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異世界Baby  作者: 本屋
99/112

99、クリスティアンの同情


 今頃、楓も大泣きしているかも知れない。目の前の南神の竜族の長と同じ様に。まさかレクナハルバートを譲り受ける東神の竜族との一連の出来事を話して、クリスティアンが泣き出すとは思わなかった。それも人目を憚らないガン泣きである。ついでに抱きしめられて背中をポンポンされている。よくわからない。


「それは辛かったのう。安心して泣くがよい」

「いや泣きませんけど」

「なぜじゃ、辛い目にあったのじゃろう?」

「もう乗り越えましたから………」

「偉いのう~よしよし」


 頭をなでなでされた。子供扱いである。古竜からすれば人の一生など一瞬なのだろうから子供扱いも仕方がないかも知れない。

 そんなよしよししていたクリスティアンの目つきが鋭くなる。


「邪推な連中が現れたのう」


 クリスティアンの目線が僕の背後に向けられている。今まで僕に向けられていた優しい表情が一変して瞳孔が鋭い。ツリ目がちなこともあって迫力があった。振り向くと白の外套を纏った者と白の鎧を着た武器を携帯する者が数人現れる。上空からは見つけられなかったが狂信者達の根城が近くにあったようだ。あちら側からアクションを起こしてくれるならば探す手間も省けるというものだ。僕と同じような<危機察知>や探知系の能力者がいるならば、深い森の真ん中に急に現れて動かないでいる僕達は怪しいどころではない。

 武器を携帯する者達は、楓を攫った連中の中にいた戦闘能力特化の信徒と似た出で立ちで、明らかに成人を迎えていない子供の姿も数人見えた。レティーシャと呼ばれた大剣使いの女の子を思い出す。子供の姿が多いのも<鑑定能力>で、有能な能力を持つ幼い子供を集めていることを示唆している気がする。バーナデットと似た背丈の子供を戦闘に駆り出している時点で、全く気に入らない連中だった。取り囲んできた白い集団は見えている相手だけでも二十人以上はいる。


「そこそこのレベルとはいえ、これだけの能力者を集めているのはお主達種族の(ごう)のなせる技かのう?」


 クリスティアンが見せるプレッシャーは容赦なく狂信者たちに向けられているのに、狂信者たちは取り囲む輪を小さくして、にじり寄ってくる行動をしてきた。余程の自信か、こちらの戦闘力を甘く見ているか、下された命令を遂行する選択肢しか持ち合わせていないのか色々な思惑を想像するが、年端の付かない子供がいる時点で穏便に事を済ませたかった。


「クリスティアン様、面倒な能力者はおりますか?特殊で面倒な搦め手を使いそうな能力者です」

「いやおらんな。武器能力と魔法の能力者ばかりじゃな」

「クリスティアン様、出来れば子供達は無傷で収めて頂きたいのですが?」

「何じゃ、こやつらとも訳ありか?仕方のない。これも何かの縁じゃな、聞き受けたぞ。お主は漏れた者を排除せよ」


『平伏せ』


 凶悪な強制力がクリスティアンの周辺を支配する。「平伏せ」という言葉通りの意味ではなく、意識を刈り取るような力を感じた。バタバタと殆どの狂信者が気を失って倒れていく。四人ほど地面に這いつくばりながらも、懸命に立ち上がろうとクリスティアンの強制力に抵抗して歯をくいしばる表情を見せていた。この強制力の支配された空間で、僕に残りの後始末を促してくるのは買い被りすぎではないかと思うが、動けるのは確かなので行動に移す。クリスティアンの強制力に意識を刈とられなかった四人はおっさんだったので遠慮なく殴り飛ばして、抵抗の留めを刺した。無抵抗の人間を殴り飛ばすのは抵抗があるかと思ったがそんな事はなかった。やはりおっさんだったからだろうか。狂信者だと頭の中で分別しているからだと思いたい。


