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異世界Baby  作者: 本屋
85/112

85、エロフ


「話は済んだの?」

「一応ね」


 楓を抱いてエルフの女の子と面と向かう。


「私のこと何か言ってた?」


 上目遣いで聞いてくる。部屋には僕と楓とメイしかいない。メイがレノックス達が去ったのでお茶の食器を片していた。


「いや特には。ただもう少し僕が君から話を聞く時間を貰ったかな」

「本当のそれだけ?あの人。たまに私を見て笑う赤い髪の人。舐め回すような目を向けてくるの。何だか怖いわ」

「一応レノックス様は……その………悪い人ではないよ」


 僕はメイを睨め付ける。間近いなくダンジョンの神以上の試練をレノックスに与えたのこいつだ。


「まあいいわ。それよりも大事なことがあるの……」


 彼女は言いにくそうにしている。


「変なことを言うかも知れないけど笑わないで聞いてね?」

「笑わないよ。それに今更でしょ?出会った時から君はずっと変なことを言ってたし」

「何よ!?勘違いしてたんだから仕方ないでしよ!」

「そうだね。それでも僕は笑ってなかったでしょ?」

「そうね。言われてみれはあなた変わってるわね?あれだけのこと私に言われて怒らないし、笑いもしなかったわ。かなり変わっているようだけど、そこは信頼できるようね」


 彼女は信頼が出来ると言った割に中々話そうとしない。楓がエルフの女の子に手を伸ばす。初めて見る光景だった。楓が僕以外に自分から手を伸ばしていく様子は見たことがない。楓は嫌いな相手には拒絶する意味で手を出したことは何度かあったが、今回は違う。僕は楓の体をエルフの女の子に触れられる位置まで腕を伸ばして前に出す。楓はエルフの女の子の頭を撫でるように触れた。

 楓は僕にダンジョンから連れてこられたと言う意味では先輩だ。新しくダンジョンから連れてこられたエルフの女の子(こうはい)を応援しているのかのようだった。


「ありがとう。励ましてくれて」


 ゼロ歳の楓に千二百八十五歳のエルフが励まされる。そんな楓の様子に絆されたのかエルフの女の子は重い口を動かし始める。


「私ね。名前が思い出せないの。何であんな所にいたのかは分からないけど、昨日までのことは思い出せるし、お母さんの名前も思い出せるわ。住んでた場所だって言える。なのに何故か自分の名前が思い出せないの……」


 この話からすると彼女は昨日もしくは数日前くらいに試練部屋へと閉じ込められたと思っているようだ。それにしても彼女の話を聞いている限りでは、とても大罪を犯すようなことに至ってる過去があるように思えない。彼女が本当のことを話している保証もないのだが、全てを偽っているような相手に楓が懐くようにも思えなかった。


「僕からも幾つか話さなきゃならないことがあるんだ。君に関することだ」


 彼女の心情を聞けば聞くほど、伝えなきゃいけないことが言い辛くなっていくのを感じていた。


「何?何か知ってたのね!?黙ってたの!?」


 彼女の眉間に皺が寄っている。黙っていたことが気に入らないようだ。


「信じて貰えるか分からなくて言えなかっんだ」

「信じる信じないは私でしょ!早く言いなさいよ!でないと怒るわよ!?」


 既に怒ってると思うんだが、まあ良いだろうと腹をくくる。


「君は十五歳だと言ったね?」

「そうよ。ラワンが咲く時期に生まれたわ」

「ラワンが何かは知らないけど僕が君を助けた時に、君の年齢を教えられたんだ」

「ちよっと待ってよ教えられたって誰に?あの場所にはあなたと私しか居なかったじゃない」

「人じゃないんだ。神様と言うか、この世界のシステムでいいのかな?」

「何よ神様って本気で言ってるの?」

「本気だよ。そのシステムが君の年齢を千二百八十五歳と告げたんだ。もし君が十五歳の時にあの場所に閉じ込められたとすると、君が眠っている間に千二百七十年間の時間が過ぎたことになる。君は千二百七十年前に、あの場所に閉じ込められたんだ」


 彼女は眉間に皺を一層寄せて怒りの表情になる。


「馬鹿にしているの!?私が真剣に話しているのに!?巫山戯るのもいい加減にして!!」

「僕は巫山戯ているつもりはないよ。君は遥か昔に神があの場所に閉じ込めるほどの大罪を犯したエンシェントエルフさ」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの綺麗なお姉さん。凄く怒っていたようですげど何かあったのですか?」


