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異世界Baby  作者: 本屋
93/112

93、砦の前の対決


 ラヴィニアの言語学習は全く進んでいないが、察しが良いので手振りのジェスチャーで簡単な手伝いから少しずつ始めている。手伝いから受け取れるこの世界の情報も多いようで、これもラヴィニアの能力の高さを示しているのかも知れない。


「あれ。どうするのよ?」


 ラヴィニアが僕をかまってるふりをしながら小声で聞いて来た。翌日もロゼッタがバーナデットを伴って訪問しに来ている。マジクの子供を作りに来たと言うロゼッタは、レクスタ家の令嬢として<剣術能力9>の血をレクスタ家に入れるために使わされた九歳の女の子だ。そもそもロゼッタは子供を作るということが分かっていない。将来を見越してレクスタ家直系の年頃の女の子を押し付けて来たのではないかと、ライオネスを介したピークトリクトの判断だった。ロゼッタはピークトリクトに来るのにレクスタ家の代表として先日失敗に終わったダンジョン代行にかかった費用をわざわざ届けに来たのだが、初めからそれを口実に僕の元に押しかける算段だったようだ。

 八歳のバーナデットに見た目八歳くらいの優雨美がいて、十歳の割には背丈はバーナデットと一緒のメイと同じ背丈で九歳のロゼッタの四人が僕の作った双六で遊んでいる。


「マイリオリーヌ様。暫くの間で構いませんのでロゼッタお嬢様と私をこちらに住まわせて頂きたいのです。支度金と生活費など滞在費全ては、十分にお支払い致しますのでどうでしょう?」


 ユウキでいることで口を出すことが出来ないのが歯がゆい。滞在を許可されてしまうと、逃げ回っている限り砦の中でマジクとしての活動がほぼ出来なくなる。畑の世話や母の手伝いなどマジクとしての砦での活動が出来ないのは我が家といては大打撃になるので勘弁して欲しかった。


「どうかなぁ~マジクちゃんに聞いてみないとね~でももう部屋がないかなぁ~」

「この砦はピークトリクトの街から少し離れていますので街に屋敷を用意しても、通うことを考えますと時間の浪費が馬鹿になりませんので」


 言いたいことはわかるが、そっちの都合を押し付けられても知らんがな。


「あれ?部屋空いていたわよね?」

「きぞくのおじょうさまにみあうへやはないでちゅ」


 ラヴィニアが耳元に抱いてくれているので内緒話もしやすい。


「頼りなさそうに見えるけど意外としっかりしてるのね」

「ぼくも、このたいおうはおどろいてまちゅ」


 母は部屋の隅っこの定位置で編み物をしている。これから寒い時期になるので僕たちに手袋を作ると意気込んでいた。いま編んでいるのはピンクの毛糸を使っているのでアキちゃんのものだとわかる。きっと次は青で僕のを作るはずだ。母は僕たちにお揃いの物を作るときの順番を決めている。アキちゃん、僕、楓の順だ。たまに女の子用のアイテムを作った時だけ、アキちゃん、楓、僕の順になる。女の子用なので僕のを作る気が初めはなくても結局は僕の分も作ってしまうのが母だった。


「愛されているわね」


 ラヴィニアが少し寂しそうな顔をした。今の環境に放り込まれる前のラヴィニアは家族と平和に暮らしていたらしい。優しい両親がいて悪戯が好きな弟がいた四人家族だったという。ラヴィニアは自分が本当に大罪を犯して神に幽閉されたのなら、残された家族にどれだけ迷惑をかけたのか分からないと、自分の置かれた状況よりも家族のことを一番に心配している。本当に千二百年が過ぎているなら既に過去の話になるのだが、簡単に割り切れない気持ちはわからなくもない。自分のせいで家族にまで罪が及んでいたらと思うと、やるせない気持ちで一杯なのだろう。ラヴィニアには王国の歴史を調べれば千二百前に何が起きたのか分かるかもしれないとは伝えてある。ピークトリクトに残る資料では八百年前の物が最古の物だった。それより古い物は王都の学院か王城の書庫に保管されているものとなるそうだ。僕からの口利きでトライセルの力を使って王城の書庫や学院を調べられる可能性はある。だが僕ありきの行動で、更にラヴィニアが自分で調べるにしても言語の壁は思った以上に高い。


