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異世界Baby  作者: 本屋
88/112

88、ライバル


「まだママは、ぷんぷんですからね~」


 十日間の予定を実質八日間で帰って来たのだが、出迎える母は仁王立ちで頬を膨らませていた。カウタがいるお陰で砦の警備は万全だが、人の出入りを感知するので僕の帰宅は母に筒抜けだった。砦の中なら何処にいてもカウタの感知に引っかかってしまう僕を母が目ざとく気付いたのは、カウタが母を見守るようになって直ぐだった。

 母の出迎えは頬を膨らませた怒った姿だったのだが、背中のアキちゃんの頭をのけぞらした寝相が母の態度もコミカルにしてしまっていた。相変わらず逞しい我が妹に僕が思わず顔を綻ばせると、もっと頬を膨らませた母が可愛らしかった。

 そんな母はラヴィニアを見てコロリと表情を変えて慌て出す。


「マジクちゃんが年頃の女の子を連れて来たわ~どうしましょう~」


 予想がついていた母の行動にラヴィニアが前に出る。


「本当に、あなたの言った通りね?初めましてラヴィニアです」


 ラヴィニアには帰りの道中で母のことを話していた。話の流れから母との初対面で起きるだろう行動の予想も伝えていた。


「ラヴィニアだよ。初めましてだってさ。彼女は母さんたちの言葉がわからないんだ」

「まあ~そうなの~大変ね~マジクちゃんをよろしくお願いします~」


 思いっきりお辞儀をしたので背中のアキちゃんがびっくりして目を覚ます。


「ぶぇーーーん!!」

「妹のアキちゃんだよ」


 僕は母の背からアキちゃんを抱いて、揺らしてよしよしする。


「よく似ているわね?髪の色は違うけど」

「ふ~、やっぱり我が家はおちつきますね!」

「メイはまだ砦で過ごした日が浅いだろ」


 メイは楓を背負ったまま大袈裟に、かいていない額の汗を拭う仕草を見せた。


「確かに落ち着きそうな場所ね。木々に囲まれているのがいいわ」


 ラヴィニアが背伸びをして気持ちよさそうに声を出す。


「そう言って貰えると嬉しいかな、やっぱり」


 今は賑やかな砦だが、僕が不安と戦いながら地下から出で来た時には人の居ない荒らされた廃墟だった。それが不要なものは破棄してささやかな生活が出来るまでになった。今では静かな所を探すのが大変で騒がしいほどだ。そしてラヴィニアという居候が増えて更に騒がしくなることだろう。


「ようこそ我が家へ」

「お世話になります」


 ラヴィニアが頭を下げてくる。ラヴィニアは基本的に気が強いが、礼儀と馴れ合いの区別はつけているので一緒にいて信頼がおけた。だがこの先はラヴィニアがどういった自分の道を歩むのかは分からない。管理されている者として何処まで彼女の行動が自由なのか分からないが、言葉の壁を乗り越えれば彼女は僕の元を去り自立を希望する可能性が高い気がした。彼女は勉強熱心でプライドが高く、並外れた順応力を持っているからだ。


 ラヴィニアには空いていた部屋を一つ与えたが綺麗さっぱり何もない部屋なので、日々生活するのに、ある程度部屋として必要な物が揃うまでは今の所僕たちの部屋で過ごすことになりそうだ。


「これは何て言うの?」


 ラヴィニアが身の回りの物の名称を聞いてくる。いまラヴィニアが指差しているのは椅子だ。これをそのまま、ラヴィニアに向かって「椅子」と言うと<自動翻訳>の能力が働いてラヴィニアの使っている言語の「椅子」になってしまうのでメイに向かって『椅子』と言う。ラヴィニアが知りたいのはこの世界の人間達が使っている言語である『椅子』だった。


「う~ん。発音が難しいわね」


 僕にはラヴィニアの言語もこの世界の言葉も同じに聞こえてくる。<自動翻訳>は反則的な能力だということが、異なる言語を使うラヴィニアと出会って知る事となった。以前に神の操る言語は人間には理解出来ないのではないかと考えた事があった。この世界の人間は神の言葉が理解出来ないし、神の残した文字も読めないと言う仮説だ。メイは神の残した文字が見えるだけで巫女姫として神殿の高い役職に就けられた。文字が見えるだけで希少な能力者だからだ。更にその先文字を理解できる者は居ないと言うのがこの世界の人間の限界だ。故に神殿の大聖堂にある壁に印された神の文字は未だに何が書かれているか分からない。それは長い神殿の歴史の中でも神の文字を見ることが出来た能力と理解できる能力を同時に持つ能力者がいなかったからだ。自らの能力を知る事なく生涯を終えた能力者も多かったのではと言われている。

 そして神と邂逅出来た者は更に少ないと言われている。神への邂逅した者はダンジョンの神の転移による招待された者が最も多いと言われていた。この者達は一人(たが)わずに偉業を成し遂げているので、神への邂逅を果たした証明にもなる。ようは転移により神への邂逅を果たしたと嘘を吐いても、それを証明するだけの偉業を成し遂げなければ成らないので虚偽を放つ者はいないわけだ。神への邂逅を果たした者は、それに見合うだけの能力を世間に示さなければ、ペテン師と神を利用した大罪人として扱われるためだ。

