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異世界Baby  作者: 本屋
9/112

9、稼ぐ手立て

「あきちゃん♪ かわいいでちゅねぇ~」

「たぁ♪」


 今日もアキちゃんは可愛い。この癒しさえあればどんな死地からも帰れる気がする。

 砦から何も回収することなく、逆に不要なものを買い取ってくれた情に甘いレージンを見送った後、母に僕がユウキであることを伝えた。

 母は特に何かを言うこともなく、「やっぱりユウキちゃんなのね~」っと抱きついてきた。我が母ながら、目の前で変身して見せようと思っていただけに、とんでも話を疑うことなく抱き着いてきたのはびっくりした。「アキちゃんがたまに二人になっているから~変だと思ってたのよ~」と言われて、二度びっくりする。「ママにはわかるものなのよ~」っと言われ、生まれて初めて母は凄いものだと感心した。

 そんな母ではあったが、普段はどう育てられたらこうなるのか分からないほど、おっとりとしていてマイペースである。両親が投げ捨てられた砦の裏側に案内した時にも、「ここは、危ないから近づいたら駄目だって、お父様もお母様も仰っておられたのに」と何かズレた事を口にした。

 僕は会ったことがないので、祖父母が死んだ場所と言われてもピンと来なくても良いと思うのだが、悲しむ様子を見せない母のこんな所は似ないように、気を付けてアキちゃんを育てて行かなければと、母の代わりに手を合わせながら強く思った瞬間でもあった。

 


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 レージンが買い取ってくれた砦の不要物の総金額は銀貨二十四枚と青銅貨三十二枚で、砦の中で見つけていた物と合わせると銀貨二十六枚と青銅貨三十九枚になった。

 レージンに街で売買されている食料品や生活必需品の相場をそれとなく聞き出したところによると、一般的な相場のようだ。周辺で取れるものは相場が低め、取れないものは輸送費などのコストがかかっている分高めという答えに前世の常識と差異がないことを知ってホッとする。レージンとの話の最中に、レージンが語る相場などの内容を理解した僕の様子を見て、レージンが鋭い目をしていたのは気付かないふりをして誤魔化した。レージンが入れている探りが僕には判断が出来ない。この世界の常識の欠如は、僕にとっての最大の懸念事項となった。

 いまの所持金では一般的な食料を購入して四人で生活するには一週間持たないそうだ。砦の畑から得られる自足物があっても十日がいいところで、至急金を稼ぐ手立てが必要になる。

 砦から街まで、歩きなら約二時間ほどの距離だそうだ。不便な砦から移り住むにも、いまの所持金では夢物語である。この砦を売って街に移り住めないかとも思ったが、既に担保に入っているそうだ。ただ相続人となる母がいる限り無理やり担保として奪うことは出来ないらしい。祖父母達が残した借金も相続する事になるのだが。

 このことはレージンが街の役人に話を通しておいてくれるらしい。早いうちに手続きをする役人のお客さんを出迎える事になりそうだ。

 砦の中をレージンと物色するにあたって、二階にある母の部屋に行ったところ、運び出すのに一苦労しそうな大きな天蓋ベッド以外の物は殆ど残っていなかった。一番まともだった母の部屋に必要最低限の物だけかき集めて、なんとか生活が出来るようにする。

 片付けの作業は夕方近くまでかかったが、使い物にならなそうなものは、大きな部屋にかき集めたので、毎日コツコツともう一度物色をかけて谷底に捨てる作業が一つ、僕の生活サイクルに加わった。

 何にせよ一度、街には出向かなければならない。

 お金を稼ぐために働き口を探さなければいけないのだ。


「マジクちゃん~出来ましたよ~」


 母が、服を広げてくるりと回る。母が魔物の血で汚れた僕の服を見て、砦の中からかき集めた布で拵えた服だ。裁縫が得意なのは驚いた。時間がかかってでも、ちまちま縫い物をするのが好きなようだ。料理をするのも好きだと言うが、どんくさいので火を使う料理は直ぐに焦がしてしまう。貴重な食材を台無しにするわけにはいかないので、火の使わない料理が母の担当になった。旧貴族とはいえ、お嬢様のはずの母は、縫物や料理が好きだという変わり者のようだ。

 レージンも母の顔は知っていたようだが、中身は聞いていたものと全くの別人だそうで驚いていた。深窓の令嬢のイメージが定着しており、街に出ることはなく祖父の悪名からは考えられないほどの良く出来たお嬢様という話が、街の中だけでなく、街の外にまで広がっているとレージンは言っていた。

 政略結婚で良い条件を引き出すために意図的に祖父母が仕立てた情報だったようである。


 母さん聞いていた話と違うって嫁ぎ先から追い返されたわけじゃないよね?


