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初作となっております。
見切り発車であり、趣味全開のモノとなっておりますが暇つぶし程度にご覧ください。
ここはどこだろう。俺は誰だろう。
そんな記憶障害にでもあったかのような言葉を自分に投げかけていた。
...何故か意識が朦朧としていて余り深く考えることができない。
何があったのだろうか。何が起こったのだろうか。
少しずつ少しずつ自分に問いかけを続けていると次第に脳が覚醒してくるのが分かった。
あぁ、俺はさっき事故にあったなぁ...
その時の記憶が鮮明に頭を過る。
夏の熱い昼頃、蝉が街を覆い隠すかのように鳴り響く。
道路の上には暑さを象徴とする陽炎たるものも見ることができた。
その日の俺は学校の補習を終えて自宅へ帰るところだった。
本当に何気なくいつも通りであり、ただ真っ直ぐと家へと向かっていたんだ。
その時、俺はいつもと違う事態と遭遇した...
通り魔だった。
刃渡り20㎝くらいであろう刃物を片手に走っていた。
その通り魔は俺を見ると直ぐに駆け寄り、刃物を振りかぶった。
あぁ...俺は死ぬんだなぁ...その程度なのかといわれそうなほど簡単にもその事実を受け入れていた。
人間は死に際に走馬燈を見るという...だが俺はそのような光景を見ることはなかった。
相手の刃物が右の脇腹辺りを抉った。
声にならない痛みが俺の脳みそに警告を出す。
にげろ と。逃げなければいけないと。幸い致命傷ではなかったのだ。逃げれると思ったのだ...
多分野生の本能みたいなものだろう。自分より強い者には逆らうなといった弱肉強食の本能が...
そんな本能に忠実な俺は必死にも逃げようと相手に背中を向けてしまったのだった。
勿論失敗だった。右の腹を刃物で抉られている時点で敗北は確定していたに等しい。
何せもう距離は詰められていたのだから...
その状態から背中を向けるなんて行為は滑稽すぎて話にもならないだろう。
そして俺は背中を刺された。
痛い...なんて思いたいが実際この頃には考えるほど余裕はなかったんだと思う。
相手の刃物がそのまま上に持ち上げられた瞬間...俺の目の前は真っ白になった。
こうして記憶が鮮明になったところで疑問が残った。
今こうして考えている俺自身は一体何なんだろう。誰なんだと...
そう意識をした瞬間背中と脇腹に激痛が走った。
「っ!?」
まるでそこだけ刃物に抉られ空気に曝されているかのような感覚だった。否、曝されているのだ。
俺はあまりの痛みに再び意識を落しかけた。
だがここで確信できることがあった。そう...
俺はまだ生きている。
自分の生存を確信した瞬間、先ほどまでの達観していた精神は途方へと消え去り、生きたいという生存欲が徐に増大を始めた。
だが、不幸なことに傷は残ったままであり周りの救いなどなかった。
死にたくない…まだ生きたい…
そんな感情が俺の中をぐるぐると回っている。
ここで一つの違和感に気付く。
俺は刺された。間違いなく通り魔にだ。
ならば、近隣の住民又は通行人が通報基救急車を呼ぶのではなかろうか。
だがいくら耳を澄ましても声が聞こえない。
聞こえるのは荒い自分の呼吸音だけだった。
明らかに異常なこの場に俺は震撼した。
状況の整理ができなかった。
第一に俺が過ごしてきた町はそこそこ都会であり、人も多かったのだ。
更に帰りに通っていた道が人通りが少ないかというとそうではなかったのだ。
なら何故。余計に謎は深まるばかりだった。
考えれば考えるたびに深まっていく疑問が彼を焦らせていた。
(くっそ...どういうことなんだ...)
その時、大きな衝撃が彼を襲った。
それは、まるで自分が地面にたたきつけられたかのようなものだった。
「っ...!!」
捨てられたかのように乱雑に伝わった衝撃に物怖じしながらも彼は動こうとした。
だがその時...彼の耳にとんでもない音が伝わるのであった。
それはまるでこの世のものとは思えないような大きな呼吸音だった。
重低音が聞き、まるで洞窟の中のような響き方だった。
そんな音に怯え、俺は恐る恐る目を開けた。
そこには大きな龍がいた。いや大きいどころではない。この世の生物とは思えない大きさだった。
その龍は慈悲深き眼差しでこちらを見ていた。
まるで自分の子を見るかの如く...
俺はそんな眼光に射貫かれ簡単にも意識を手放してしまったのだった...
*
自分が意識を手放したであろうその時からいくら経っただろうか。
ふと意識が覚醒したのだった。
この時の覚醒の理由は考えなくても分かった。
激痛だ。
「グッアアアアアァアアアアアアアアアア...ッハ!!」
全身が軋むように痛かった。
通り魔に刺された時の傷なんて足元にも及ばない痛みだった。
何せ骨格そのものが弄られているような感覚だった。
俺の背中から有り得ない音が響いている。
何かが俺の中から這い出ようとしているそんな感覚だ。
刹那、俺の耳に聞こえてはいけない音が入る。
ミチミチッ
「アァぁ”!グォァオア!」
背中が割けた。
言葉にならない咆哮が響き渡った。
咆哮が反響を重ねて、まるで龍の鳴き声に感じた。
自分の身を案じる暇さえも感じられないほど精神が老朽化していた。
「痛いィイイ!」
だがそれだけでは収まらなかった。
次だと言わんばかりに下半部からまた同じような音が響き渡った。
ブチッミチチ
「~ッ!!」
俺は歯を噛みしめ乍ら声を殺した。
自分が自分じゃない何かへと創り変えられている気がしてならなかった。
その後も俺は長い間目も開けられず痛みに只々のたうち回っていた。
だが次の瞬間、急に痛みが引いた。
終わった...?と内心安堵した。
この時、俺は自身になぜこのような痛みが走ったのかよりその痛みが消えることの方に意識が向いていた。
迫りくる痛みからの解放に穴だらけになった精神は回復の兆しを見せた。
そして待っていたと言わんばかりに頭が割れるような痛みに合い、俺はまたも簡単に意識を手放した。
この日、ユイトラールから世界最恐の龍エウトロラレウスが姿を消した。
重要用語
舞台→ユイトラール(異世界の名前)
古神龍の名前→エウトロラレウス