 招待以外の他の道で神への邂逅を果たすには、深い信仰によって資格を得ることが必要とされている。ダンジョンの神の神殿では多くの信者がこれを信じて教義の中で繰り返し学んでいた背景がある。それには元にダンジョンの神を信仰する神殿が設立に至った経緯があった。ダンジョンの神を信仰する神殿の創設者はダンジョンの神に招待された者となっている。創設者のダンジョンの神に邂逅した者は、後に教皇と呼ばれ今も尊敬の念を持ってダンジョンの神の信徒に敬われる存在だ。ただこれには(まこと)しやかに囁かれる噂があって、神殿が後付けでダンジョンの神に招待されたと付け加えたというものだ。王国最大信仰のダンジョンの神の神殿の創設者の箔をつけるために、死後に記録を遡って改竄したと噂が存在する。千年以上も前の話となると、その真偽もまた歴史の闇に飲み込まれてしまうのが現実だ。

 僕は三度にわたって神との邂逅を果たした。一度めはダンジョンの敷地で転移させられる招待と言われる邂逅。二度めは神々の塔の試練で現れた剣神。三度目はダンジョンの神の神殿にて楓を攫われた時だ。一度目の邂逅だけが、何の神と邂逅したのか未だに分からないでいる。はじめは三人の神の中で最も近寄りがたく、最も神々しかった神がダンジョンの神と信じて疑わなかった。それが三度目の神との邂逅で本当のダンジョンの神と邂逅したことで、一度目の神はダンジョンの神でなかっことが判明してしまった。二度と会うことがないと言われたが、あるいはとも言われた。僕次第で会える可能性があるということだ。一度目の神は僕がこの世界には来たのは必要だからだと言われた。それが何を意味することかは分からないが、僕が自分である事を違わないければこの世界に必要とされるだけのことに直面すると解釈する。

 これも仮定の話で、どれもこれも仮定の話ばかりで胃もたれしそうだが。


「ねえ?カップは何て言うの?」

「母さん?カップは?」

「カップ~」


 僕から見ると、とても変な会話だ。

 この世界の住人からは、どう見えるているのだろうか。先ほどメイに聞いたら。「マジク様は色んな言葉が話せて凄いです!」と違う感想が飛んで来た。


「悪いけど午後には、この前話したバーナデットって僕のご主人様が来るから、暫くユウキで居たいんだ。勉強はまた後でね」

「そう。でもユウキでもやることは一緒だから良いわ」

「そう意味じゃなかったんだけど?」

「何よ。私が言葉を覚える手伝いしてくれないの?」

「そんなことはないんだけど。本当はお昼寝したかったんだよね」

「呆れた!そんな理由!?」

「そんなって言うけど切実な理由なんだぞ」

「何で昼寝が切実になるのよ?」

「僕が、この姿でいる理由は話しただろ?」

「生活していくためよね」

「妹がいるだろ?」

「アキちゃんね」

「ここ最近、妹との成長に差が出て来たんだ。きっと原因は僕がマジクに変身している時間が、ユウキの成長に反映されていないからだと思うんだ」

「そう。それでどれくらいの差が出てるの」

「実際に見せた方が早いからさ。メイを目隠ししてくれる?」


 ラヴィニアは頷いてメイに向かって手招きをすると、メイは警戒心なしで駆け寄って来る。


「なんですか!?ラヴィニア様!?わ!何するですか!?目が見えないです!」

「メイそれは暗闇の中でダンジョンの神を捜す修行だ」

「なっ!なんですと!どこですかー!?ダンジョンの神よ!!」

「メイ。ちょろいわね………」


 ラヴィニアは言葉は分からなくても、メイの反応で僕が適当に誤魔化して引っかかったことまで理解したようだ。


「もう、いいでちゅ」

「ふへ!まだ神を見つけられてないです!」

「めいおねえちゃん、かみはつねにかたわらにかんじるものでちゅ」

「なんと!?ふかい!まさかユウキに教えられるとは!」

「どれどれ~あら、本当に成長に差が出てるわね。重さが違うわ」


 ラヴィニアは、アキちゃんと僕を片腕づつに抱っこする。言われたことにがっくりして、しょんぼりしてしまう。アキちゃんがにこにこしてくる。


「まけないでちゅよ?」


 可愛いアキちゃんをはっきりと、ライバル視した瞬間だった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「明後日なのよ?」


 バーナデットが今日から二日後にダンジョン探求をすると伝えて来た。思ったよりも早い行動だ。

 バーナデットの機嫌が直っていることにペラム家内で早めの決断がされたことがわかる。ラヴィニアと自己紹介を済ませると、話題は探求が中心になる。


「方針とかは決まったのかな?」

「ペラム家らしくと言っていたのよ?」

「それは試練部屋も逃さないって意味だよね?」

「私にはわからないのよ?」

「メイ。ダンジョンの神に祈りたいんだけど一緒に祈ってくれるかな?」

「マジク様!ダンジョンの神の偉大さに気付かれたのですね!」

「縋りたくもなると言うものさ」

「ダンジョンの神に祈りを!」

「試練部屋の難易度が低いものでありますように」

「何を祈るですか!?神の与える神聖なる試練は優しくしろなどと神の思いを馬鹿にするですか!?」

「そんなつもりは毛頭ナイヨ?」

「嘘です!あーダンジョンの神よ!この罰当たりなマジク様にこれ以上ない試練を!与え給え!!」

「おいやめろ!その振りは嫌な予感しかしない!」

「何か面白いことになりそうなのよ?」


 バーナデットは一人にこにこと楽しそうだった。




次話 「第二回ダンジョンデビュー」

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