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ここまでしか書き溜めてなかったのでここからは本当に不定期になります。
御了承ください。
肌に冷たい感触が伝わる。それはまるで地面に寝そべってるかのようだった。
鼻孔を燻る風は、どことなく湿ったふうを感じさせる。
簡単に言えば、何やらじめじめしている場所で行き倒れているのだ。
「はっ!?」
俺は唐突に目を覚ました。
辺りを見回し安全の確認をする。
暫く周りを眺めていると此処が何やら人の手によって作られた神殿のようなものに見えた。
実際、何かいたであろう大きな台座があった。
だがなぜ自分はこんな訳の分から無い所にいるのだろうか...
そう思いその場から立ち上がろうとしたとき、自身の体から途轍もない違和感を感じた。
「...」
俺は違和感の感じる先を何も考えずに揉んだ。
ふわふわとは言えずどちらかというとハリがある感じの謎の球体が2つ胸部から生えていたのだ。
なんだこれは。とは言えなかった。
こんなもの考えなくても分かった。
そうだ、これは夢だ。
俺はそう結論付けた。
現実逃避ではない。現実性を考慮して考えたのだ。
だって、何を言おうが俺は男だし。おっぱいあるわけないし。
況して、そんな太ってるわけでもない。だから夢である。
「なんだ夢か...?」
ここでもう一つの違和感に気付く。
いや、違和感というより変化に気付いた。
先程から自分の発している声が、まるで水の入ったワイングラスを弾いたかのような透き通った声になっているのだ。
これは考えるまでもないだろう。
女になった夢だ。
もしかして俺には女体化願望があったのかもしれない。
そういった絶望的観測が自分の中を埋め尽くす。
そうだ。夢なら覚ませるじゃないか。
こんな哀しくも女になってしまった夢など早く覚めてしまおう。
そう思い立った俺は自身の頬を引っ張った。
「...いってぇ」
何故か痛みを感じた。
どういう事だろうか、最近の俺は想像力が豊かになりすぎて夢の中でも五感が働くのだろうか。
いや...そろそろ現実逃避染みたことを言うのはやめよう...
俺だって初めに気付いた。
夢ならこの地面の冷たさ、鼻に入ってくる風の湿り気、どう説明するんだ…
まるで現実じゃないかと...
だが、事実というものは時に残酷で受け入れがたい物なのだ。
「夢じゃないとなると...いったいどういうことなんだ。」
自分の声とは思えないような壮美な声は神殿内を木霊した。
一切状況がつかめていない俺に次々と不可解な問題が見つかる。
「そう言えば張り裂けるような痛みがしたわりには今は俺ピンピンしてるんだな...」
昨日か何時だったかも分から無いあの痛みを思い出しながら俺は背中に手をまわした。
ピクッ
背中にあるナニカに手が当たった。
「ンッ…」
不意に艶やかな声が出る。
何か触ってはいけないものを触ってしまった感覚だ。
触った瞬間、腰の力が一瞬で抜けた。
「...ハァ...な、なんだこれは」
触るのは流石にヤバそうと本能的に察知した俺は首を後ろへと出来る限り向けた。
そこには、龍の羽のようなものが生えていた。
俺が気を失う前に見た龍の羽にそっくりだと言えないこともなかった。
もしかして俺は人間やめてしまったのかもしれない。
いや、人間以前に男をやめてしまっている気がする。心は男そのものなんだが。
何とも言えない劣悪感がその場を包み込む。
限りなく諦めに近い感情で首を前に向ける途中に尻から尻尾らしきものも生えていることに気付いた。
あぁ、これ絶対人間やめてるわ。
確信できた。否、確信しない要素がなかった。
幸いにも俺はこの状況に限りなく酷似した状況を知っていた。
前世というべきだろうか、男だった時というべきだろうか...その時に読んだ小説か何かにこのような状況があった気がするのだ。
まぁ、俺が呼んだ小説の主人公自体は人間だったはずだが...
まず、俺が生きてきた世界では龍など空想上の生物だった。
ならば今の俺は?どうなる?
この発想から至るに俺はある一つの説に辿り着いたのだ。
ここは異世界かもしれない。
まだ確信は持てない。なにしろ空想とは言えどその形を人間が残していることに違いはない。
なら存在していた可能性も捨てきれないのだ。
ならば、ここはまだ異世界などではなく地球かもしれない。
「あぁ...めんどくせー!」
徐々に考えるのがめんどくさくなり荒げた声を出し、頭を引っ掻き回した。
その瞬間、俺の黒い髪が抜け去っていった。
パラパラとまるでご飯にかける刻みのりを連想させるかの如く俺の頭部から黒い髪が別れを告げていった。
「うああああああああああああああ!?ちょちょちょ!!!」
俺は焦った。まさかこんな目にあったうえで禿げるだなんて想像できなかったからだ。
髪を掻いたら抜けました。なんて笑い事じゃない。死活問題だ。
何故抜けたのか、そんなの考えなくても分かる...ストレスだろう。
余りの痛み、あまりの場の変わりように精神的についていけてなかったのだと思う。
あぁ、俺の髪達よ...安らかに子に神殿で眠り給え...神だけに...
ってうるせーよ!自虐か!
心の中で自分の髪に追悼していると自分の目の前に白い何かが映った。
それはまるで自分の髪のようだった。
「え、もしかしてストレスで...白髪が生えた…?この一瞬で?」
急に冷静になった俺は右手で頭に指を突っ込んだ。
今生えたのかは分から無いが、そこにはさらさらとした綺麗な髪が存在していた。
よく見ると白ではなく白銀っぽかった。
何が違うかって聞かれるとあまり分から無いが、一概に白とは言えないそんな色だった。
「...もうわけわかんねぇ!」
そんな悲痛な叫びが神殿内を木霊した。
*
状況の整理も兼ねて再び俺は自分に視線を移した。
自分の腕は日焼けの色を全く感じさせないような薄い桃色。
手は男の頃に比べ一回り小さい。(気がする)
身長自体も元は170あったが今では155あるかないかくらいだ。
そして一番不思議なのは来ていた服が変わっていたことだ。
体の変化に驚き過ぎて、服なんて見ていなかったが何故か今の俺は白いワンピースに身を包んでいる。
因みにノーパンノーブラ。
不思議で仕方ないな。服はあるのに下着はないと。なんて不親切なのか。
実際少しの時間を置けば、今自分がどういう状況にあるのか理解できた。
恐らくだが、何か事故の時に何かの働きが作用してここに俺が飛ばされてきたんだと思う。
その時居た何かの龍が何かしらの力により俺と合わさってしまったというか、新たな存在を生み出してしまったのだと...
自分で言ってても何が何だか分から無い。不確定要素が多すぎるのだ。
だが、落ち着いた俺が一番に考えたことがあった。
「めっちゃお腹減った。」
今気づけば、気絶してから何日たったか分からないこの状況で腹が減らないのがおかしかった。
意識した瞬間耐えきれないほどの空腹感が俺に押し寄せてきた。
「...これは神殿から出て食糧を探しつつ、今ある謎を解明していくしかなさそうだな...」
そう確信した俺は、新しくなった所為か匂いに敏感な鼻を用いて外を目指すのだった。
順応早い系主人公って書き手は助かるけど読み手には途轍もない違和感を与えるときがある。(きがする)