「クリスティアン様、助かりました」

「何を言う。脆弱な種族の身で神の末席まで至ったお主なら、一人でもどうとでもなるレベルであろう?」

「スマートに素早く対応できたのは、クリスティアン様のお陰です」


 神語が理解できるものは僕を神の末席と判断する。僕の額の前に浮かぶ紋様は、それを意味するものを理解できる者には身分を証明するものになっていて、僕にとっては煩わしいものだった。


「お主、辛い身の上を経験した上でその懇篤な態度は中々のものぞ。それで何やつじゃ、こやつらは?何遠慮なく言えば良い。次第によって妾が手助けしてやろう」


 神妙な顔つきで協力を申し出て来る。これ以上ない戦闘力だが、どうするかと一瞬考えた。大きな借りを生むことになる。


「何じゃ、お主に同情してでの行為じゃ、子供は素直さが一番じゃぞ?」

「後でレクナハルバートを要求したりしません?」

「何じゃそんな心配か、レクナハルバートを持つだけの理由があるのなら、子供から奪うほど妾は大人げなくないぞ」


 ならば良いのかと、自分でも現金な奴だと思わなくもないが、同情で手助けしてくれるのなら見返りを求めているわけでもなさそうだ。


「こいつらは僕や僕の大事な人達の生活を脅かす危険な連中です」

「ふむ、久しくお主ら種族とは関わって来なかったが、お主にとって悪という奴か、良いぞ妾が懲らしめてやろう」


 早計は禁物だが強い味方が出来た。僕以上に強い古竜が仲間とか楽勝ではないかと思ったが、いつも予定通りにいった試しがないので、逆に嫌な予感が生まれる。


「こやつらと同じ匂いは、あちらの方角じゃな。さて行くとしよう」

「待ってください。敵とは言っても子供や女性をこのまま放置しておくのは、魔物や動物に襲われませんか?」

「匂いに敏感な魔物や動物が、妾の匂いが残る場所に近づくことはない」

「クリスティアン様の匂いに気付かなかったり、知能の低い虫などがいる可能性は?」

「そういった種もあるにはあるが、ここいらでは見かけぬぞ。そんなに心配なら、お主の言う女子供を一ヶ所に集めい」


 僕は急いで意識を失っている女子供だけを集める。女性が三人、子供が四人だった。クリスティアンは僕が集め終わったのを確認すると指先で四角い図形を描く。指の後に淡い光の軌跡が残り立体の六面体が出来上がった。それが大きく広がり集めた女子供七人を囲む。魔力の結界のようだ。


「これで安心じゃろ?行くぞ」

「ありがとうございます」


 かなり便利なクリスティアン。歩きながらクリスティアンが時折デコピンの素振りをすると、草むらや木から信徒が落ちて来た。古竜の万能さに僕はついて行くだけみたいになっている。時折子供や女性がいたので、クリスティアンの見様見真似で魔法を行使する。


 【 牢獄ろうごく


 土がせり上がり格子状の牢獄が出来上がる。


「お主器用じゃの~もしかしてクリエイト持ちか」

「そうみたいです。最近教えられました」


 クリスティアンに感心されながら歩いていると進む先に洞窟の入り口がぽっかりと開いていた。クリスティアンは立ち止まることなく洞窟に進入する。


「しかし能力を神の意図せぬ形で悪用すると、神罰が降るぞ?それを恐れぬのは、種族としてどうなのじゃ?」

「神罰ですか?それはどのような神罰となるんですか?」

「知らぬのか。だからこそ今の行為に出ているのか。単純な話よ神に嫌われれば能力が使えなくなる。能力は神が与えたものじゃ。奪うのも当然同じ神じゃぞ」

「あー前に、属性を重ねたり混ぜたりすることで、属性の神に嫌われて発動されなくなるようなこと聞きました。あれの更に重たい罰ということですか」

「属性を混ぜたのか?お主は神の恩恵に仇なす無茶苦茶なことしておるな。まあ、神の末席ともなれば許されるのかも知れぬが、それだけでは無いぞ?あまり酷いと種族全体として能力を授からなくなってしまう。強大な力を発揮する能力は悪用されることが多い分、得ることも稀になっていくのは、そういった背景がある。お主達種族はそういった歴史を繰り返して来ておるのに気付いておらぬのか」