「こんなに早く息子の服を縫えるなんて嬉しいわ~」


 出来ないことが多く、世間知らずの母だが、何事にも物怖じしない性格のようで、これなら大丈夫だと僕に関する他のことも色々と話してしまった。<前世の記憶を引き継ぐ>のことだけは話さずに他にも色々変身できること、<複製能力>を使って色々便利なことが出来るということだ。

 今後お金を稼ぐために、家を空ける時間が長くなるのは避けられないので、母に安心してもらうためにも話して了解して貰っておく必要があった。直ぐに納得してくれた所は非常な助かるのだが、あんまり深く考えないのか順応力が高いのか、少し母のことが心配になってきた。

 住む場所を整え、母の手伝いをしてアキちゃんと遊び、赤ん坊に戻ると母が一日構ってあげなかっとことを取り戻すかのように、眠るまで抱いてくれていた。

 明日からはお金を稼ぐ手段を検討するため、情報取集も含めて街に行かなければならない。日が暮れる前に帰ってくるためにも日の出前に出発しようと母の腕の中に揺られながら、久し振りに名一杯甘えて眠りについた。母に秘密の一端を打ち明ける事が出来た安心感もあって、気持ちの良い眠りにつけたのは良いことだったと思う。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 レージンから聞いていた情報を頼りに母から聞いた話を総合して、街のことに想像を膨らませていた。

 砦を含めた街の周辺に住む魔物は、昼間の整備された道には、まず出没しないそうだ。

 魔物とは弱いたぐいでも、戦闘能力の乏しい者には命を脅かす危険性があるそうで、即時討伐の命令が出ているとのことだ。数人で行動している限り、この周辺に生息している弱い魔物は、自分から襲ってくるのは無いらしい。それでも年に何度かは被害報告が出るので駐在している王国騎士団と冒険者によって定期的に討伐して回っているそうだ。

 ここで冒険者と王国騎士団という職業が登場するわけだが、前者の冒険者は完全実力主義だという。

 冒険者を取りまとめるような組合というものは存在せず、王国騎士団が冒険者に仕事や依頼を割り当てる業務を兼任していて、王国全体の魔物の生息状況を把握しているらしい。

 王国騎士団は近衛騎士、聖騎士、副騎士、準騎士からなっており、聖騎士と近衛に関しては貴族でしかなれないそうだ。他に兵士階級があり、兵士とは基本的に王国騎士団の下部組織として属してはいるが、全てが平民で自らが暮らす街を自衛する者達となる。

 そして王都に本居を構える騎士団員が、王都から離れた都市・街・村に派遣され治安の指揮を取っている。この制度は既に数百年続いており、広い王国の領土内で起きた内乱を二度と起こさせないようにするために出来た制度だそうだ。それぞれの地域には経済を賄う領主はいるが自らの軍隊は持っていないという事になる。これも他国から争い事を受けていない時代が同じ様に数百年続いているためだった。それほど王国は強大な領地と力を持っているという事に繋がる。


「百歩譲って他国の名前を知らないのは、いいとして自国の名前を知らないというのはおかしくないですか?」

「うん~?王国は王国でしょ~?」


 そんな可愛く首を傾げても、母親なんだから萌えたりしませんよ?可愛い仕草だけど!