 メイが心配な面持ちで聞いてきた。あの後、彼女は酷い剣幕でこの部屋を飛び出して行った。出て行った後に直ぐ近くから乱暴に扉を閉める音が聞こえたので自分の部屋に戻ったのだろう。こうなることは想像にたやすかった。一人で考える場所も必要だろうと、一人でいるのが不安だといった彼女の部屋も返さずに残しておいた。


「もしもマジク様が悪いのでしたら早く謝ってしまった方が良いですよ!」


 癪だがメイの言う通りだ。早めに和解をしてしまった方が良いだろう。僕も勢いで色々と言ってしまった。もっと彼女の心情を配慮して話すタイミングを見るべきだったかも知れなかったと後悔した。


「あぁー!」


 胸に抱いた楓が僕の鼻をぐにゃっと握りしめてくる。痛くはないが直ぐ近くで彼女とのやり取りを見ていた楓にも僕に非があるように見えたようだ。

 早めに謝まろうと行動に移そうとしたら荒々しく扉が開く音がした。続けて階段を駆け下りる音が聞こえてくる。どうも彼女は宿から飛び出して行ったようだ。

 これは丁度良いと思ったら謝ろうとした彼女に対しての誠意を疑われるだろうが、僕としても色々と確かめておかないといけないことがあるので、せめて楓には了承して欲しいと思った。


「お姉ちゃん探しに行こうか。知らない場所に知らない人と知らない言葉。きっとそんな遠くには行けないよ」


 メイがいそいそと外出の準備を始める。楓を背負って廊下に出るとガルドーが部屋から出て来たので、飛び出して行った彼女を捜したてくると伝えた。ガルドーも手伝いを申し出てくれたが断る。彼女の頭の中は不信感で一杯だろう。不信感を抱く原因となりうる相手に追いかけられては逆効果だ。僕も警戒されているだろうが手を繋ぐメイは別だ。無邪気な子供には警戒心が下がるものだとメイを利用する。それに彼女が音を立てて飛び出していったのも彼女の性格を表していた。気が強く、自分が置かれた状況を常に分析していた節がある。自立心がなく他人に頼って来たような人間なら、いまの状況に耐えられずに与えられた部屋に閉じ籠りそうなものだ。自分で確かめずにはいられずに飛び出して行ったのは僕の言っていることが信じられずに、自分の記憶を信じて行動した結果だと思う。自分が間違ってるとは思っていない自分の考えをしっかりと持った強い子なら、こそこそ隠れてずに堂々と行動するものだろう。

 そして、そんな子が自分を信じられなくなったら、きっとその分反動は大きくなる。僕も経験したことがあるが頼っていたものが壊れるのは辛いものだ。


 彼女は予想通り宿から大して離れていない路地で見つけた。膝を抱いて蹲り顔を俯かせている。近付く僕達にも反応しない。現実に打ちのめされるとこうなる事は、僕自身この世界で砦の外に出た時に経験していた。ある意味僕と彼女は似ている。異世界に来た僕と千二百年後に目覚めた彼女は、初めは受け入れられない現実に打ちのめされるところからスタートしていた。まだ僕はまだ幸せである。信頼できる家族という拠り所があって言葉が理解できた。いま彼女を理解できるのは多分僕だけなのに、彼女にとってのたった一人の理解者が信用できない。


「お姉さん、どうしちゃったですか?」


 メイが心配そうに僕を見上げてくる。


「きっと知らない場所に連れてこられて不安なんだよ」

「……それメイも分かります。メイも王都から出たことありませんでしたから。皆さん優しいので、それ程不安ではなかったですけど。全然というわけではなかったです」


 確かに時折寂しがって泣きだすことがあったが、比較的メイは明るいのであまり心配していなかった。だが目はかけて上げたほうが良いのかもと今ながらに思う。

 メイが僕の手を離してエルフの女の子を抱き締めたので驚いた。落ち着きなくて常に動き回っている子だけど、こういった行動力は頭が下がる。抱き締められたエルフの女の子はゆっくりと顔を上げた。


「メイはついこの間に住んでいた場所を追い出されたばかりなんだ。君のことを話したら知らない場所の不安がわかると言って居ても立っても居られないかったみたいだ」


 少し話を誇張して言葉がわからないことを利用させて貰う。メイも彼女の気持ちが少しでも楽になるならば快く許してくれるだろう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 メイは僕とエルフの女の子と間で片手ずつの手を繋いでいて上機嫌だ。エルフの女の子がメイを心配させないようにと無理に笑い掛けているのがわかると、メイを焚き付けた僕の些細な良心が痛む。


