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異世界Baby  作者: 本屋
75/112

75、メイとディナスと


 王都滞在七日目は本当に本当の滞在最終日だ。今日は昼前からディナスが代表に就く全属性信仰の王都支部に赴くことになっている。全属性信仰の王都支部は王都区の南西にあり、王都のダンジョンの更に西に趣ある佇まいで存在していた。

 面倒なことに僕が楓を連れて行くと言うと、メイが一緒について来ているという。


「誰に会おうともダンジョンの神の元では全てが平等です!」

「いや、その考えは他の神様見下しているようにも捉えられるから」


 大事な用だから付いてくるなと言ってもダンジョンの神がどうのこうのと、まるで話にならない。こんなに面倒なやつだと思わなかった。


「待っていたぞ!魔王よ!」

 

 その上に今日会う事になっているディナスも一味違う面倒な奴だった。


「魔王とはマジク様のことですか!?」

「そうだぞ!」

「なんだか格好が良い響きですね!」

「そうだろ!お前話のわかる奴だな!」

「お前じゃないです!メイです!貴方も良い趣味をなさっておりますね!」

「私のことはディナスと呼ぶか良い!」

「ディナス様ですね!覚えました!」


 暑苦しい二人が自己紹介だけで盛り上がっていて、今すぐ帰りたくなった。


「ディナス様、今日は何のお話があって招待を?」

「大した用はなかったがな!武神十四信仰宗家が招待するのだ、我ら全属性信仰も招待しておいた方が面子を保てると言うものだ!」

「はしたないですね!ダンジョンの神は面子など気にしませんよ!」

「メイ!貴様はダンジョンの神の信徒か!?」

「ふっふっふ何を隠そう、メイは巫女なのです!」

「貴様はダンジョンの神の巫女だったのか!」


 テンションの高い二人のやり取りに、胃がむかむかして来た。話を折るように世間話に花を咲かされて気分を害さない方がおかしい。


「お二人ともそのまま話し続けるなら、僕は帰りますよ」

「いや待て!魔王よ!」

「その魔王って呼び名は止めていただけませんか?」

「なんでだ?魔の王という敬称が気に入らないと申すのか?本気で思っておるな!我等全属性信仰最高の名誉ある呼び名だぞ?なぜ気に入らない!?魔王ごときでは納得できないというのか?これ以上だと大魔王か?」

「勝手に飛躍しないでください。普通にマジクと呼んで欲しいのですよ」

「そうか!同じ魔の道を歩む者として友になりたいと申すのだな!」

「友とかは別にして、魔王と呼ばなければ取り敢えずは良いです。というかディナス様は能力で僕が本当に嫌がってるのわかってますよね?」

「何を言っている!友となった相手に能力を使うわけがないじゃないか!」

「何ですかその顔は、オーバーリアクション過ぎて全く信用なりませんよ?都合の良い方ですね」

「素晴らしい出会いに感謝しよう!新しき友マジクよ!共に魔の道を極めようじゃないか!?」

「美しき友情愛ですね!ダンジョンの神より祝福があるように祈りましょう!」


 一緒にしてはいけない二人だったようだ。


「メイ様?あまり騒ぎますと帰って貰いますよ?」


 メイが慌てて手で口を押さえた。まるで口が自分の意思とは別に勝手に話しているとでも言うようだ。


「それでディナス様、話が全くない訳でもないんでしょう?」

「そうだな………お前の魔法の使い方に興味があるぞ?」


 ディナスは何かないかと一呼吸考えてから聞いて来た。聞かれるのではと予想して来たものだった。僕の魔法を見た者は皆、共通の疑問を口にする。何であの歪な魔法構成で魔法が発動すると。


「お前は頭がおかしいだろ?普通魔法は混ぜないぞ?」

「え?そこ?」


 思わず口に出して聞き返してしまった。


「何だ?構成が変だとか聞かれると思ったのか?」


 口元に笑みを浮かべて聞いて来た。本当に能力を発動して僕の噓を見抜こうと画策していないのだろうか不安になる。ディナスはとても楽しそうだった。


「見くびられては困るぞ。これでも魔法に関してはそれなりだと自負している。行使出来ている以上、お前の魔法構成に難癖つけるつもりはない」

「それは結果が全てみたいな考えですか?」

「それもあるがお前、クリエイト持ちだろ?」

「え?何ですか、そのクリエイトって」

「魔法を想像して自在に行使できる特殊能力者のことだ。そうでなければ、お前の魔法は説明つかないからな」


 僕の選択された能力の枠の中に<クリエイト>なんて能力は勿論無い。あるとすれば<全魔法特性9+Ω>の【+Ω】が怪しくなる。


「三百年ほど前に固有の魔法を使いその強さを持って、当時の魔法使いの地位を格段に上げた偉人がいたと言われている。その魔法使いが<クリエイト>と言う特殊能力を持っていたそうだ」


