89、第二回ダンジョンデビュー
現在休憩中。バーナデットの第二回ダンジョンデビューと名付けられた今回の探求は、緊張感のある探求と言うよりピクニックで、いまはパーティメンバー全員でお弁当を囲んでいる状態だ。ペラム家のアイドル、バーナデットには記録よりも楽しい思い出をとのことでダンジョンの中で宴会騒ぎとなってしまった結果だった。レノックスが酒まで持ち込んでいるのはどうかと思うが、第二回バーナデットダンジョンデビューのメンバーはペラム家の家族が総出で、ライオネスも今回は参加をしている。これはお菓子禁止をされていてご機嫌斜めだったのバーナデットの要求で、機嫌取りでライオネスも忙しい執務を後回しにしての参加となった。バーナデットは王都での家族全員で行動する楽しさが気に入ったようだ。
ペラム家の他のメンバーでは、ガルドーが参加で遣い役が僕とリリア以外は休みとなり、僕側は楓とメイとなっている。
「それにしても、あんたは本当に出くわすのね?」
果実酒をちびちび飲みながらスカーレットが扉を指差した。豪華な意匠の扉だ。
「まだ試練部屋とは限りませんよ?」
「試練部屋以外でこんな扉知らないわ」
「凄いですね!神への祈りが届いたのです!」
メイが扉の前で感動にテンション上がりまくりである。バーナデットも久し振りのお菓子解禁で目がキラキラしている。場所は地下のダンジョンで薄暗い雰囲気でも、賑やかな状況は歓迎するべきかもしれない。この世界でも一般的にはピクニックと言えば、天気の良い日に見晴らしの良い風景で行われるものだ。第三者からこの風景を見られれば、またペラム家の伝説が増えることだろう。
「マジか。こいつら本当に宴会してやがる!」
遠くから聞こえて来たのは濁声だった。ライオネスやソリュートよりも体の大きい毛深い男が大股で近付いてくる。
「後をつけさせて正解でしたね兄貴。試練部屋を目の前にして宴会するなんて、ただの根も葉もない噂だと思ってましたよ」
フルアーマーの大男を先頭に五人ほどのパーティが僕達が宴会する手前で並んで立ち止まる。
「あんたら試練部屋に入らないなら先に入らせて貰うぜ?」
大男が高圧的な態度で言ってくる。スカーレットとソリュートは一目だけ見て興味無さそうに宴会を再開する。ガルドーはもっと興味なく剣の手入れをしていた。僕が経験ないだけで、こういったことはよくあるのだろうか。今回のパーティーのリーダーは家長であるライオネスが対応するのが筋な様で、ライオネスだけが目線を逸らさずに対峙する形だ。大男はペラム家と分かっていて喧嘩をふっかけて来ているように思える。貴族相手にこの態度は大男も貴族なのだろう。見た目は山賊だが。
「俺らはモルタジフ領のシブリス家だ。西ではペラム家が幅を聞かせている様だが、東では俺らが一番の稼ぎ頭だ。何でも最近ペラム家は潜れば試練部屋に辿り着くと吹いて回ってると聞いてな。確かめに遥々ピークトリクトに来てやったわけだ。だが本当にこんな簡単に試練部屋辿り着きやがるとは、きっと何か試練部屋の秘密を知って独占して居るんだろう?」
馬鹿っぽい感じだが正解は得ていた。
「そこのガキが図星って顔してやすぜ?」
中々鋭い。見た目はチンピラで小物感たっぷりなのだが、伊達にペラム家をライバル視していないだけの能力と経験があるようだ。ダンジョンで一番求められる能力は洞察力と観察力と言われている。罠を見極め回避するのに不可欠な能力だ。
「なあ同じ同業者のよしみじゃねぇか。あんたらだけが独占するのは欲が深すぎるってもんだぜ?<秘宝狂い>の独占だけにしとけや」