「本当に千年も……」


 エルフの女の子が町の喧騒を見ながらしみじみと呟く。


「僕も本当の所はわからないんだ。信用置ける情報元ではあるけど説明のつかない所が多いからね」

「でも本当にそんなに時間が過ぎているのなら、もう母さんも村のみんなにも会えないのね……」


 彼女は自嘲気味に笑った。痛々しい笑顔に憶測で好転する言葉を投げかけるのも簡単だが、無責任なので自重する。


「この世界での生活は心配しなくても大丈夫だよってくらいしか僕には言えないけど。僕の周りはみんな良い人達だから安心して欲しい。それと頼りないかも知れないけど、僕は君のことを守れるぐらいの力を持っているつもりさ」

「あら?守るなんて私を口説いているの?」

「そんなんじゃないさ。僕にも色々あると分かって欲しいだけだよ。君を守る代わりに君もある程度は僕を信頼して欲しいと言うことさ」

「口説き文句にしか聞こえないけど…まあいいわ。契約のようなものね」

「その方がわかり易いなら、そう思って貰っていいよ。僕の優先順位の中で君のことが下回らなければ神からも守ると約束するよ」

「神様に喧嘩を売るのも厭わないなんて、どんな優先順位か聞いてもいい?契約者さん?」

「僕には大事な家族がいる。最優先は家族で続いて僕と関わりのある親しい人達だ」

「私が親しい人達に入れれば、それだけあなたから守って貰えると言うわけね」

「それはこれから君の目で確認してくれればいいよ。僕はこんなだから中々難しいだろうけど」

「そうね、とてもじゃないけど強そうには見えないし、権力もあるようには見えないけど。メイちゃんと赤ちゃんが信頼を寄せている所だけは今は信用するわ」

「いまは、それで十分さ」

「仲直り出来たようで良かったです!」


 メイが笑い合った僕とエルフの彼女を見てそう言って喜んでくれた。


「そうだ少し寄り道しよう」


 僕はメイにすぐ近くのお店を目線で教えて上げる。メイは嬉しそうに大きく頷いて、エルフの女の子の手を引っ張って困惑する彼女を衣類が並ぶお店に連れて行ってくれた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 エルフって僕が知る物語同様に大胆な服が好きなものなんだと知ることが出来た。メイにお金を渡し下着なんかも含めて当面の生活に必要な衣類を揃えて貰ったのだが、超ミニスカ姿で店から出てきたときは道行く男の誰もが鼻の下を伸ばす風景を拝むことになった。興味がなくてもエロイ服装なのは前世の記憶から見ても分かる。この世界で露出の多い服を着ている人を見たのは色街くらいだ。


「私ね、足に布が纏わりつくの嫌いなのよね」


 レノックスの目線には敏感な反応を示す子が着るような服ではないと思うんだが、本人の価値観がそうなのならば僕がどうこう言うものでもないのだろう。


「この服ありがとうね。借りてた服も後で洗濯して返したいから教えてくれる?」

「メイに言っておくよ」


 男物のしかも僕のボロ服で幾らか誤魔化せていた彼女の魅力が大ぴらになったことで、注目が集まり僕に街ゆく男どもの嫉妬の目線が飛んでくるようになった。楓を背負っていることで随分と勘違いされているようだが、今後のことを考えると人の多い町中などでは外套を羽織ってもらうことで露出を減らした方が良いなと脳内の買物リストに入れておく。

 色々頑張ってくれたメイに露店でお菓子を買い与えて、エルフの女の子にはメイとは違うお菓子を買うと仲良く食べ比べをしていた。露店主がサービスをしてくれたのを見て、可愛い女の子は得だなと感心する。

 会話も多くなってきたことだし、そろそろ名前がないと呼ぶのに不便を感じて来た。と言うことで部屋に戻る彼女に宿題を出しておくことにした。


「名前を思い出せるまでの仮の呼び名を考えて貰っていいかな?」

「そうね…分かったわ」

「早いけど今日はもう休むから明日教えて」


 そう言うと流石に今日は疲れたので体を拭いて日が暮れる前に楓のベッドに潜り込んだ。





次話 「弄ばれた男の尊厳」

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