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異世界Baby  作者: 本屋
98/112

98、レクナハルバートの惹きつける魅力


「オレもついて行くぞ!?借りを返す!」

「その姿で借りを返せるんですか?」

「好敵手が借りを返すのを見届ける!」

「マジク様!メイも行くですよ!悪しき信徒はダンジョンの神の側いるのに相応ふさわしく有りません!懲らしめるのです!」

「そうだね。懲らしめるのに時間が欲しいから港町での宿泊はなしにしようか」


 僕は乾いた目で優雨美とメイとバーナデットを見た。三人とも落ち着きがないというか、何かを誤魔化そうと目が泳いでいる。三人で顔を合わせて相談事を始めた。何か決まったのか三人で頷きあっている。


「マジク?ダメなのよ?きちんと休養をするのも大事なのよ?」

「えーっと!戦いの前に腹拵えをしないと力が出ないのです!」

「そーだ!腹拵えは大事だぞ!」

「セインズビーは海の幸が豊富だと聞きました!」

「奇遇だな!折角だから海の幸で力を付けよう!」

「………」


 やっぱり食い気だった。どうしても抑えきれずに欲望が漏れ出てしまう二人がいる。話の始まりに僕がセインズビー行きを告げるとメイが目をキラキラさせて「お魚大好きです!」とよだれを垂らしたのを忘れはしない。あの時、僕の視線に気付いたメイは体裁を繕いながら優雨美に耳打ちで誘惑して仲間に引き込んだようで、優雨美までついて来る気満々になった。優雨美はしばらくの間体の力を戻すのに試練部屋を閉ざして休養するそうだ。そんな状況でチビ優雨美が砦に居ても良いのかと思わないでもないが、チビ優雨美の方は今までと変わらず平常運転なので心配する気持ちが薄れて来ている。

 メイも可哀想な話だが抑制された神殿での生活の中で、話に聞こえて来る王国内の浮世の出来事や文化に興味と思いを募らせていたようだ。はしゃぐ気持ちを抑えさせるのも良くないのかも知れない。子供は素直が一番で遠慮するのは似合わない。僕の器量がそこで測られると思うと無理したくなるのが心情というものだ。この間のバーナデットとメイのことと優雨美ことも合わせて、英気を養わせる意味でも連れて行って望みを叶えてやりたい気持はあるのだが部屋の片隅で、じとーっと僕を見る目の意味が分かりやすい母がいて、とてもやりにくい。時折アキちゃん耳元に何かを吹き込んでいる。確実に僕の愚痴をアキちゃんに言い聞かせているに違いない。お兄ちゃんを(さげし)む目線で見続ける妹になったらどうしてくれるんだ。

 いつもニコニコで微笑んでくれるアキちゃんと不自由なく母と慎ましくも生活をしていける礎を築くために、いま頑張っている僕の苦労をわかって欲しいと、ため息が漏れてしまう。

 カウタには襲撃などに警戒するように言い渡してはあるが、僕を庇うためとはいえ優雨美に大ダメージを与えた魔具の存在や特殊な能力者のことを考えるとカウタでも護衛は絶対ではなくなった。不安が有るからこそケリを付けるためにこちらから動いて敵を殲滅しようとしているのだが、その敵地に守りたい家族を連れて行くというのも行動としては支離滅裂な気がして来ている。

 相手は人数も分からなければ能力も分からなく、手段も選ばないような奴らだ。何かをされる前に、こちら手段を講じる必要があるようだ。


「マジク様!メイは決してお魚さんが目当ての邪な気持ちでは有りません!本当なのです!」


 メイは僕が別のことに思案を移していると分が悪いと不安に思ったのか一生懸命に言い繕って来るが、メイは話せば話すほど墓穴を掘る嘘の付けないタイプだ。


「あー!もう面倒なのだ!美味しい魚を食わせろなのだ!」


 優雨美の脳筋らしい率直な物言いだ。ガキンチョ達の期待する六つの目が見上げて来る。


「ガルドーさん………」

「今回は仕方なかろうな、ワシも借りがあるのだがお前さんに任せるかのう」


 ガルドーの了承も得たので、前回の埋め合わせも含めて今回は皆んなの笑顔を買うことにする。


「よし!皆んなで旅行に行こうか!」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 王都までの五日間の行程はゆっくりしたものだったのも考慮して大体移動距離にして三百キロぐらいだったと考えている。ガルドーから聞いた狂信者の本拠地は、王都から南に約四十キロの深い森の中だそうだ。砦からの直線距離だと三百二十キロぐらいだと推算する。ただ初めての場所という事もあって王都経由で飛んで行くしかなかった。扇鷲の遠目で右手に街道を見続けて飛ぶこと半日過ぎた所で、王城が見えて来たので左に旋回する。<スクリーンショット>の地図フォルダに納められたガルドーの手書き地図を表示させながら目印となる川を探す。地図通りの大きな川が分岐した近くの町を見つけると、更にその南東の渓谷にあるという狂信者達の根城を探す為に大きく旋回した。渓谷は直ぐにも見つかったが根城と思われるものは見つからない。何度も同じ所を飛んでも見つからないので、情報が間違っていたか、根城を移したかと考えていた時、南から凶悪なプレッシャーを浴びせられた。けたたましい<危機察知3>の音を聞いて振り向いた時には既に目の前に巨体が浮かんでいた。漆黒の竜。四枚の翼と額には枝分かれした角がある。東神の竜族の長と同じ風格の古竜。