「慰めてくれるの?でも慰めてくれる時間があるなら勉強の時間を割いて」

「それはきょうりょくしまちゅが、いまはむりでちゅ」

「やっぱり、あの子邪魔ね」

「てあらなまねはだめでちゅよ?」

「わかってるわよ」


 ラヴィニアの管理者として僕に与えられている権限は少ない。楓の契約者としての僕には楓の能力を設定出来る大きな権限が与えられているがラヴィニアにはそれがない。ラヴィニアが管理者であるマジクに攻撃を与えると自らにもダメージが与えられることくらいだ。これだけがラヴィニアに対する全ての権限とは言えないが、管理者として僕にラヴィニアの能力を選択出来ていたら、ラヴィニアにとって役に立つ能力を選ぶことが出来たとは思っていた。僕の身が軽ければラヴィニアの手助けに全力で取り組めたのだが、母と妹を残しての究明の旅は今の僕には出来ない。せめて二、三年経てば、僕達赤ん坊陣が成長して移動と行動の制限に少しは融通がきくようになるはずなのだが、そこまで待たせて彼女を拘束することは僕には出来ないと思う。僕に絶対的な管理者としての権利があったとしてもだ。


「最後のところ意地悪ですわ。何度も戻されるなんて作った方の性悪さが出てると思いませんか ?」

「確かにマジクは意地悪な所あるのよ?」

「あいつは、わざとお菓子を忘れて来る!性悪だ!」

「マジク様は出会っときから意地悪で嘘つきでした!」


 どうも四人は僕の悪口で盛り上がっているようだ。メイに関しては意地の悪い扱いをしている自覚があるが、バーナデットにまで意地悪と言われるのはショックだった。


「あなた日頃の行いよっぽど悪いのね。この子達に同情するわ」

「なんでわかるでちゅか?」

「あの子達が意気投合して盛り上がる話なんて、あなた絡みの話でしょう?それにあの子達が遊んでいるものも意地が悪い仕掛けが仕込まれているもの」


 いま彼女達に遊ばせているのは、僕が作った最新版の双六すごろくで、簡単なものは皆んなすぐ飽きてしまうので難易度を高めに設定したものだった。次はバーナデット達に作る楽しさを覚えて貰おうと、今はゲームのルールを徐々に複雑にして遊びながら覚えて貰っているところだ。子供でも簡単に作ることが出来て遊べる双六は子供ならではの面白い発想も入れられる遊具で、いつも人が集まる砦の子供達には丁度良い皆んなでわいわいと楽しめる遊具だった。

 僕はこの世の中は理不尽なことも多いものだと世間の厳しさも知ってもらうために、ゴール前の六マスの半分全てを数歩戻るマスに仕上げである。ルールとして六面のサイコロの目がゴールまでマス数がピッタシでないとゴールとならないので、運が悪いと何回もゴール前で立ち往生し続けるするのがロゼッタのいう最後の意地悪となっている。ロゼッタは高飛車な女の子だと思っていたが、同年代の女の子と遊ぶのに頭ごなしに仕切ったり、ゲームに負けて気分を害しても投げたしりなどしなかった。初対面のときに啀み合ってたメイとも今は普通に会話をしている。子供同士は打ち解けるのが早いというが、初対面は何だったのかと思うほど双六を一緒に楽しんでいた。


「この子に関しては、ここに住まわせる気はないのよね?」

「ないでちゅ」


 ピークトリクトの街に生活の拠点を築けるだけの経済力と世話役として付き人がいるのだから、この砦に場所を用意する必要はない。


「でも一度はあなたが直接話をしないと、いつまでもこのままよ?」

「………そうでちゅね」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ようやくお逢い出来ました。マジク様」


 ロゼッタは、いかにも上流階級のお嬢様という背筋伸ばして柔らかく微笑み、平民の僕の方が身長が高いにも関わらず、少しだけ見下ろす感じの威圧感を与えてきた。姫様と呼ばれる女性以外では貴族の女の子との面識は少ないが、これが貴族が平民に対する作法として普通なのかも知れない。あからさまに見下す感じでないだけロゼッタは良心的な貴族な感じがした。


