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異世界Baby  作者: 本屋
83/112

83、変態と呼ばれて


 女の子の目がゆっくりと開くと綺麗な銀色の瞳だった。二度三度瞼が開いたり閉じたりして、瞳に少しずつ意思がこもり始める。


「こっ、こんにちは?」

「キャー!」


 思いっきり突き飛ばされた。当の女の子はその場で頭を抱えて(うずくま)る。


「うぅー!凄く頭が痛い!何なのよ!?もう!」

「大丈夫ですか?」


 敵意剥き出しの目で睨まれた。


「あんた誰よ!?私に何かしたの!?」

「僕はマジクで、したと言えばしたというか………」

「ギャー!!!何で私裸なのよ!?何したのよ!?この変態!!!」


 何だろうこの子。状況がよく分かってないようだ。そして僕もこの状況がよく飲み込めていない。どうしよう。管理者とか勝手にそんな仕事押し付けられても困るし、この女の子は面倒臭そうだ。


「私の服はどこよ!?返しなさい!!」

「元々裸だったし」

「そんなわけないでしょ!あんたが脱がしたんでしょ!?」


 あれ?あの鎖がもしかして服だったのだろうか?


「その顔!やっぱり、あなたじゃない!返しなさい!」

「え………返したくても消えて無くなりましたけど………」

「なんですって!消えたってどういう事よ!?そもそも何でこんなに暗くて狭くて…え?檻?」


 女の子がキョロキョロし出しだすと次第に真っ青になってカタカタと震え出した。


「なっ何?ここ?どこ?わっ私どうしてこんなところに?」


 僕と目線が合ってビクッと怯えた表情をした。震えた体を引きずりながら僕から距離を取ろうとする。勘違いされているのは間違いない。


「あの?」

「やめてっ!来ないでっ!!誰か助けて!!」

「えーと誰も助けに来ないと思いますよ?」

「キャー!キャー!!誰か!誰か助けてぇ!!!」


 甲高い声が狭い部屋で反響して耳が痛いかった。


「痛い!うぅー!頭が痛い!何で、こんな酷い目に………お母さん(ママ)……」


 肩が揺れ嗚咽が聞こえてくる。とんがった耳が元気なく垂れていた。初めは気が強くて一方的に捲し立てて来て、面倒臭いものを押し付けられた感じで嫌なイメージだったが、少しずつ同情し始めて来た。この女の子は、なぜこんなところに閉じ込められていたのだろうか。インフォメーションでは大罪を犯したと言っていた。その罪で神が絡む檻に拘束されることになった。そしてダンジョンの奥深くの試練部屋に閉じ込められている。見た目は僕と同じぐらいの歳だが、インフォメーションの年齢は千二百八十五歳のエンシェントエルフ。だが言動は幼い感じがした。エルフと言えばファンタジーの定番種族だ。今までこの世界で見た人間以外の種族と言えば竜人と竜族ぐらいだ。後は見ていないが話の中で邪人に僕自身が間違えられたことがある。神様も存在するがこれは除外して考えるべきだろう。神様が実在するくらいの世界だ。エルフが居てもおかしくない。だが王国の民の中には人間種族以外は見たことがないし、他の種族が共に共存して居るという話も聞いたことがない。この世界には、まだまだ疎いので実在する可能性は捨てきれないのが、いつもの僕の知識の限界だった。

 しばらくして女の子の嗚咽が収まって来た頃に一つの質問をして見ようと思った。


「君さ。千二百歳って本当?びっくりするような年齢だね?」

 

 ピクリと反応かあった。何かぶつぶつ言っているがよく聞こえないので近付いて少し挑発してみる。


「え?よく聞こえないな~千二百歳なんて想像つかないや。僕のお婆ちゃんのまたお婆ちゃんの、そのまたお婆ちゃんのお婆ちゃんでも全然足りないや~」

「そんなわけないでしょ!どこがお婆ちゃんよ!まだ十五歳になったばかりよ!」


 僕は頭を抱える。どうも僕は浦島エルフの管理者に任命されたらしい。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「何なのよ、本当にあなたは!?ボロい格好だし、あっ!もしかして、誰かに命令されて私をここに連れて来たの!?だったらお願い!そんな悪い奴の言うことなんか聞かないで、助けて!」


 さあどうしよう。この女の子の言っていることが事実であるなら、千二百七十年もここに閉じ込められていたことになる。


「君ってエルフだよね?」

「そうに決まってるでしょ?」

「私がエルフ以外の何に見えるって言うのよ!?」

「じゃあ僕は何に見える?」

「何ってエルフじゃないの?そう言えば耳丸いし変な………個性的な顔ね。ハーフかしら?」


 途中で言葉を選んだようだが、変な顔と言おうとしたのはわかった。癪だが自分が決してイケメンではないのは知っているから良いのだと虚勢を張って心の調和を取る。


「………僕は人間だよ」

「ん?ニンゲンって何?ハーフの出身の村の名前?」


 このエルフは人間を知らないようだ。たまたま知らないのか。エルフという種族自体が人間を知らないのかも判断がつかない。


「それであなた。助けてくれるのくれないの?」


 縋るような下から覗き込むような視線を向けてくる。裸の胸元を隠して太ももをクロスして煽情的な姿で裸を隠そうとしているが、先程から頭が痛いと暴れるたびに色々と見えてしまっている。まあ僕は中身がゼロ歳なので何も感じないが。