『降りよ』


 強制力を感じる言葉だった。直接心に刻み込んで来るような言葉に、(あがら)うことも出来たが、素直に降りることにする。落下するように急降下すると地面近くでマジクに変身して着地した。茂みの中から白いパーティードレスのような服を着た女性が現れる。黒い艶のある髪が地面につきそうなほど長く、つり目がちで相変わらず感じる凶悪なプレッシャーは、彼女が漆黒の竜であったのを物語っていた。


『粗末なものを見せるでない。服を着よ』


 言われるがままに服を着る。決して竜族から目を逸らさずに油断はしない。感じられる力の差は歴然だった。目をそらした所で襲われれば、気付く間もないまま命を刈り取られてもおかしくない。


「人の身でありながら剣神か。おかしなものよ。なのに他は見えぬ。神に施されたものか。それなのに剣神の紋様が阻害されておらぬのは、阻害を施した神と剣神の名を与えた神が違うからか。二つの神に施術された人が居ろうとは、長生きはするものよのう」


 人化した古竜らしき人物が僕を見て自問自答をしながら一人で納得しているので、その間に発せられた言葉から情報を汲み取る。まずはダンジョンの神が与えてくれた阻害は、圧倒的な存在感を放つ目の前の人物でも有効であるらしい。だが剣の神が押し付けていった剣神の紋様は、ダンジョンの神でも阻害出来ていないようで、見える人には見えるという事実。これはメイに確認して貰っておけば、前もって知ることが出来たと自分の身に起きていることなのに見逃していた緊張感のなさに自分自身で呆れた。そして聞きづてならない言葉が一つ。「施術」という言葉が<自動翻訳>の誤作動あることを祈る。そのままの意味なら僕は知らぬ間に神に阻害措置や剣神の紋様のを手術されたことになる。阻害自体は有難いことだったが、剣神の紋様に関しては勝手に人の体に何しくれてるのという感じだ。余計なことをしてくれた上に、体をいじくり回されていたのなら怒るべき事案である。二度と会いたくない相手だけに、この怒りをどこにぶつけて良いのか、憤りが募っていく。


「なんだ?怒っておるのか。別にお主をどうこうするつもりはないが、剣神の名を貰うほどの者じゃし出来れば戦いたくないのぅ。強そうには見えぬが、妾もまだ死ぬには早いしのう」

「あー済みません。決して貴方様に対して怒りをを感じた訳ではないです」


 慌てて火種の誤解を解いておく。


「そうなのか?しかし妾の関係で怒りを感じたのではないのか?」

「貴方様の言動から僕の身に起きていることを知って、起因した人物に対して怒りを感じたのです」

「ほう~どこの誰じゃその人物とやらは、何じゃその顔は言いたくないような相手か?逆に気になるではないか。言うが良い」


 顔に出たのが直ぐにもバレた。言いたくはないが、強制的な物言いだった。


「………剣神に対してです」

「なんとお主は、剣神に剣神の名を頂戴いたのではないのか?」

「欲しくなかったものを押し付けられてしまったのです」

「お主は、念願叶って神に邂逅したのではないと言うのか?何と罰当たり者じゃな」

「そこのところも色々と有りまして、出来れば神様とは会いたくなかったですね」

「………お主は、かわっておるのう?会いたくても会えないのが神じゃぞ。これ程、神に依存しておる種族が、そんなこと言うとは長生きはするものよのう。お主面白いな」


 巨悪なプレッシャーが消えて、笑って見せてきた。少し変わり者の竜族のようだ。


「それで話は戻るが阻害されて見えぬのじゃ。お主の名を知りたいのう」


 名乗りたくないという気持ちが湧き上がってくる。


「顔に出ておるぞ?嫌そうにするとは、そうじゃな妾が名乗るのが礼儀か。今まで聞かぬとも見えたからのう忘れておったわ。許せ。ただお主に名乗っても聞き取れぬし発音出来ぬじゃろうから、南神の竜族の長と呼ぶことを許そうぞ」


 竜族で古竜だと思っていた時から、可能性は感じていたが目の前の古竜は南神の竜族の長だった。


「マジクと申します。南神の竜族の長様」

「妾が南神の竜族の長と知ってもその態度か。やはり東神の竜族の長のやつに会ったことがあるのじゃな」

「はい、ジュネヴィーヴ様には、色々とお世話になりました」

「ほう!これは驚いた。あの者の名を発音出来るのか。マジクよ。ならば妾も名乗ろう。クリスティアンじゃ」


 また変なのと面識を持ってしまった。<自動翻訳>が余計な仕事をした。本当に助かっている能力なのだが、本来は人の身では言葉が通じない相手の筈なのに、それと知らずに会話をしてしまい驚かれる事だけは、いつものことながら悩みの種である。この世界での上位の種族であればあるほど、その驚きは、直接僕への興味に変わってしまう特典付きだ。


「本来は別の要件でお主の前に姿を晒したが、今は納得が出来るのう」

「何のことでしょうか?」

「マジクのそれが見えたのでな。居ても立っても居られなかったのじゃ」


 クリスティアンが僕の腕を指差す。そこにはジュネヴィーヴから頂いたレクナハルバートの腕輪形態があった。


「レクナハルバートが見えたのでな。妾が何度も欲しいと言っても譲らなかったジュネヴィーヴの拵えた傑作じゃ」


 扇鷲で飛んでいると、足に移動した腕輪は目立ったかも知れない。しかしながら、いつも助けられている相棒のレクナハルバートが、南神の竜族の長を引きつけるとは思いもしなかった。


「妾が欲しくて欲しくて堪らなかった代物じゃ。あの頑固者が譲ろうと思った経緯を聞く権利が妾にはあると思うがのう?」





次話  「クリスティアンの同情」

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