嫌らしい笑みを浮かべてくる。何だろう、ここまで見抜いて来てるのに後一歩のところで、やっぱり小物にしか思えない。
「ガキや赤ん坊を連れてくる様な甘ちゃんにダンジョンの探求が務まるくらいだからな。よっぽどダンジョンを楽に探求出来る秘密なんだろ?最上層に試練部屋があるなんて聞いた試しがねぇ!がっはっはっは!」
「がっはっはっは!」
一緒に笑ったのは大男の仲間ではなくメイだった。この状況で釣られて笑うお前はなんなんだと突っ込みたかったが、貴族同士の会話に余計な茶々は入れられない。
「お前さんらは試練部屋の経験があるのか?」
ここに来て初めてライオネスが大男に声をかける。
大男の仲間がそれぞれ顔を見合わせた。
「あるわけないだろ?爺さんが一度出くわしたことがあると言ってたぐらいだ。だからこそあんたらペラム家は胡散臭んだよ。英雄だか伝説だか知らねぇが化けの皮剥がしてやるぜ。ダンジョンは遊びじゃねぇーんだ」
「確かに遊びじゃないな。良かろうその試練部屋を譲ろう。試練を越えて中の宝を手にするがいい。見事試練部屋の宝の手にして来たら試練部屋に辿り着く秘密を教えてやろう。ただし中の責任に関しては儂等は負わんからな?」
「やけに素直じゃねぇーか。何か裏が有るんじゃねぇだろうな?」
「なぁに?まさかあれだけ吠えたのにビビったのかしら?」
「ダンジョンの神は憶病者には厳しいですよ!」
「何なんだこのガキンチョに女は?ビビる訳がねぇーだろ?伊達に修羅場潜ってねぇーんだよ。これはその修羅場を潜って来た感ってやつだ。中に罠とか仕掛けてるんじゃねぇーだろうな?」
「まだ私達は覗いても居ないわよ?入るなら入る。入らないなら入らない。ハッキリしなさいよ。男でしょ?」
「兄貴!ここで引き下がったら舐められますぜ!ハッタリですよ!」
「だがなぁ。やつらそもそもなんだって試練部屋の前で宴会なんて初めてやがったんだ?」
「それは試練部屋を見つけて宝を手にした前祝いでさあ!」
「お前。こいつらにつけてたのバレていたんじゃねぇのか?」
「何を言いやす!あっしはこれでもプロです!それは兄貴もご存知でしょう?モルタジフから王国を横断して来てまでここに来た理由を思い出して下さいや!?このチャンス逃す手はないですぜ!」
「そうだな。折角ピークトリクトまで来てみればユースモアに遠征に行きやがるし。ユースモアにやっと着いたと思ったら。もう帰るって言うし。何なんだお前らは適当にダンジョン探求してんじゃねぇぞ!普通赤ん坊連れてこねぇだろ!?可哀想だと思わねぇのか!?」
なんだユースモアに行く前から嗅ぎ回っていたのか。大男は此処とぞばかりに不満が爆発した感じだ。
「ああオメェら行くぞ!こいつらに本物のダンジョン探求を教えてやる!着いてこい!」
「それでこそ兄貴だ!どこまでも着いて行きやす!」
色々と勘違いが多いが、根は悪くないやつに思えるので情が湧いてしまった。元はと言えば僕が原因な気がする。ペラム家が最近試練部屋の到達率が高いという話の秘密を探りに来たようだからだ。
「あの~、やめておいた方が………」
「何だお前は?ガキは引っ込んでろ」
「この試練部屋は多分普通の試練部屋と違うので危険かと」
「はあ?何でそんなことがわかる?入ってないって言っただろ。やはりお前ら俺らを嵌めようとしてるな!?」
「本当に入ってはいないんですけど。中のことは経験というかですね」
「お前ら自分達が何度も試練部屋の経験してるとか、自慢して俺達を馬鹿にしてるのか!?」
「兄貴!こいつガキのくせして上から言いやがってますぜ!おいガキ!ペラム家のガキンチョのお守りが調子こいてんじゃねぇぞ!」