「助けるも助けないも、今君がこうしているのは僕が君を助けた結果みたいだよ?行きずりだったけど」

「え?それって、あなた初めから助けに来てくれてたってこと?」

「まあ~そうなるのかな?」


 エルフ女の子の顔が一気に緊張から緩む。


「何よ!なら初めからそう言いなさいよ!」

「君が勘違いして一気に捲し立てたんじゃないか」

「何よ!私みたいに可愛い女の子が目を覚めたら裸になっていたのよ!?パニックになるの当然じゃない!」


 一気に元気になって初めの勢い通りに、きつい物言いになって来た。


「あなた助けに来たなら。その服脱いで貸しなさいよ!いつまで私の裸を見ているつもり!さもないと、いくら助けてくれたとは言っても村のみんなに言いつけるわよ!?」

「いやこれ脱いだら僕が裸になるんだけど?」

「鎧があるじゃない!それとも私に裸のまま歩けって言うの!?助けて置いてよく、そんな中途半端なこと出来るわね!?」


 助けたことを今本気で後悔した。助けた相手に追剝にあうなんて不幸以外ありえない。

 

 裸にハーフアーマー。色々とスースーするし裏地に乳首が擦れて痛かった。


「汚いくてボロボロな服ね」


 僕の服を奪って立ち上がったエルフの女の子は背丈が僕と同じくらいだが、華奢なぶん僕の服はぶかぶかだった。匂いを嗅いで渋い顔しながら怒ってくる。助けられた身だと理解しているのに、未だに横柄な態度をとってくるやつだった。

 彼女が拘束されていた所から幾分も歩かない奥に扉があって開けた先には階段があった。階段を登りながらエルフの女の子がちゃんとついて来ているか後ろを確認しつつ、未だに開いたままの個体名の登録ウィンドウを見つめる。棚上げにしていたが取り敢えず行動が出来るようになったので、皆んなとの合流が先決だった。

 階段を登り切ると小さな部屋になっていて、床に魔法陣が光っている。行き止まりなのを見ても魔法陣は転移の可能性が高いが確実ではない。


「行き止まりじゃない?ねえ、ここ何処なの?」

「ダンジョンだよ」

「ダンジョンって何?どこかの建物の中とかじゃないの?」

「地下の迷宮だよ」

「地下って洞窟か何か?やだドワーフの住処なの?」


 エルフに次いでドワーフの名前が出て来た。


「ドワーフって大人になっても背の低いずんぐりむっくりな種族?」

「当たり前じゃない。それ以外にドワーフっているの?」

「いや知らないけど」

「そのなことはいいから真面目にやって!ここから出れるんでしょうね?助けに来たとか格好いいこと言って出れないなんて恥ずかしいことしないでよね!」

「この魔法陣に乗って見て」

「何よ魔法陣って?」

「この薄く光ってあるところだよ」

「あら。なんで床が光っているの?綺麗ね」

「いいから乗って」


 エルフの女の子の腕を掴んで無理やり魔法陣の上に押し込んだ。


「痛い!触らないで!乱暴者!変態!きゃ!何?光がつよ―――」


 エルフの女の子は言葉途中で姿を消した。転移陣で間違いないようだ。僕も後を追って転移陣の上に乗った。


 転移先でエルフの女の子が、床に女の子座りして固まっていたのを見て、顔の前で手のひらを振って反応を見てみる。


「……ちょっと!今の何!?光に包まれたと思ったら別の場所に着いたわ!!」

「ダンジョンの転移魔法陣だよ」

「魔法ってあなた…ぷぷぷ。絵本の見過ぎよ?その歳で恥ずかしわよ?ぷぷぷ」

「魔法知らないの?」

「知ってるわよ?物語の定番設定ね!」


 これは驚いた。ファンタジーでエルフと言ったら魔法や弓のスペシャリストのイメージだが、本当に知らないのだろうか。


 【 ほのおよ 】


 試しにエルフの女の子の目の前で、手のひらに火の玉を浮かべて見せた。


「へ?………手品?」


 目をきょとんとさせて手品呼ばわりした。その反応はこの世界に来たばかりの僕も経験したので分からなくもない。


「中々上手じゃない手品」


 少し強がっているのがわかる。僕は弁解せずにそのまま進むことにする。彼女に説明するのに時間を割くのは後回しだ。転移先の雰囲気は先程までと違って上層のようだ。ならば大した時間もかけずに地上に戻れるだろう。予想外のトラブルにきっと皆んなも探求を中止してダンジョンを出る選択をしているはずだ。ガルドーなら必ず、そう判断する確信に近いものがあった。ならば上層に出た僕達はダンジョンを出る事を目指す。もしダンジョンの外で待って居なかったら、捜しにダンジョンに引き返せば良いだけの話だ。


「罠とかあるから僕の歩く道をなぞって来てね。足元をよく見て僕の置いた足と同じ所に足を置いて着いてくるんだ」


 僕は少し威圧をかけながら、エルフの女の子に言った。初めて見る僕の様子に彼女は真面目に反応する。


「罠なんてあるの?本当に?ドワーフの洞窟に?」

「とにかく着いて来て、出れるまでそんなに距離はないと思うから」

「わっ、わかったわ」


 エルフの女の子は緊張した面持ちで僕の後をついて来た。危ない罠が見受けられるところは細部まで足の置き場を注意喚起する。最上階に転移されていたようで三十分も歩かないうちにダンジョンを出ることができた。


 ダンジョンの出口では、みんなが笑顔で出迎えてくれたのだが、直ぐに呆れた顔になっていく。

 僕は裸にハーフアーマーだった事をすっかり忘れていた。

 




次話 「レノックスの一目惚れ」

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