 実在にいた過去の偉人が持っていた能力。当時の<鑑定能力>の保持者にでも調べてもらったのだろうか。


「誰にも真似できない魔法構成で複雑な効果を発現し、その魔を自在に操る姿を見て魔の王、魔王と言われた魔法使いだ」


 ディナスがしてやり顔で僕を見る。僕のことを魔王と呼ぶだけの理由がそこにあった。


「私は期待をしているのだよ。だが馬鹿では困る。前魔王も奇想天外な魔法を行使しては、周りのものに迷惑をかけていたと言い伝えがあるから、魔王と成りし者の特有な悪癖なのかも知れぬがな!」


 ディナスが大笑いして釣られてメイも笑い出した。


「お前には他にも、特殊な性癖などがありそうだかな!ガッハッハ!」

「がっはっは!」


 十歳の少女が性癖で笑ってはダメだろうに。昨日の火事騒ぎの顛末を既に掴んでいるような言い振りに、トライセルを情報戦で欺いた力を見せつけているように思えた。昨日のことに関しても特殊な性癖を誇示したわけではない。僕は恥ずかしくないだけで別に露出することで楽しんでる訳でもない。さそもそも性癖などまだ持ち合わせていない。


「そうそう一つ大事な提案があった。どうだ友よ。ライドラに来ないか?魔物相手に事欠かないから、好きなだけ魔法をぶっ放せるし。お前ならライドラの女が選り取り見取りで放って置かないこと間違いなしだ!多少の性癖も見逃してやろう!良い話だと思わないか!?」

「いいえ遠慮して置きます」

 

 僕は冷めた態度でディナスの提案を断る。僕の即答した態度にディナスが思考の間を空けた。


「………ふむ、お前は魔法の使うのを怖がっているだろう?初めは強すぎる力に恐怖を感じているのかと思っていたのだが、どうも違うようだとわかった。制御に不安があるのだろ?」

「………本当に能力を使っていないんですか?」

「なんだ疑っているのか?ならば全属性の神に誓おう!」

「まあいいです。ディナス様の能力を知った上で僕も知りたいとは思う案件なので」

「どうだライドラに来れば、その恐怖消してやれるぞ?」

「それは対処法を知ってると言ってるように聞こえますが?実は竜人様に歪な魔法の行使は危ないから使うのを止めろと言われました。間違えれば周囲の空間ごと消滅すると」

「だから、その不安を取り除いてやると言っているんだ。だがライドラに来ればの話だ」


 これ以上にない魅力的な話だった。悩みどころの一つを解消してくれるという。ディナスが言うライドラへの誘いが一時的な来訪なら問題ない。だがディナスが言っているのは永続的なライドラ領への移住を意味しているに違いない。


「トライセル殿下に組したままで構わないぞ?ピークトリクトから何人連れて来ても構わない。お前の周囲の者も含めて全ての面倒と生活の保証をしよう。お前を縛り付けている金銭的な問題も解決してやる」


 伊達にトライセルを出し抜くだけの情報情報収集能力を見せていないという事だ。ピークトリクトでの僕の情報も調べ込んでいるのがわかる。だが足りたいないものがある。僕とバーナデットの関係だ。それを知った上で持ちかけているのか、簡単に切れる関係だと思っているのかは分からないが、ここまで調べ上げる人物だ。一杉縄ではいかないだろう。トライセルからも油断するなと忠告されていたのを思い出す。


「魅力的ではありますが、無理です」

「そんなこと言うな!友達だろ!ライドラで共に楽しもうじゃないか!」


 あれ?これ遊びかなんかの誘いだっけ?