 変な感覚だが、王国=自国のようで何にも疑問に思わないらしい。王国民は王国の外には何も存在しないという考えのようだ。極端な考え方だが、ここら辺の細かい内情は、母から得るのは無理だったので追々に街で調べることにする。

 仕事先はレージンにも既に相談していたが、どこの者とも知れないよそ者を雇うのは、地元意識の強い街では難しいらしい。因みにレージンにも断られた。まだ駆け出しの商人で自分の事で手一杯だそうだ。この分だと素性を隠しながら仕事を探すのは難しいかもしれない。

 ここでまだ選択していない能力を選んで活路を見出すのも一つの方法として考えてはいる。

 まだ選んでいない選択枠、生産系の能力があるのだ。

 ここで悩むのが、何の生産系能力を得るか。

 生産系能力はスクロールの序盤は<なし>のオンパレードだがスクロール中盤ほどになると鍛冶、裁縫、木工、薬師など前世でも良く知る職人の分類項目に【1~9】までの数字が付き、戦闘能力と同じようにスクロールの最後の方には【+α】【+β】【+Ω】の付加が付く。<剣術能力9+Ω>が思っいたよりも劇的な変化や超絶な能力で無かったため、生産系能力は建設的に、儲かりそうな職業を選ぶのが良いと思っていた。街に出て市場調査をしてみないと始まらない話になってしまうが、失敗を犯さないためにも、生産系能力に関しては実直に向き合う必要がある。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 明方は薄く霧が立ち込めて若干視界が悪るかったが、街に向けて予定よりも早く出発した。

 朝の弱い母は寝かせたまま、自分でお弁当を詰めての新しいスタート。

 お弁当はいい加減食べ飽きて来たジャガイモもどきを蒸したものだ。そろそろ肉が食べたい。


 肉って食べないと禁断症状出るんだなぁ……


 肉どころか食べ物にさえ困っていた時には肉の事なんて考える事は無かったのだが、いざ食べれる可能性があるとなると現金なもので、食べたくて仕方がなくなる。


 人とは、なんと欲深きものか………


 少し格好つけただけなのだが、肉の所為でテンションが高めなのは否めない。

 母とアキちゃんの二人を残していくのは、少し不安だったが、さすが砦というか石垣の内側に細工がされているらしく、大概の魔物と動物はここに砦が、ある事を認識できずに入ってこれないそうだ。地下の入口を隠蔽していたものを大規模にしたもののようだ。

 それでも絶対とは言えないそうなので心配にはなる。

 この話をレージンとした時に、一振りの剣を借りた。レージンが予備に荷車に積んでいた物で、あくまで借り物だ。それでも返すのは何時でも良いと言われている。それでも貸した物だと強く言われたのは、駆け出しの商人がお人好しとなって物を恵むなど、大商人の耳に入ったら商人としての未来を閉ざされることらしい。大商人にしてみれば、商人になったばかりの駆け出しが物を恵む行為は、自ら将来見えない大バカ者と落第の判子を押すようなものだそうだ。恵む余裕があったらそれを元手に大商いまで上り詰めて、数百倍にして施しをしろと言われるという。確かに商人らしい考え方だとは思う。

 借り物とはいえ、前世では普通には触れる機会さえ訪れない真剣を持っているという事に、興奮が抑えられなかった。テンションが高くなっている要因の一つとなっているのは間違いない。

 腰にある確かな重みだけで強くなったような気になるのは、これも前世で親しんだ漫画やアニメ、ゲームの影響を受けているのだと、頭では分かっていても高揚を抑えられなかった。<剣術能力9+Ω>という能力を得た以上は対象となる剣が欲しくなるのは至極当然の事で、将来的には<鍛冶能力>を取って自分の使う剣を作るという楽しみな将来を妄想するまでに至っている。鍛冶がお金になる能力なら言うことなしという将来設計だ。

 

 街への道中に、いろんな事を考えながら、たまに剣を抜いたりしては、レージンが鉄の檻戸を斬ったシーンを思い出して、見よう見真似で剣を袈裟懸けに振り抜いたりしている。重いものを振り回す感覚を知らず、バランスを崩して初めは地面に突き刺してしまった。この時は剣を傷つけたのでは無いかと、一気に血の気が引いて冷や汗をかいている。幸い傷は見当たらなかったので、今後はふざけた振り回しはしないと心に決める出来事もあった。





次話 「一歩進んで三歩退がる」

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