「初めましてロゼッタ様。ディアナ様とサイラス様にはユースモアにてお世話になりました」

(わたくし)の所には、あの二人からマジク様達の足を引っ張ることしか出来なかったと聞いておりますが」


 レクスタの名を持ちながらも、ディアナとサイラスはロゼッタ比べてレクスタ家の中では地位が低いと思われる。ロゼッタはレクスタ家当主の娘でディアナとサイラスは従姉妹や再従兄妹といった存在のようだ。


「剣の神の寵愛を受け<剣術能力9>を与えられしマジク様のお相手は、あの者達では務まりませんでしゅう」


 ロゼッタが剣の神を信仰する宗家だったことを忘れていた。ロゼッタも剣の神を崇拝する信奉者だったのだ。メイとなんだかんだで打ち解けていたのは、根っこのところで信仰する神は違えど考え方が同じだったからだろう。


「それでご用件は如何なものになりますか?」

「その態度!お嬢様に対して無礼だろう!」


 今回ロゼッタと会うことに対してユウキとして三日間に渡って人となりを観察した上で、ロゼッタには断りの答えを出していた。なので初めから好意的な態度を取らないことは決めていたのだ。だが会おうと決めて日に初対面の連れがいるのは想定外だった。

 ロゼッタ同じくらいの身長の男の子でいいと思う。中性的な顔立ちなので女の子に見えなくもないが、緑髪は短いし服装も男子の物で口調も男の子だ。腰に剣をぶら下げており鞘と柄の意匠から、かなりの業物に見える。


「貴方様はどちら様で?」

「レクスタ=チェスター様なのよ?ロゼッタ様の護衛なのよ?」


 レクスタ家はややこしい。王国中に広がる分家の中から<剣術能力>の高い将来有望な者が現れるとユースモアの宗家に呼ばれてレクスタの名を与えられるそうだ。ガルドーによるとレクスタ家の分家は門弟から高い能力者を嫁や婿を取って高位の<剣術能力>の誕生を目指す。高位の<剣術能力>者が誕生すると宗家の目に止まって、剣の神に愛された者としてレクスタの名と更なる高位の剣の道を目指す道を余儀なくされる。レクスタ家は高位の<剣術能力>の独占を何百年も画策してきたのだ。ガルドーも若い頃にレクスタ家からの勧誘を受けたことがあるという。


「本当に貴様は最高位まで登りつめたのか!?」


 僕の顔を見て疑いを深められるのは慣れている。それでも今にも斬りかからんばかりの少年の対応は少しお灸をしてあげたくなるのは、相手がやはり男だからかも知れない。


「まだ最高位に登りつめたとは思っておりませんが」

「何を!?」


 簡単に挑発に乗って来たのはやはり若さ故なのだろう。


「そこが本当に最高位などと誰が決めたのかということです」

「貴様は<剣術能力9>が最高位ではないと言うのか!?」

「はい。僕はまだまだだと思っております。到達点は有るようでないものだと思っておりますれば剣位など関係ないものでしょう」


 これは自分でもかなり挑発的だと思うが実際レクスタ家は剣位に固執し過ぎだと思う。


「俺の方が剣位が下だと思って見ているのか!」

「見下してる訳ではないのですが、剣位というものに縛られている以上自分限界を決めてしまっていると思いませんか?」

「何だと!ならばそれだけのことが言えるだけの剣技を見せてもらわねば納得できぬぞ!?」

「いえ面どう……今日は用事がありますので、またの機会にでも」

「何だ!あれだけのことを吐いておいて逃げるのか!?」

「マジク様は逃げたりしませんよ!」


 メイがいつの間にか隣にいた。何で君をわざと遠ざけて話をしていたのか分かっているのだろうかね。


「マジク様はダンジョンの神に選ばれし神子様の育て役であり、その身印はーーもごもごっ」


 メイの滑り出したら、どこまでも止まらない口を塞ぐ。


(わたくし)もマジク様の剣技を見とうございますわ。チェスターは<剣術能力7>と、まだまだマジク様の足元にも及びませんが良き勉強となりましょう。チェスターの勉強のためにも一つお相手をお願いを頂けませんか?」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 最後には一太刀交える可能性があるとは考えていたが、砦での出来事ということでちょっとした見せ物になってしまった。