「それは一大事ですね。能力に依存した生活をする種族から、その能力が消えてしまっては種として存続の危機になりかねません」


 言葉ではそう返したが、僕は初期選択で能力を手に入れた。クリスティアンの神ありきの考え方とは真実がズレている気がする。神ありきで、選択肢の数と中身が影響しているという解釈なら納得だが、何か腑に落ちない。クリスティアン自身も初期設定の存在を知らないのか。人族の能力は神から愛され授かるものという考え方は同じなのかも知れない。

 帰りに王都に寄ってトライセルに伝えた方が良い案件だ。過激派の狂信者どもは人族の未来を危険な立場にする原因になりかねないのだ。他の神を崇める組織や宗家にも過激な思想を抑制させる理由を王族から発信すれば説得力も高いはずだ。


 ずっと下り坂だった洞窟を抜けると渓谷の底に着いたようで、少し歩くと谷間の窪みに神殿が現れた。上空からは見つけられないわけである。入口のトップにあるレリーフは微笑むダンジョンの神だ。クリスティアンは躊躇する事なく神殿に入っていく。襲って来る信徒は全てクリスティアンが意識を刈り取ってしまう。僕はやる事がない。こんな楽で良いのだろうかと逆に不安になる。神殿に入っ頃から魔具(まぐ)が目立つようになった。信徒が使用する前にクリスティアンが無力化してしまうので、どんな力を持つ魔具なのか分からないが、放置することで後にまた使われては厄介なので回収して行く。どうせロクでもない力を秘めた魔具だと思われるので、後で纏めて除去してしまおう。売れば高額で取引されそうだが、巡り巡って僕に使われかねないし、それでは強盗に押入っているのと変わらない気がする。

 大きな礼拝堂を抜けて、更に奥まで進むと小さな礼拝堂に出た。祭壇が設けられており、祭壇の前に位の高そうな外装や装飾を身に纏う男女四人が立っていた。男性は老人と中年で女性は二人とも若い。


「何者だ?鑑定で見えぬ上位者が二人、何用だ?」


 中年の信徒が<鑑定能力>の持ち主であるのはわかった。白髪なのもガルドーの言っていた他の能力に見放される<鑑定能力>者の定めと一致する。僕は会話の意思表示をする為に前に出た。クリスティアンは僕の行動を理解して一歩下がる。


「一つだけ聞く答えろ。お前達は<鑑定能力>を使い能力者の子供を攫い集めているか?」

「成る程、我がダンジョンの神の信徒となった子の関係者か。勘違いして貰っては困る我らは子供らを攫ったのではない。その能力を見出し世界に貢献できる場を与えているのだ」

「お前達の言う世界とは、自分の都合の良い事だけを詰め込んだ閉ざされた世界だろう?」

「そんな事ないですわ。私達は眠っている能力を見つけ出して本人に知らせ、力を伸ばす場を与えるダンジョンの神から与えられた崇高な責務なのです」

「その為には意思にそぐわぬ者を排除するのもいとわないと言うのだろう?」

「恨み辛みの者か?その髪色と年齢<鑑定能力>を阻害される者、そなた魔王マジクか?テルドは失敗したということか」

「もういい、お前達が僕の敵だということは、よく分かったよ。遥々(はるばる)お前達を潰しに来たんだ歓迎してくれると嬉しいな」


 僕が不敵な笑みを浮かべると、四人の信徒達も構えて行動を移す。





次話 「噂の悪役ヒーロー」

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