尽くしたが、我を取り戻したアルヌに連れられ、俺は冒険者カウンターへと連れていかれるのだった。
おばかキャラって書きやすい。自分がバカだから__