 砦前の広い場所に敷物を広げて、メイが走り回って皆んなに飲み物を配りっていた。ガルドーなどは酒を煽っている。優雨美が戦うことにズルイぞと連呼して、母は手を振って応援してくれている。


「よくもまあ嗅ぎつけるものですね?こんなお祭り騒ぎにしてどうするつもりですか?」


 スカーレットがソリュートを伴って訪れ、見物人はかなりの数だ。


「ロゼッタがあの男の子連れて、あんたの所に向かえば面白いことになるのは目に見えてるわよ。あんたはトラブルの種さえあれば、咲かさせずにはいられないでしょ?」

「そんなつもりは毛頭ないですけどね。そもそもこんなの見ても面白くないと思いますけど」

「あんたには魅力に欠ける花が咲いたとしても、私達にはそれくらいで丁度良いのよ。あんたが普段見せる花は派手過ぎて私達の身に余るわ。今日なんて特にね」


 スカーレットはニコニコと楽しそうにしている母に目を向けた。僕を指差してアキちゃんの興味を僕に向けさせようとしている母には、どう映っているのだろうか。子の成長を楽しみにする親の心境で良いのだろうか。


「ちぃっ!余裕だな!それに本当にそれで相手をすると言うのか!?ただの素振りの重剣だろ!」


 僕には今丁度良い獲物がなかった。トライセルから譲られた無骨な無銘剣は、ラヴィニアの救出の時に受けたダメージで刃が欠けていたので鍛冶屋に修理に出している。レクナハルバートは真っ当な人間相手に使う気はないので、他に僕の持っている剣となれば後は素振り用となる柄のついた鉄の棒だけだった。そんな僕に対してチェスターは刀身にまで彫りの細工がされた美しい剣を抜き身でぶら下げていた。

 僕の感情とは対照的にチェスターの意気込みは激しい。その意気込みは護衛役のロゼッタに良い所を見せようとしているのではなくガルドーに対してなのが、僕の感情を冷めたものにしていた。チェスターは剣王ガルドーのファンらしく、ガルドーを目の前にして頬を上気させて目をキラキラさせるほどだ。先ほどなどはガルドーから紅剣バナードを握らせてもらって感動で涙を流したほどである。このやり取りだけで幼気(いたいけ)な少年を骨抜きにするガルドーの過去に興味が持てた。僕には血塗(ちまみ)れになっても楽しそうに笑う血気盛んなバトルマニアの爺さんの印象しかない。


「カウタ。そこの薪を投げてよこして」


 砦の外壁に背を預けて目を(つぶ)っていたカウタが、僕の言葉に従って集積された薪を一本投げてよこしてくる。

 それがとんでもないスピードの投てきだったので頼んだ僕もびっくりした。


「うへ、ビックリするじゃないか」


 カウタは山形(やまなり)に投げるのではなく上投げで、それも僕の顔めがけて投げて来たのものだから反射的に斬り刻んでしまった。刻んだ薪は跡形も残っていない。


「もっと優しく投げてよこしてよ」

「すみません。しかしながらマジク様なら楽に受け取れるでしょう。無駄な時間を少しでも省略しようかと思いまして」

「それって露骨過ぎるよ。ほらっ」


 チェスターが怒っていると思って振り返ると尻餅をついて顔面蒼白にしていた。


「あれ?」


 チェスターの股の辺りの地面に染みが広がる。気不味い雰囲気が出来上がってかける言葉も見つからない。チェスターは蒼白だった顔面を徐々に真っ赤にすると俯いたまま立ち上がり走り去ってしまった。

 その一部始終にロゼッタは溜息をつき、バーナデットは何が起きたのか分からずに小首を傾げ、ラヴィニアなどは僕には興味がなさそうにスカーレットが持って来てくれた子供向けの絵本を見ていた。


「あーあ!泣かせたー!」


 スカーレットの楽しそうに避難する声が砦の前に響いていた。





次話 「イーニッドの気遣い」

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