「アンタ。もう良いから行かせてやりなさい。あんた達もお酒が不味くなるからさっさと入って消えて」
「ああ!?吠え面かくなよ?」
大男達が大股で試練部屋の扉を開けて入っていった。
「ママ?凄いの取られちゃうのよ?」
「大丈夫よ。こいつの絡む試練部屋はこいつのレベルに合わせた難易度になるから。あいつらには絶対無理よ。ダンジョンを甘く見ている奴は痛い目見るといいのよ」
ブルブルとバーナデットが震える。スカーレットの悪い顔を見た時のバーナデットの反応だ。
スカーレットは大男達の行く末を楽しんでいる節がある。
「スカーレット様。痛いめどころか危険だと思うんですけど?」
「どうもしないわよ。ダンジョンて起きたことは全て当事者の責任なんだもの」
「でも皆さんが死ぬことになったら寝覚めが悪いんですけど」
「あんたはもっと、自分にとって大事なものとそうでないものとの区別をハッキリとつけた方が良いわ。そんな事ではいざという時には大事なものを守れないわよ?」
「そういう時は優先度は間違えませんよ。僕は」
「いやスカーレットの言う通りじゃ。お前さんはその力故に全てを守れると過信しておる。お前さんが今まで負って来た傷で儂を庇っものも多いだろ?それを言っておるのじゃ」
「ガルドーさんを庇うのは当然じゃないですか?」
「それは強者としてか?」
ガルドーの目線が厳しい。
「いえ。仲間だからですよ」
「だからじゃよ。お前さんが強者として儂を庇うのならばそれはいい。まだ己の強さと庇う相手の強さを冷静に判断しておるからの。だが仲間というだけで庇うというのは危険な考えじゃ。感情で行動するとお前さんは、いつか自分を殺すぞ?」
「アンタは私が見ていただけでも相当無茶苦茶なことしてるわよ?体が動けなくなるまで私達を守って、その後に本当に大切なものを守れると言い切れるの?」
「………………」
「まだお前さんは若いのにそれだけの力を持った。経験が追いついていないのは誰が見ても明らかという話じゃ。後先考えずに行動するより、余力を持って戦う判断の仕方を学ぶ必要がある」
ガルドーとスカーレットの言いたいことは分かった。年長者として若い僕の無鉄砲さを諭そうとしている感じだ。確かに思い返してみると、そう思われても仕方ない行動を僕はして来ている。それでもそう思われた僕の行動の一部は、相手を確実に圧倒できるだけの反則的な力を得るために技や魔法を繰り出した時の反動だ。僕は大きな力を得るために大きな代償が必要なことを彼らに話してはいない。自分の能力の秘密主義を貫いて来たことで要らぬ誤解を招いていたのだ。
自分が生んだ誤解によって年長者に心配をかけてしまっているのも、これまた言えぬ代償である。
「よく考えて起きなさい。旦那が初めに責任は負わないと言質を取った意味も含めてね」
「それを踏まえて置いて、さて行くかのう」
ガルドーが立ち上がる。
「何を呆けておる?お前さんのことじゃからどうせ行くのだろう?」
「ええそうですが。ガルドーさんが付き合う必要はないと」
「儂は血肉湧き踊る戦いがしたいだけじゃが?」
「マジクは試練部屋行くの?なら私も行くのよ?」
「バーナちゃんは駄目よ」
「行くなら早く済ませて来い。バーナデットが心配する」
「分かりました。メイ。楓をよろしく」
「はい任されました!」
僕が隠し事をしている事実を知りながら優しい言葉をかけてくれるこの場所が、皮肉にも僕が身を挺しても守りたい大事なものだと言えないのも辛いものだった。
次話 「楓の奇行」