「楽しそうですね!メイも行きたいです!連れて行ってくださいね!」

「行かないよ」

「何でですか!?ライドラって美味しいものが一杯あるらしいですよ!」

「どこから仕入れた情報なの?」

「神殿じゃその話で持ちきりでした!」

「食べものの話で盛り上がる神殿の人達って、なんか幸せそうだなって何で泣き出すの!?」

「皆んなに会いたくなりましゅた!うぇ~ん!」

「お前達といると楽しいな!よしこのままライドラ行っちゃうか!?」

「ぶぇ~ん!」

「まあいい一度遊びに来い?友ならそれぐらい良いだろう?お前には良い切っ掛けになるかも知らんぞ?」

「考えて起きます」

「ぶぇ~~~ん!!」


 王都滞在の中で一番平和だった日であったのは間違いない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「アキちゃんのおむつ換え完了であります!」

「メイちゃんご苦労様~」


 メイが任務を終えて母に敬礼する。たった二日でうちの家族に馴染んでいるメイの様子を横目に見ながら、楓とアキちゃんの相手を交互にする。メイは小さい頃から神殿での下積みをしていたらしく細かい片付けや赤ん坊の面倒をテキパキとやっていく。口が達者で落ち着きがないので常に騒がしくはなったが、僕がマジクに変身して母の手伝いをする必要がなくなったのは、ユウキとして長く時間を過ごせそうなので歓迎すべきなのかも知れない。メイは年齢が十歳ぐらいだそうだ。年齢が憶測なのは誕生日を知らないからだそうで、仮の誕生日は与えられているとのことだ。神殿ではそう言った子達には年に一度のダンジョンの神の感謝祭と同じ日に誕生日が与えられて、王国中で行われる感謝のお祭りと一緒に誕生日も祝って貰っているという。

 ダンジョンの神の感謝祭は年に一度、日頃の祝福や加護を与えてくれるダンジョンの神に感謝の意味を込めて盛大に行われる大きな祭りで、メイも毎年楽しみにしているそうだ。そんなメイが巫女姫となったのは二年前で、たまたま迷い込んだ大聖堂にあった神壁の神語を目にしたのが始まりだったそうだ。楓が消えた神殿の大聖堂にあった壁は、神の言葉が綴られた神壁と呼ばれていて神殿ではダンジョンの神が宿る壁として、神殿が建てられて以来守り続けてきた神の遺物らしい。神殿関係者にも一部の信徒にしか知らない聖なる壁となっているそうだ。


 メイは我が家になじむのが早い。メイ自身が我が家の事情をよく分かっていないのもあるが、マジクが居なくても初めからそういうものなのかと疑問にすら思っていないようだ。あまり細かいことを気にしないようなので、このまま暫く説明するすることなく過ごしてみようと思う。僕がマジクでいるときは楓を連れているので、メイも当然のようについてくる。僕と楓がセットになっていて、メイも新しいセットの一員になると、僕がいない時にユウキとメイが二人揃う機会がまずないので、偽のユウキを用意しておく必要もないから好都合なのかも知れない。

 

 それと………


「あきちゃん、いたいでちゅ」


 思わず僕が喋ってしまったところをメイに見られて驚かれてしまったのだが、メイの驚きは別の方向だった。


「神殿にもいましたよ!?祝福されて急に口が達者になる子!ユウキはダンジョンの神に祝福されてたんですね!驚きました!」


 どうもメイの言っているのは喋りが片言だった子が、ダンジョンの神の祝福を受けて何らかの能力を得ることで口が達者になったことを言っているようだが、まあこれも都合よく誤解釈してくれているので、このまま誤解させておく事にした。だが何でもダンジョンの神の祝福だという考えを教育している神殿のあり方には疑問を覚える。神殿の外での生活を考えていない無責任な教育だ。現にメイはこの先、神殿から離れたことで苦労していくかも知れない。

 今の所メイが我が家の輪に混ざっても、より賑やかになっただけで居心地が悪くなるどころか、良くなっている気もするので結果的にはオーライだ。目下の問題はアキちゃんの下前歯が生えてきた事で、やたら噛み付いてくる事だ。油断をしていると手の指や足の指に噛み付かれて痛い。

 明日からのピークトリクトの帰りの道中はユウキとして昼寝三昧と思って居たのに、噛み付きアキちゃんの御降臨で、一気に予定が不透明になってきた。

 荷物を纏めるのは既に終わって居て、不要なものは今日のうちに行きの道中にもお世話になったベビーベッド付きの馬車に積み込み済みである。荷物の殆どは母の趣味の裁縫で使う布や糸だった。行きにはなかった大きな荷物はメイ本人くらいで、メイ自身は王都から出るのが初めてらしく、かなりの興奮具合だった。帰りは行きよりも数段と賑やかな旅になる事は決定済みだ。

 なにはともあれ移動にかかる五日後にはピークトリクトの我が家に到着予定である。王都では領館で贅沢な生活をさせて貰ったが、やはり我が家が恋しくなって来た。長かった王都の滞在とお別れの最後の日が訪れる。





次話 「ダンジョン探求計画」

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